「えーっと、うーんと、どうしたのものでずかねー」
またも言葉に訛りを出しながらムツヤはうんうんと悩んでいた。
サズァンはそんなムツヤを見て問いかける。
「そもそもなんで急に最上階に行きたいなんて思ったのかしら? いつもテンタクルドラゴンきもいーくさいーって言ってあの階より上に近付きもしなかったのに」
テンタクルドラゴンという名前は知らなかったが、会話の中から例の触手トカゲの事を言っているのだとムツヤは理解した。
「えーっどですね、なんずったらいいか、ウチのじいちゃんが外の世界は危険だからって、せめてあの塔の最上階に行くぐらいは強くならなくちゃダメだって言っでてそれで」
それを聞いてサズァンは今日一番の笑い声を上げた。
クスクスなんてものじゃない、口元を隠していた手をお腹に当ててもうゲラゲラとだ。
「あなたねぇ…… あなたもおじいちゃんも正気で言ってるのかしら? ここまで来られたらもう外の世界のモンスターなんて寝ながらでも倒せちゃうわよ?」
笑いすぎて目に涙を浮かべたサズァンの言葉にムツヤは衝撃を受ける。
強いと信じていた外の世界のモンスターを寝ながら倒せるなんてと。
「っていうかあなたのおじいちゃんってタカクよね? まだ元気にしてる?」
ムツヤには驚きの連続だ、目の前の邪神は自分の祖父のことを知っていたのだ。
「え、えぇ、最近ちょっどー弱ってきちゃいましだけんど、まだまだ元気だって言ってまず。サズァン様はじいちゃんの事を知ってるんですか?」
その質問をするとサズァンはふっと軽く笑ってムツヤから目を逸らして言った。
「むかーし、ちょっとねー。それよりどうするの? 私を倒して最上階まで行くの?」
ムツヤは腕を組んで考える、外の世界のモンスターは案外大したこと無いんじゃないか。
しかし、強さの証明の為には最上階へ行かなくてはならず、行くためにはサズァンを倒さなくちゃいけないけど、倒したくない。
でも、外の世界には行ってみたい。
ぐるぐると思考を巡らせた結果ムツヤが生み出した結論はこうだ。
「嘘ついちゃうか、じいちゃんに」
ムツヤはぼそっとそう言った。
右の人差し指を頬に添え「あら、それで良いの?」とサズァンは聞き返す。
「一番上まで行っだっでじいちゃんに嘘付いて外の世界に行きます。俺はサズァン様と戦いたくないですし」
「ふふっ、そう」
笑顔を作った後にサズァンはムツヤの元へ近付いてくる。
ふわっと香る今まで嗅いだことの無い良い香り。綺麗な花を目の前に散りばめられたような甘い香りだ。
「私はこの塔から外に出ることは出来ないけど、あなたにコレをあげるわ、私も退屈だから外の世界を見てみたいし」
サズァンはムツヤの手を両手で握り占めるようにして紫色のガラス玉付いたペンダントを渡した。
邪神とはいえ初めて異性に触れたことで胸の高鳴りが一周して気絶しそうになる。
頭に残った印象は温かくて柔らかかったという事だけだ。
「コレを付けていれば、困った時に助けてあげられると思うわ。と言っても直接手出しはあまり出来ないからアドバイスしてあげるだけだけど」
フフッと笑ってサズァンは続ける。
「後はどうしても寂しくなったらこの塔に戻ってくるのよ? いつでも私がたっぷり慰めてあげる」
恐ろしい邪神様なのだろうが、案外いい人、いや、いい神なのかもしれないとムツヤは思い、決心して言うことにした。
「サズァン様、俺のハーレムに入って貰えませんか?」
5秒間ぐらい静寂が流れる。
最初はポカンとした表情をしていたサズァンは次第に笑いを我慢するような表情になり、また両手で顔を隠して後ろを振り返った。