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第77話『最終試験通達』

 豪勢な料理が目の前に並ぶ。

 昼食の時も思ったけれど、随分と寂しくなってしまった。

 今更だけれど、先生たちはどこで食事を摂っているのだろうか。

 ……もしかして、僕たちはこんなに良いものを食べさせてもらってる代わりに、先生たちは控室のような場所で弁当だけ、なんてことにはなっていないよね……。

 もしもそんなことになってしまったいたのなら、ごめんなさい……そして、ありがとうございます……。


「どうかした?」

「先生たちってどうしてるのかなって」

「ああ……たしかに」


 桐吾も僕と同じ結論に至ったようで、キョロキョロと先生たちを探すも、若干気まずそうにしている。


「先生たちに対する尊敬の意を忘れないようにしよう」

「……そうだね」


 僕たちはしんみりと顔を合わせて頷いた。


「じゃあみんな、食べ始めよう」


 それぞれが手を合わせ、食事の時間が始まる。

 食べ物を口に運びつつ、あちらの長机に視線を送った。

 昼食時と角度が違うからなのか、それとも顔を合わせた後だからなのか、すぐに兄貴を発見。


 今更だけど、兄貴の背中姿は特徴があるというわけではない。

 髪型は少しツンツンしているぐらいで、特徴的なものはなく、雑喉がそこまで高いわけでもない。

 あえてその中で捻り出すならば、あのガタイの良い骨格ぐらいか。

 ……そういえば、昼食時は長袖を着ている人が多かったからわからなかったのかな。

 今半袖の兄貴の後ろ姿は、袖から出るムキムキな腕や脚を見れば一目瞭然。

 まあ、知ってしまえばそんなものか。


 あれ? そういえば光崎さんはが居ない?


 と思っていたら、もはや光崎さんのお決まりになっている登場を遂げる。

 ここからは遠いところにある入り口をバンッと開け放ち、光崎さんが飛び込んできた。

 そのまま光崎さんは階段を駆け上がり登壇。

 中央部まで行ったところで急停止。


「やあやあみんな! 美味しいご飯は堪能しているかぁ~?」


 耳に手を当て、みんなの声を収音しようと体を乗り出している。

 当然、誰も喚声を上げない。

 と言いたいところだけど、なぜか結月だけはノリノリで「イエェーイッ」と拳を突き出している。


「うんうん、みんな元気そうで何よりだよっ。さてさてさて、ボクもお腹ペコペコだからもう用件を言っちゃうよー! そーれーはー、最終試験だぁー!」


 僕は食べる手を止める。

 前進に緊張が走った……というのに、結月は相変わらず合いの手で参加しているものだから、どうも緊張しきれない。


「もうここに居るみんななら薄々気づいていたと思うけれど、ズ・バ・リ対人戦だぁ!」


 やっぱり、そうだよね。

 たぶん光崎さんが言う通り、ここに居るみんな、上級生含んでわかっていたと思う。

 あれ、今更だけど、光崎さんは試験内容を知っていてそれを隠していたのかな。

 言いたくても言えないというのに、演技力が高いのだろうか。


「ちなみに、ボクは最終試験だけ決める権限がなかったんだ。だから、ついさっき、というか今の今まで知らなかったんだ。だから、これは先生方が決めたってことだね。ちなみに、ボクに権限があったのなら、最終試験は大食いにするつもりだったよっ!」


 はい? それはさすがにハチャメチャすぎません?

 そんでもって結月、「うおぉぉぉぉぉっ」とか雄叫びを上げて、それはそれでありだったみたいに反応するのやめて。

 こんなところまで来て、あんなに大変な試験を乗り越えて最終試験が大食いって……絶対に無しでしょ。

 でももしかしたら、その方が平等性があるのか……?

 ダメだダメだ、結月があまりにもノリノリすぎて、試行が引っ張られてしまった。

 もしもそんなことになったら、負けるに決まっ――あれ、案外……?


 そんな思考回路が乗っ取られた感覚を味わっていると、光崎さんは話を続ける。


「じゃあ最後に、開始日時だよ。さすがにこの後はやらないし、朝食後にもやらない。昼食が終わって少しになったよ。そんでもって、試験終了したらそのまま超特急で学園に戻って表彰式って感じ。ちなみに、そんな感じだから昼食の時間は早まるから遅れないようにね~」


 全てが超特急なスケジュールだ。

 まあそもそも、この会場へ来た時もそんな感じだったし、今更疑問に思う方がおかしいか。


「それじゃあおしまいっ。ボクもご飯を食べるよ~!」


 光崎さんはいつも通りに話をたたんで、階段を無視して飛び降りて自席へ駆け向かった。


 僕はみんなの方へ視線を戻す。


「みんな、予想は的中した。幸か不幸かは置いておいて、細かい打ち合わせができる時間はかなりある。今から言うのもあれだけど、みんな焦らないように」


 みんなはただ頷いてくれた。


「だからまあ、今は光崎さんみたいに目の前の食事を楽しもう」


 僕の言葉にみんなの顔から緊張の色は消えた。


 不安要素はいくらでもある。

 相手の構成が未知数のまま対人戦を行うというのは、もうそれだけでリスクを伴う。

 それに、全部ではなくてもあちらには光崎さんと兄貴が居る。

 ということは、全部ではなくても僕の思考パターンを知られているということ。

 加えて相手の方が一年も多く経験を積んでいる。

 以前、どんな策を用意したとしてもこちらが不利というのは変わりない。


 ――だけど、大丈夫だ。

 僕たちは勝つ。

 不安があっても、心配はしていない。


 僕は1人じゃない、みんながいるんだから――。

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