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第64話『残された時間で対策会議』

 僕たちは円を描くように、会場に再び集合していた。


「次の試験について対策会議ってほどじゃないんだけど、話をしておこう」


 激しい戦いをしたり頭脳戦をするわけではないけれど。


「光崎さんがもうほとんど全てを話してしまったから、あの内容通りなんだと思う。誰と戦うわけでもない、自分との戦い」

「なんだか微妙な心の持ちようだよね」

「ねー。自分との戦いって言ってもなぁ。毎日訓練してる人は相当強いってこと?」

「どーだろーね。私は練習でやってみたことがあるけど、かいちょーが言ってたみたいに、スキルの使用者によって全然違うよ」

「うん。それと同じく、持ってるものが強い人ほど自分に打ち勝てる」


 美咲と彩夏のやり取りに、経験者であろう結月が話に乗り、桐吾も。

 流石に『刀一族』というのはひと味違う。


「なるほどね。つまりは、先生ぐらいになってくると難しくなるってことだね」

「で、でも、それってつまりは学年なんて関係なしに難易度が高いってことだよね」


 叶が言っていることはその通りだと思う。

 それに、一華が言っていることも正しい。


 全員が同じ条件で、難しいし、どこでも脱落してしまう可能性がある。


「でもさ、せっかくここまで来てリタイアってのは嫌だよな」

「だよね。ここに来て絞り込みに来ている印象を感じるね」


 一樹の不安は本当にその通りだ。


「うん……でも確かに、今までの試験っていうのは、パーティを先に組んでいた人たちの特権みたいなところがあったし。それに、今回の試験に限っては、焦ってパーティを組んだよな即席パーティもいるはず。たぶん、そういう人たちを落とす役割もあるんじゃないかな」

「なるほどな。言われてみればそうだな」

「最終試験へ足を進むことのできるパーティの厳選ってことだね」


 そして、桐吾が言う通り、たぶんここで多くのパーティが脱落すると思う。

 パーティメンバーの半数以上がクリアすれば良い、というのは聞こえが良いけれど、逆を言えば半数がクリアできなければ強制リタイア。

 今まで頑張ってきたというのに、とても残酷だと思う。


 そして、今まで以上に不明瞭。


「制限時間は1人三十分。僕も一度だけ幻覚スキルを経験したことがある。あれは、本当に光崎さんが言っていた通りなんだと思う。攻略をしようと思ってできるものではない、そう感じた」

「いろんなことを聞けば聞くほどそう簡単にはクリアできなさそうだね」

「でも、みんななら大丈夫だとも思う」


 あれ、みんななら?

 じゃあ、僕は?


 光崎さんはこうとも言っていた。

 心に傷を負っているものがある人間にとっては、かなりの苦行になると。

 前回は、直近で急がなければならない、行かなければならない場所があった。だから抜け出せた。

 じゃあ今回は? みんなが居るから、今の僕はどこか安堵している。

 みんなが居るから……みんながクリアしてくれるから、僕がダメでも大丈夫だって。


 こんなにも冷静なのは、そういうのがあるからじゃないのか。


 嫌な記憶、尾を引き踏み続けられる影。

 僕には様々な思い当たりがある。

 そのどれもが忘れようとしていたのに、忘れていたはずなのに。

 毎日のように見る悪夢が、昨日見たあの人たちが、僕にとっての最悪を思い出させる。


「志信くん、大丈夫?」

「……ごめん美咲。ちょっとだけ考えごとをしちゃってて」

「だよね。私もいろいろと考えてみたんだけど、考えれば考えるほどなんだかわからなくなっちゃう。あれかな、こういうのって、友情とかそういうのが大事だったりするのかな」

「なにそれ、美咲にしては随分とらしくないことを言ってんじゃーん」

「彩夏、私は本気で考えてるんだよっ」


 確かに、美咲らしくない考えだ。

 明言できるわけではないから、否定することもできない、けど。


 それにしても、彩夏が美咲の意見に対して腹を抱えて笑い始めるものだから、美咲は腕を上下にブンブンとしながらプンスカと怒ってしまった。

 だけどそれも美咲らしからぬ行動で、彩夏は追加で指を差して笑い始める。

 その甲斐あってか、緊張感は吹き飛んで笑いが起きた。


「案外、美咲が言ってることは正しいのかもね」

「えっ! 叶ちゃんまでらしくないことを言い始めた」

「何を言ってんのさ。光崎生徒会長はちゃんと言ってたでしょ。夢がある人、目標がある人、なりたい自分がある人、そう言う人は今回の試験にめっぽう強いって」

「言われてみれば、そんなことを言っていたような」

「だから、志信は言ってくれたんでしょ。みんななら大丈夫だと思うって」

「そう――だね」

「誰が一番気持ちが強いかなんて、誰にもわからないけれど、ね。一華なんて幻覚の中でも泣き喚いてそう」

「私は誰かの前で泣き喚いたことなんてありませーんっ!」

「ふぅえぇーっって」


 結月が「わかるーっ」とか笑い始めるものだから、みんなもつられて笑ってしまう。


 話をしている内に、上級生が何人も出入りしている。

 喜びを露にしている人が居れば、肩を落している人、謝罪を述べてる人といろいろと。

 中には、体を震わせている人も居る。

 嫌な記憶を無理やり掘り出されるんだ、そういうことにもなる可能性があるということ、か。


 現時点の進行状況はどんな感じになっているんだろうか。


「皆さん、そろそろ順番が回ってきますので、準備をお願いします」


 その声に振り返ると、そこには数枚の紙を持った西鳩先生が立っていた。


「そして、順番をお伝えします。最初に3人、桐吾くん・結月さん・一華さんになります。次に、彩夏さん・叶さん。最後に、一樹くんと志信くんです。では順次移動していくのですが、行き先は部屋の前に設置してある椅子ですので、そこで名前が呼ばれるのを待つようになります」


 みんなは返事をし、各々が深呼吸を一度だけしている。


「じゃあまずは、桐吾くん・結月さん・一華さん、移動を始めましょう」

「行ってくるね」

「行ってきまーすっ」

「行くね」


 残るみんなは、各々が激励の言葉を送った。

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