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第62話『悪夢は続く』

 ここは……?


「うっ」


 ズキン、と頭が痛む。

 直近で頭をぶつけた記憶はない。


 だけど、その痛みの正体をすぐに思い出した。

 ダンジョン内でみんなとはぐれてしまい、別の人たちと組んでいる。

 幸か不幸か、ダンジョン内で人に出会えたというのは運に味方されている、と感謝しきることはできない。


 なぜなら、相手が相手だからだ。

 人数は、自分以外に7人。


 その誰もが今の学園に居る生徒ではなく、だけど誰1人として鮮明・・に憶えている。

 顔に黒い靄が掛かった彼ら彼女ら。


「そういやさ、アコライトって何ができんだろうな」


 そのような内容で話し合う声が聞こえてきた。


「荷物持ち以外にあるの?」

「さあな」


 少しの間、そんな内容で話をする彼らからは少し距離を置いて、僕は居る。

 話が終わったようで、僕に向かったありえない提案が飛んできた。


「おい、モンスターの釣りってできるよな?」

「後、モンスターのタゲ取りもできるんじゃない?」

「え……?」


 そんなのできるはずがない。

 後方支援のアコライトが、最前線に出てそのようなことができると、誰が思いつくんだ。

 どうやったらその結論が導き出されるんだ。


 回復とバフしかできないのに、どうして。


「返事はねえけど、まあやってみたらわかるだろ」

「だねだねっ。早速やってみよー!」

「でも……」

「あ? なんか言ったか?」

「それマジ?」

「いや、何も」


 その一対複数という圧力は、全身にのしかかる。


 何を言っても、何を言おうとしても、それ以上口が動かない。

 だから従うしかない、これ以外の選択肢がない。


「じゃあよろしく、な」


 僕は独り歩き出した。


 選択肢、それなら他にも沢山あるのかもしれない。

 ここがダンジョンならば、ここから逃げ出してしまえば、金輪際顔を合わせず生きていくことはできるだろう。

 だけど、それは僕がアコライトでなければ、の話だ。

 モンスターと戦闘する手段を満ち合わせていないまま闇雲に走り出せば、その末路なんて誰にだってわかる――死。

 だから、どれだけ罵られようと、どれだけ蔑まれようと、従うしかない。


 少しだけ歩くと、モンスターはすぐに発見できた。

 後はこのまま数体引き連れて、彼らのところまで行けばいい。

 そう考えれば、そう難しくない役だ。


 よし、やろう。


 地面に落ちていた小石を拾い上げ、四足歩行の犬型モンスターへ投げる。

 直撃はしなかったものの、近場に落ち、狙い通りに振り向いた。

 すぐに二体がこちらに駆け出す、追いつかれる前に駆け出さなければ。

 僕はすぐさまに、みんなのところへ駆け出した。

 そこまで距離はなかったはず、後はこのまま……――居ない。


 どういうことだ。

 どうして、居ないんだ。


 思わず足を止めてしまう。


「……は……?」


 すると、棒立ちしている僕の背にモンスターはタックルをしてきた。

 完全に無防備で体から力が抜けていたため、僕はそのまま地面へと膝と腕を突く。


 次に脇腹。


「うぐっ」


 攻撃の威力そのままに、半転。

 背中を地面に、仰向けになってしまう。

 当然、モンスターは追い打ちをかけてくる。

 僕は反撃することができない、なんとか盾と腕で払おうとするけれど、腕に噛みつかれた。


「やめろ、やめろっ」


 必死に抗う。

 だけど、それではモンスターを倒すことはできない。

 体の至る所から血が滲み出始める。


 最悪な状況は加速。


 あろうことかモンスターの数が増えていた。

 絶体絶命、脳裏に過るのは"死"。


 くそっ、くそっ――くそ!

 なんで、なんでだよ。

 僕が何をしたっていうんだ、何だって言うんだ!

 死ぬのか、僕が? なんで?

 こんなところで? なんで?

 死にたくない、死にたくない、死にたくない。


 ――このまま、僕は死ぬのか。みんな、ごめん…………――――


(はっ)


 僕は急激な覚醒で体を起こす。

 額には汗が滲み、首元を伝う汗。


 これはいつも通り、そう、いつも通り……ではなかった。


「おはよう」

「……おはよう」

「大丈夫? うなされてたみたいだけど」

「ちょっとね、悪夢を見ていたんだ」


 不注意だった。

 新鮮な場所に少しだけ浮かれてしまっていたのかもしれない。

 前回のお泊り会の時は、しっかりと注意していたのに。


「桐吾は随分と起きるのが早いんだね」

「なんだか、ね」


 桐吾は既にジャージへと着替えていた。


 少しだけ見渡すと、一樹は気持ちよさそうに寝息を立てて眠っている。

 そして、窓から射し込む上りはじめの陽の光りに目を細めた。

 だけど、それは桐吾の配慮なのだろう、僕と一樹には当たらないようになっている。


「そっか。せっかくだし、志信も行く?」

「そうだね、行こうかな」


 この状況でこのまま話をしていては、配慮の意味がなくなってしまう。


 僕は配給された体操着を取り出し、桐吾と一緒に早朝ランニングへと向かった。

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