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第51話『課題解決に向けた今後のこと』

「みんなお疲れ様」


 各々の体調が回復した後、一カ所へ集合して座っている。


「もう少しだけ時間はあると思うんだけれど、少しだけ話し合えたらなって」

「不完全燃焼で終わるより、その方がいいよ。まあ、結月はまだまだやりたいって感じだけど」

「お、叶ーわかってるじゃん。じゃあ、私たちだけ抜け出してやりあっちゃう?」

「いや、志信と私の話を聞いてた?」

「ぶー、ぶー」


 膝を抱えながら体を揺らし不貞腐れる結月。

 味方をするわけじゃないけれど、僕もその気持ちは理解できる。

 だけど、これが授業中であり、時間で区切られているのだから仕方がない。

 この授業が一日の最後であったのなら、また話は違ったのだろうけれど。


「じゃあ、即興だけれど反省会をしよう」


 残り時間はそこまで多くはないと思う。

 だけど、だからこそ、なんちゃらは熱いうちに打てという言葉がある通り、記憶が鮮明のときに情報を整理したい。


「……と言っても、今回は全貌を知っている人が居ないから、号令を出した人が意見を出していこう」

「じゃあ、最初は私だね」


 美咲へみんなの視線が集まる。


「志信くんと叶対結月と彩夏の戦い。結果的には勝敗が付かない引き分けに終わったけど、個人的には志信くんたちの勝ちに見えた。守りと攻めの構図だったからこそ、それが如実に出たのかなって思う。だって、一方的に攻撃しているのに攻め切れてなかったし、体力の消費具合も目に見えて大差があった」

「あっちゃー、これはまた胸が痛い」


 彩夏は大袈裟に、胸へ剣でも刺されたかのような動きで痛がっている。


「彩夏が誰よりも疲れてたからね」

「うっぐっ」


 彩夏はそのまま寝転がってしまった。


「本当に凄かった。勝手な仮説だけど、もしもあの状況が時間稼ぎだったとしたら、あまりにも完璧すぎる。――時間を稼いで、仲間の復帰か援軍を待つ。それだけじゃなくて、自分たちの体力を温存しつつ相手の体力や戦意を削いでいるんだから」

「うんうん。ねー? みんな、だから最初に言ったでしょ?」

「いやもう本当にその通り」


 結月が言うのは、組み合わせを発表した時の「それはズルい」という意味だろう。

 だけど、自分でも驚くぐらいには上手く事が運び過ぎた。


「私も正直な話、今でもあんまり実感ないんだよね。あの戦い方も、直前の打ち合わせだったし」

「確かに、奇策だったかもしれない。だけど、僕はこうも思うんだ。――攻撃こそは最大の防御。じゃあ――防御こそは最大の攻撃。でもあるんじゃないかって」


 ついみんなの反応が気になってしまう。

 なんせ、全員が口を揃えて「お~」と首を引いているから。


「でも、今回の戦い方が実現できたのは叶が上手く対応してくれたからだよ」

「まあ確かに、再現度が高いものではないかもね。他の誰かができるかって言われたら、桐吾ぐらいだろうし」

「ん? 僕?」

「まあ、細かいことは後々」


 なぜ僕が、と首を捻る桐吾。

 でも、仕方がない。

 時間は限られているため、細かいことは空いている時間に。


 美咲が続ける。


「だけど、攻め側だった結月と彩夏の攻めも凄かった。怒涛の猛攻って感じ。攻めて攻めて攻めて、相手が相手なら一息つくような暇はなかっただろうし。と、こんな感じかな」

「ありがとう美咲。じゃあ、次は僕から」


 次は、美咲と桐吾対一華と一樹の戦い。


「まずどちらも堅実に事を運んでいたね。戦い方も工夫されていたと思う。一華が美咲へスキルを発動させて、桐吾への回復阻害。一樹が桐吾との撃ち合い。美咲からすれば不服な一線になったとは思う」

「本当にそうだよ。なんにもできなかった」

「だけど、今回の戦いに至っては桐吾の活躍が目立ったね。一樹との一対一を制した後、一華との撃ち合いも見事勝利」

「桐吾くんに助けられたし、私はただ立ってただけになっちゃった……これが対人戦なんだね。私、本当に何もできなかった。もしも別の組み合わせで戦ったとしても、何もできなかったと思う」


 一華も続く。


「私も同じだよ、あんまり何もできなかった。美咲ちゃんの動きを封じることに成功しても、それからの動きを考えられなかった。今思い返せば、あの後に一樹くんと連携して桐吾くんと戦っていたらもう少し変わっていたと思う」

「確かに、僕は一対一の戦いは得意な方だけれど、二対一になっていたら苦戦は避けらなかったと思う」

「でも、数的な有利を得られたからといって、ナイトの私が加勢しても単純に勝てるわけじゃないんだよね……逆に、迷惑にもなるんじゃないかっても思って」


 一華の自己分析はかなり的確。


「まさにその通り。僕が偉そうに言えた立場ではないけれど、対人戦はかなり深い。だからこそ、想定外を想定した練習っていうのが必要になってくるんだと思う」

「本当にそうだよね。私も回復だけに徹していられるわけではないっていうのが、今回を通して痛感した」


 各々、頷いている様子から僕含み思うところがあったようだ。


「最後にスリーマンセルについて」

「じゃあ、私かな」


 彩夏は姿勢を整える。


「個人的な感想、驚きすぎて上手く言語化できないってのが正直なところ。今の話を聴いてもなお理解できないもん。普通に考えたら、守側が負けると思うじゃん。加えて言うなら、パーティとして戦いを重ねたからこそ、その勝利を疑わなかった。でも、結果を見たらそれは覆って」

「わけわからねえよな」

「一樹もそう思うよね。たぶん、後で詳しいことを聞いたとしても理解できないと思う」


 ため息交じりに両手を脱力しながらプラプラとしている。


「後はまあ、みんなの細かい技術に関しては直接解説してくれないと何ともって感じかな」

「俺もそう思う」

「わかった、ありがとう。じゃあ最後に、少しだけ情報共有をしよう」




 ある程度みんなへの情報伝達は終えた。

 正直、みんなの改善点を見つけられたわけではない。

 僕自身、他のクラスを熟知しているわけではないため、技術的な面では本人たちが意識的に取り組めるだろうし。

 意識の観点、連携方法という動きの面を今後は意識していきたい。


 だけど最後、気になる点はしっかりと伝えておかないと。


「一樹は、自前の攻撃力を活かすなら、先陣というより二番手ぐらいに前へ出た方がいいかもね」

「ああ、そうだよな」


 意気消沈というわけではないけれど、どこか気の抜けた返事。

 上の空ではないけれど、理解しているのかが心配になるほど。


 一樹は、ツーマンセルで一華と組んで戦った。

 当初の予想では、並んで戦うような、攻守一体のような感じになるかと思っていたのだけれど。

 まさかの一樹が先手必勝といわんばかりに突撃――連携のれの字すらないまま単独撃破された。


 逆に、一華は単身残されても尚、持ち前の大盾を駆使して攻撃をかなり防いでいた。

 もしも連携の取れた戦い方ができていたのなら、と思わずにはいられないほど。


 一樹……本当にどうしたのだろうか。

 元々、戦い方的には最初から変わっていないといえばそうだし、性格的にも猪突猛進なところもある。

 らしいといえばらしい。

 もしかしたら、強制的に修正を加えるよりはその個性を伸ばす方向に考えた方がいいのだろうか。


 今日はどうしたんだろう。

 本当にお腹が痛いだけなのか、調子が悪いだけなのか。

 それとも、何か悩みでもあるのか。

 どちらにしても、もうすぐ授業も終わりだし話を聞いてみよう。


「以上かな。じゃあ、もうそろそろ授業は終わると思うからそれまで休憩してよう」


 みんなから「賛成ー」との言葉が返ってきた。

 僕もみんなと同じくひんやりと気持ちの良い床に背中をつける。

 体を動かした後のこの冷たさを忘れたことはない。


 ほどなくして先生から授業終了の号令があった。

 みんなと足を揃えて退場の最中、美咲から声を掛けられた。


「志信くん……放課後、時間空いてる……かな?」

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