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第49話『ツーマンセルvsツーマンセル』

 各々の作戦会議が終わり、次は対戦相手の発表。


「じゃあ、僕と叶の相手は彩夏と結月」

「わかった」

「はいはーい、手加減しないよー」

「よしきた、全力で行くよーっ」


 やる気全開の彩夏と結月に対して、どうしてよりにもよってという目線を送ってきているだろう叶。

 その目にはほんの少しだけ殺気が込められているような気もする。


 僕も一方的に攻撃されて喜ぶ趣味はない。

 他の組み合わせに比べると、一番攻撃力が高い組に間違いないけれど、だからこそ、必要なこと。

 だから、そこは許してほしい……。


 つ、次。


「桐吾と美咲の相手は一華と一樹」

「よろしくね」

「私も頑張るよ」

「よ、よろしくね」

「よろしく頼む」


 相も変わらずクールな桐吾。

 握る杖に力が入り、緊張の色が見えている美咲。

 控えめに構える一華、あれは相手を油断させているのだろう。


 ここで疑問が浮かぶ。


 こういうお祭り事みたいなものには、前のめり気味だった一樹のテンションが高めではない。

 少しだけ不思議ではあるけれど、誰だっていつでも絶好調というわけではないのだから、それもそれでいい練習だ。

 本当に体調が優れないのであれば、自己申告してくれるだろうし、今は様子見でいいかな。


「じゃあ、始めようか」



 まず初めに、僕と叶対彩夏と結月。

 相手の手に構えられているのは片手直剣と片手短杖。

 対する僕たちは、両手小盾と片手直剣に小盾。

 組み合わせの中でも一番の攻撃力を行使する2人、当然のことながら勝機が目に宿っている。


 だけど、こっちだって負けるつもりはない。


「――始めっ!」


 美咲の合図によって幕が開ける。

 開幕早々、仕掛けてきたのは結月――後方から追従する様に彩夏の炎魔法。


 ――今だ。


『カンッ』

「っ!」


 右の盾を鳴らし、叶はそれに気づいて僕と同じに右へ飛ぶ。


「うっわ、なにそれ」

「ふーん」


 結月はそのまま真っ直ぐに通過、同じく彩夏の魔法も空振りに終わる。


「まだまだー!」


 彩夏の意気込みが聞こえ、再び結月も地面を蹴り突進してくる。


『カツッ』

「なるほど、こういう感じね」


 今度は左の盾を鳴らし、同時に左へ回避。


「うっそでしょ」

「……」

「あーもう、まだまだー!」


 彩夏は炎魔法の三連射を繰り出してきた。

 あれは普通ならば回避困難の攻撃。


 ――だけど、今なら。


『カンッ、カツッ、カツッ』


 合図の元、右――左――左と完璧に呼吸の合った回避をみせる。


「はぁっ!? そんなのないでしょうよ!」


 こちらの戦術は変わらない。

 回避と防御の徹底。


 結月もさすがに思うこともあったのだろう、一度彩夏の位置まで飛び戻った。


「ねえ志信、私は驚きが隠せないよ。あっちは絶対に気づいてないね」

「かもしれない。でも、油断はできないよ」

「だね」


 一息つき終えると当時に、あちらの意見交換も終わったようだ。

 結月が再び突進の兆候をみせる。


「くるよ」


 想定通りの突進。

 だけど、彩夏の魔法の軌道が弾幕となる。


「おりゃりゃりゃりゃーっ!」


 一つはこちらに向かって飛んでくるも、他の二発は向かって左側の宙へ飛んでいく。


 結月の顔に笑みが浮かんでいる。


 ああ、そういうことか。


「叶、受けてっ!」

「はいよ」


 剣と盾がぶつかり合う。


「つーかまえたっ」

「攻撃じゃ勝てないけれど、防ぐことなら負けないよ」

「力比べ―っ!」


 結月の怒涛の攻撃が繰り出される。

 素早い数度の刺突。

 風切り音が鳴る斬撃。

 その華奢な体からは想像のできない剣圧。


 対する叶は、身のこなし軽く防いでいる。

 柔軟な対応力で剣と盾を巧みに扱い、剣の軌道を逸らす。

 防御だけではなく、一瞬の隙を突く攻撃も見事だ。


 あれだけ見れば後は任せるだけでいい――彩夏が居なければ。


「私を忘れてもらっちゃダメだよーっ」


 そうくるよね。


 まるで結月の背中を狙った同士討ちにもみれる攻撃が飛んでくる。

 だけど、その目的は連携を図る攻撃。


「私たちも2人だからねっ」


 想定通り、結月は横へ飛んだ。


 だけど――。


「マジックバリアッ」


 体勢を崩していた叶は、回避が困難であった。

 それをも狙った攻撃、だけど、僕たちだって2人だ。


 赤光する薄い膜が砕け落ち、彩夏の攻撃が無効化された。


「志信、ありがとう」

「出たー、それずっるーい」

「ずるいのはお互い様ってことで」


 結月からの文句は理解出来なくもないけれど、今は敵同士。

 四の五の言っていられる状況ではない。


「ファストヒール、フィウヒール――これで、仕切り直し」

「なんだか、仲間なのに志信のことがちょっと怖いよ。少しだけ結月が言った最初の言葉が理解できたかも」

「でっしょー?」

「僕を怪物みたいに言うのはやめてほしいんだけど」


 会話の最中、貴重な情報を見逃しはしない。

 対話する結月の体力は、こうして話していれば余裕が伺える。

 だけど、今この時を休憩時間と膝に手を突く彩夏。

 体力的な問題もあるのだろうけれど、単純に魔法の乱発が問題だろう。


「じゃあ行くよー!」


 こうなってしまえば、実質的に二対一。

 だけど油断ができないのもまた事実。

 なんせ、あの結月という人間は予想不可能な攻撃を繰り出し、的確な攻撃を仕掛けてくる。


『カンッ』

「っ!」


 合わせて回避して距離を取る。


 そう、無理に打ち合って隙を見せてしまえば、敗北の確率が増えてしまう。

 それに、未だ可能性を秘めている彩夏を視界外に置いておくのは危ない。


「へえ~」

「どこからでもどうぞ」

「ふぅ~ん」


 少し肝が冷えた。

 自信満々に叶は結月を挑発。

 モンスター相手には全く通用しない言葉による挑発は、対人戦こその醍醐味とも言える。

 頭に血が上った人間というのは、簡単ことさえ見失い、ミスを犯す。


 だけど、後々が怖いからほどほどにお願いね……。


「はーぁっ!」

『カツッ、カツッ、カンッ』

「あーっもう!」


 僕たちは息ぴったりに回避を実行。

 結月もいよいよ苛立ちが前面に出始めた。


 だけど、回避の選択を取って正解としか言えない。

 結月の動きは風のように機敏で、末恐ろしいぐらいに正確だ。

 叶を信頼していないわけではないけれど、正面から撃ち合い続けてしまえば、間違いなく負ける。


 彩夏は……ああ。

 完全にへたり込んでしまっている。


 そして、美咲の声で全員が動きを止めた。


「そこまで!」


 終了の合図。


「えー! まだまだ戦いたかったのにー」

「ダメだよ。時間は時間。それに、私たちだってまだ戦ってないんだから」

「……はーい」


 不服そうに返事をする結月はこちらに歩み寄ってきた。


「ねえ、今度は私と組もうよ」

「機会があったらね」

「ぶー」


 結月は頬を膨らませ吹き、待機組の位置まで歩いて行った。


 次に叶。


「お疲れ様。短い時間だったけれど、凄く貴重な経験ができたよ」

「こちらこそありがとう。叶のおかげで選択肢がさらに広がった」

「いやぁ、結月の言葉をいよいよ理解出来たよ。志信とは絶対に敵として戦いたくないね。だから、今後ともよろしく」

「そうだね、僕も叶が味方でいてくれると助かるよ」




 次の対戦となる、美咲と桐吾対一華と一樹の結果は、美咲と桐吾に軍配が上がった。

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