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第38話『激戦と苦戦と想いと』

「彩夏、右くるよ!」

「はいよー!」

「【ファイアネット】、【アイスニードル】、【サンダーパイク】!」


 美咲の合図の元、彩夏は足止め魔法を展開。


 現在、モンスターの絶え間ない進行によりパーティは立ち往生を強いられていた。

 対するは、アント、スパイダー、ソードラット、ランスラット、シールドラットなどの序層・初層のモンスター。

 個々の強さはそこまでではないにしろ、その数が今までと比べ物にならない。


 前衛火力は常に足を動かし、腕を動かしその対処に追われている。


 盾役の一華は後衛を死守するかたち残り、叶も前衛火力として戦闘に加わっていた。


「彩夏、今は前衛に加勢しないで大丈夫」

「だよね、ちょうどそれ思ってた。こんな混戦じゃあ迷惑になるし、私の魔力も尽きちゃうからね。――今は徹底的に足止め役を受け持つとしても……」

「うん。この状況、尋常じゃない。少なくとも、今までの授業なんて比にならないよね」


 この現状を見るに、本当にモンスターの強さが対処可能なぐらいだというのは不幸中の幸いとしか言いようがない。

 それに加え、数十体がまとめて強襲してこず、数体の束となり迫ってくるというのも幸運とも言える。


 だとしても、状況が変わるわけではない。


(正直に言って状況は良くない。前衛の4人が上手く立ち回ってくれているおかげで何とかもっているものの、このままじゃパーティは壊滅しちゃう。それに……)


 美咲は他に心配しなければならないことがあった。


 自分たちのところからそこまで離れてない、少し横を見るともう一つのパーティがいるからだ。

 メイジの門崎さん率いるパーティは、ナイト2人、メイジ3人、ウォーリア3人と非常にバランスの取れた編成になっている。

 回復や支援が0人だとしても、そのバランスが良く、火力が総合的に高く、連携力次第では何も問題はない。


 だけど、問題はそこではなく、こちらと同じ状況にあること。


 現状、ニパーティが横並びになってモンスターの郷愁を耐え忍んでいる状況となっている。


(これじゃあ埒が明かない。あっちのパーティは回復がいないから、援護してあげたいけど……)


 美咲は迷っていた。


 両パーティ共、苦行としか言えないこの状況を良く凌いでいる。

 だけど、どちらも疲弊し始めているのもまた事実。


 こちらのパーティは美咲の回復によって立て直しを図れるものの、もう一つのパーティは支援クラスがいないため、それはできない。

 そして、もしも回復スキルを行使してしまえばあちらのモンスターがこちらに来てしまう可能性は大いにある。

 もちろん、競争相手でもあるため助ける義理はないと言えばない。

 だけど、もしもあちらのパーティが壊滅してしまえば、それらモンスターは自然とこちらを標的と見定める。

 ……ともなれば、こちらの壊滅も秒読みということだ。


 ここまで来ると、もはや作戦パーティとして判断しても良いのだけれど、こんな状況で全員に確認をとるというのは不可能。

 つまり美咲は、全体の指揮をしつつ、二つのパーティの生存の鍵を握っていると言っても過言ではない。


(ここは冷静に考えないといけない。援護するのも簡単。ライバルの自滅を見過ごすのも簡単。その後、こちらのパーティが壊滅するとしても、それまでに少しでも多くのモンスターを討伐すれば少なくともポイントは稼げる。……まだまだ懸念材料はある。エリアボスと階層ボスの存在――こんな状況であんなのが来てしまったら、それこそどちらのパーティも仲良く壊滅してしまう。……どうしたら、どうしたらいいの……、志信くんならこの状況をどう見極めるのかな……)


 美咲は自身の全てを以って拘束に思考を巡らせているも、状況は悪い方へ傾いてしまう。


「っく!」

「桐吾下がれー!」

「ごめん!」


 複数体のラット系のモンスターに同時攻撃をされ、攻撃を食らってしまった桐吾。

 それをすぐにカバーする一樹。

 横一線に大斧を薙ぎ、ラット群は消滅する。

 だけど一息吐く暇はない。

 次に、次にとモンスターは追加されてしまう。


 桐吾は美咲のすぐ傍まで退避し、小休憩を挟む。


「ごめん、油断した」

「ううん。あんまり無理はしないでね」


 美咲は跪く桐吾へ回復スキルを使用。

 すると、擦りむいた傷口が徐々に元通りになっていく。

 いつもなら破れてしまった服をも元に戻せるけど、今はそこまで回復している余裕はない。


「回復ありがとう。じゃあ、行ってくる」


 体制を整えた桐吾は、再び最前線へと戻っていった。


 だが、状況はさらに悪化の道に進んでいく。


「うわぁ!」

「ぐはっ!」


 隣のパーティの前衛火力2人が、モンスターの攻撃をもろに食らってしまい、床に倒れてしまう。


 空かさずリーダーの門崎さんは全体指示を飛ばす。


「陣形変更! ナイトを前に、ウォーリアは後退し小休憩! ヘイトを一点に集め、メイジで押し切るわよ!」


 指示を聞いたナイトの2人はできるだけ距離を詰め、肩を寄せ合う。

 床に倒れてしまった人たちも顔を歪ませながらも立ち上がり、門崎さんたち後衛の後ろまで退避。


 流れるような連携力を発揮しているのが伺えた。


(あの調子なら、まだ大丈夫そうには見えるけど……小休憩を挟んだとしても、結局傷が癒えることはない。だとしたら……)


 未だ決めあぐねてしまう。

 この結論を出すというのは容易なものではない。

 どちらかを結論付け行動に移せば、必ずどちらかに転ぶ。

 そのどちらに転ぶかの確率は出せず、本当に行動後にどうなるかになってしまう。


 あちらばかり気にしてはいられない。

 こちらも一歩間違えれば壊滅の危険性がある。


(……どうしたら、志信くんならどうする……?)


 美咲は思いを馳せ、ここには居ない人間に願いを委ねる。


 だが、美咲は気づく。


 ――ここには自分たちしかいない。


(そうだ。誰かに願いを委ねてはいけない。ここは――今は、私たちしかいない。決められるのは私しかいない。……そうだ、決めるのは私じゃなきゃいけないんだ。――そう、志信くんも自分で決めてたんだから――)

「彩夏、一華。私、あっちのパーティに援護したい」

「えっ、いきなり何を言い出すかと思えば――いいんじゃない」

「……えっ、反対しないの?」

「なんでよ、美咲が決めたんでしょ。親友のやりたいことぐらい協力してあげなくて何が親友よ」

「彩夏……ありがとう」

「う、うん。私も賛成だよ。今は美咲ちゃんがリーダー? だし」

「……一華、ありがとう」


 彩夏と一華は真っ直ぐに美咲の目を見て、嘘偽りない回答をし、一度だけ頷いた。


「じゃあ、実行だね。――結月、桐吾、一樹、叶! 今から私たちのパーティは隣のパーティに援護をするよ! 協力お願い!」

「っはーん、面白くなってきたーっ!」

「わかった!」

「うおぉぉぉぉぉぉ! やってやるぜえええええええ!」


 気持ちの良すぎるほどの返答に、美咲の疑念は一瞬にして払拭された。


「彩夏、私はあっちに少しだけ行くから頼んだよ!」

「え? それマジィ!? ――わかったよ、任せなさい!」


 美咲は隣のパーティ後方にて息を整えている人たちの元へ駆け出す。

 もちろん、護衛を誰1人としてつけていない無防備な状況は非常に危険。

 そのため、彩夏が行動阻害スキルを使用し、少しでも美咲へモンスターが向かわないようにするしかない。


「あの!」


 休憩するメンバーのところまで辿り着いた美咲は、乱れた息を整える前に声を振り絞った。


「え……なんでキミが」

「どうしてここに?」

「急にごめんなさい。今から援護します。迷惑だというのならそう言ってください。でも、私――いや、私たちパーティはあなたたちを援護します!」


 それだけ言い終えると、回復スキルを余すことなく使用。

 怪我を負った2人の傷は見る見るうちに塞がり、綺麗な肌へと戻っていく。


「あ、ありがとう! でもどうして」

「非常にありがたいんだけど……僕たちとキミたちはライバル同士のはずなんだけど。大丈夫なの?」

「独断だったとしたら、後でみんなに怒られるんじゃ?」

「大丈夫です。そこはみんな了承してくれました。……そして、私が追いかけ始めた人もきっとこう判断すると思うから。だから、もし良かったら――みんなで勝ちにいきませんか」


 唐突にとんでもないことを言い出されるものだから、3人はつい顔を見合わせる。


「……それは大歓迎なんだけど、リーダーが許可しないとなんとも」

「うん、僕たちは大いに賛成なんだけど」

「学事祭のために初めて組んだから、ちょっとなんともね」

「……はぁ、私を何だと思ってるのよ。少なくとも鬼ではないわよ」

「っえ!」

「門崎さん!?」


 美咲の後ろから声がするものだから、肩をビクリと跳ねさせてしまった。

 振り返るとそこには見事なリアクションをした男子生徒の言葉通り、門崎さんが立っていた。


「ほら、3人は早く最前線に戻ってね。みんなに指示は出しておいたから、ほら、早く早く」

「「「は、はいー!」」」


 これでもかというぐらい息を合わせ、3人は駆け去って行った。


「どうして? と言いたげな顔をしているけど、そう質問したいのは私の方なのだけど。それに、戦闘中だとしてもあんな豪快に駆け寄られたら誰だって気づくわよ?」

「そ、そうだっ、たんだー……あ、そ、そう! もしよかったら、協力できないかな?」

「……あまり話している時間はないけれど、詳細が知りたいわ」

「そうだね。単刀直入に言うと、共闘して勝利を掴もう。ただそれだけ」

「そちらにメリットはないと思うのだけれど」

「そうだね。でも、門崎さんならわかってると思うけどこのままじゃ全滅する。――でしょ?」

「……そうね」

「――なら、個々で一パーティずつ戦うより、作戦パーティとして戦えばいいんじゃないかな。それに、今回の試験では競い合えなんて指定はなかったよね」

「……確かにその通りね。――なるほど、わかったわ。ここからはこの場に居る全員が一丸となり、試験を切り抜けるわよ」

「うん、よろしくね!」


 美咲と門崎さんは瞳の中で熱いものを燃やし、握手を交わした。

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