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第33話『試されるのは絆』

 教室から移動したメンバーは、着替え終え第一演習場に集合していた。


 第一演習場と第二演習場に向かう分かれ道のところに学年が割り振られていて、疑問を払拭されたのは良いものの、気になるのはその数。


「うわぁ、マジかよ。そりゃあ先生もちょっとは怒りたくなるよな」


 一樹がそう漏らすのも無理はない。

 二学年は残念ながら三組のにパーティしか集まっていなかったのだ。


 そして、ここに居る全員が気になるのが目の前に居る担当教員。


 ――明泰学園長。


 海原先生を例に挙げると分かりやすいけど、それもそうなのかもしれない。

 この特別試験に担任する生徒たちを送り出そうとしても、そもそもの話、パーティを組んでる生徒が居ないのであれば話にすらならないのだから。


「で、でも、私たちは幸運だったんだよね」

「そうだね。志信がパーティに入れてくれなかったら、私たちも今頃は教室で椅子に座ってお勉強だった」

「うん」

「……でも、肝心の志信がいないってのは正直なところ、まずいよね」


 叶が懸念するところは、全員が思っていた。


 単純な人数的不利。

 これ以外にも、パーティリーダーの不在。

 並びに指揮を執れる人もいないともなれば、不安感が一気に増してしまう。


 そんな心配を関せず、学園長は話を始めた。


「みんな、よく集まってくれたね。じゃあ早速今回の試験について説明していくよ」


 その声に全員の視線が一点に集まる。


「先程渡された紙に書いてあったと思うけど、いや、あれだけじゃわからないよね。それはこちらも理解している。パーティを組めているみんなに対しての特別試験というわけなんだけど。……つまり、パーティ戦だね。と言っても、対人戦とかじゃないから安心して。舞台は後ろ、疑似ダンジョン」


 学園長が全員の背後に指を差す。


 そこには、気づけば疑似ダンジョンが生成されていた。


「まあ、みんなの学年ならもう既に授業でやってると思う。だから細かい説明は不要だろうけど、少しだけ補足するなら……様々な種類のモンスターと数を調整してあるってことだけかな。――そう、今回試されるのは連携力もとい、パーティの絆ってところだね」


 扇子を閉じ、ビシッと言い終える学園長。

 決まったっ、という顔をしているけどそれに対して誰もツッコミを入れない。入れられない。


 静まり返ったところ、一樹の質問が飛ぶ。


「学園長、うちらのパーティは1人だけ何かの用事で少ないんですけど、どうすればいいですか?」

「なるほどなるほど、それは確かに他のパーティと比べて不利になってしまうね」

「であれば、何かしらの補填はあるのですか?」

「……否、そのようなものは用意しておらぬ。がゆえに、今回のテーマにより沿っているとも言える」

「どういうことですか?」


 直球すぎる質問に、学園長は目をキリッと眼光強く応える。


「良い質問だ! ――パーティの絆。ならば、メンバーが空いてしまった穴を埋めるのもまた残されたメンバーの役目。その欠けてしまっている仲間のため奮闘する、この思い遣りこそが絆と言えるんじゃなかろうか。違うかね?」

「……そうですね。わかりました。ありがとうございます!」


 その回答に思うことがあった一樹は、普通であれば不服を申し立てるところを元気よく潔く引き下がった。


「では皆の諸君、開戦まである程度の時間を設けるとしよう。それまでに作戦会議やらなんやらを済ませておいてくれたえ」


 と、言い終えた学園長はみんなから距離を置いて、自前で用意していたであろう折り畳みの椅子に腰を下ろした。


 善は急げと、美咲がみんなに集合をかける。


「みんな、今のうちに話し合おう」


 その声に応え、みんなが円を描くように集合。


「みんなもわかっていると思うけど、今回の試験、間違いなく困難なものになると思う。でも、私たちはこんなところで立ち往生しない。だよね?」


 全員が無言のまま首を縦に振る。


「私はこんなところで立ち竦んでしまいたくない。挑みたい」

「俺もそうだ、こんなところで情けない結果は残せない」

「そうだね。僕も同意見だよ」

「当たり前じゃん、こんなところでできないなんて言ってたら、志信に笑われちゃうよ」


 美咲に続いて、一樹、桐吾、彩夏も意思を表明した。


「当ったり前じゃーんっ、やっちゃうよー!」

「みんなって、結構熱い系なんだね。でも、そういうのも悪くないよね」

「う、うん! 私も!」


 全員の意思はまとまりをみせる。


 心に灯がつき始めたからか、美咲はつい思いを口に出してしまう。


「私ね、少し前までは何にも自信が持てるものがなかったんだ。いつも冷静に振舞ってるけど、何をするにも胸がうるさいほど騒いでた。それに、回復クラスってだけでもてはやされて、ちょっとだけ調子に乗ってた。でもね、ある人の隣に立ってみて自分が何もできないってのが痛いほどわかった。その人は、自分が何もできないことをわかってるからこそ、何でもやってみせた……その背中に憧れた」


 感極まって声が震え始める美咲に、彩夏がポンッと肩に手を載せる。


 そして、目線を交わし、互いに一度だけ頷く。


「だから、その人に恥ずかしい姿は見せたくない。私はいつまでも何もできないままでいたくない」

「ははっ、志信といい、美咲といい、あっついものを持ってるやつはいるんだな。ああ、俺もそうだ。おっかしいよな、まだ出会ったばっかだって言うのに、攻撃クラスでもないってのに、俺はあいつに適わないって思っちまった。隣に立てないって思っちまった。だから、少しぐらいは力になってやりたいってそう思うよな」

「うん、そうだね。私たちが今度は想いを返す番だよ」


 美咲は中央に手を差し出す。


「なるほど、良いね」

「はっはーん、賛成」

「いいじゃねえか」


 その手に、桐吾、美咲、一樹が手を重ね、


「良いと思う」

「こういうのはっじめてー」

「えっ、あっ!」


 次に、叶、結月、一華が重ねる。


「じゃあ、全員無事にこの試験を終えよう!」

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