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第32話『特別試験の通達』

◇◇◇◇◇


「結局、志信くん戻ってこなかったね」

「ねー、しかもこのままじゃ午後の授業に遅刻しちゃうけど」

「うーん、探しに行った方がいいのかな」

「いやいや、迷子じゃないんだし」


 美咲と彩夏はそんなやりとりをしている。


「もしも何かの用事がある場合、先生が把握してるから考慮してくれると思うよ」

「たしかにそうだね」

「そうそう」


 叶の冷静な分析を聞き、美咲は納得し、相槌を打つ彩夏。


「それにしてもよ、今回の学事祭は随分と突拍子もないことが続くよなぁ」

「確かにそうだね。パーティを結成するまでの順序に重きを置くと思いきや、試験が前倒しになって早めにパーティを組んだ人たちが有利になったり」

「お、おう。そう、そうだよな」


 桐吾の考察に対し、薄い返事を返す一樹。

 理解しているように振舞ったが、実のところよくわかっていない。


「で、でも……本当にその通りだよね。私はそれで救われたし」

「まあ、あの点数じゃぁね」

「か、叶ちゃん!」


 相変わらず叶にきついツッコミを入れられる一華。

 一華は叶の肩をぽこぽこと両手をぐーにして微々たる抵抗を見せるも、逆に叶は肩叩き程度しか思っておらず、むしろ気持ちよさそうにしている。


 そして、意図しないかたちで流れ弾に被弾した一樹は、左胸ら辺を手で押さえて苦しんでいる。


「あ、先生来ちゃった」


 結月の声にみんなの視線が教卓に向かう。


 海原先生は教本を左手に、右手に十数枚から成る紙の束を抱えていた。

 その光景にみんなが疑問を抱くも、その答えはすぐに伝えられる。


「それでは授業を始めたいと思います……と言いたいところなのですが、朗報と言って良いものか悲報というべきなのか。どちらにせよ、パーティ組には渡すものがあります」


 そう言い終えた先生は、パーティ組が座る外側の席に向かい、抱えていた紙を配布し始めた。


 ――――――――――

 特別試験の実施!


 対象者

 現時点においてパーティ編成が完了している人。


 実施場所

 第一演習場、第二演習場


 実施内容

 現地にて伝達


 実施日時

 本日、午後の部


 がんばろーな!

 ――――――――――


 手元へ来たその紙に目線を移すと、見た全員が同じこと思った。

 これを書いたのは光崎生徒会長だ、と。


 それと同じく、これじゃ何もわからない、と。

 唯一わかるのは、これが学事祭の試験に突如追加された内容ということだけ。


 この内容に首を傾げていると、教卓に戻った先生が続きを話す。


「紙を配られてない人は、なんのことかわからないと思います。軽く説明をすると、特別試験の通達がありました。みんなではなく、パーティを既に組んでいる人たち限定で、です。――不公平に感じることもあるかと思いますが、残念ながらそれは自己責任ということですね」


 当然のようにクラス中にブーイングが鳴り響く。


「そもそも、学事祭は最長でも夏休み開始までです。ですので、もたもたしている人より、迅速に行動している人たちが優遇されるのは至って自然なことです。この意味、わかりますよね?」


 先生の言ってることは非常に的を得ている。


 どんな時にも対応できるよう準備しておく。

 これは、どんなことにでも言えること。

 それをあえてダンジョンで例えるならば、モンスターは「今から襲いますよ」なんて警告しながら攻めてくるなんてありはしない。

 臨機応変に対応する、これが最も求められることだと思う。


 であれば、学事祭開催の宣言を受け、早数日が経過している。

 少しずつ試験も始まっている。

 この状況下で、未だにパーティを組まずにいるということは怠けていると判断されてもおかしくはない。


「皆さんも分かっていると思いますが、既に一つの試験が終わっています。残りは三つ。今回参加できなかったことを教訓として捉え、いち早く行動してくれることを期待します」


 先生の言葉が余程深く刺さったのだろう。

 ブーイングの嵐だった教室は、静まり返り、全体的に目線が下がっている。


「それでは、僕はこのまま授業を始めますので、髪を受け取った人たちは移動と準備をお願いします。ちなみに、僕も詳しくは知らされていません。皆さん、頑張ってきてください」


 パーティ組は先生に気合の入った返事をし、教室を後にした。

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