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第26話『源藤宰治と上木道徳』

「やあやあ、今日は僕の要請に応じてくれてありがとう」


 カザルミリア学園の応接室にて、源藤さんはある人物を呼び出していた。


「上木道徳くん」

「まあ偶然、今日は仲間の1人がどうしても買い物に行きたいって駄々を捏ねてきたから空いていただけだ。そうでもなかったら、どんな要件だったとしてもお前とこうして一対一で話すことは・」

「ええ! なにそれ、かなり辛辣ぅ!」

「どの口が言うんだか」


 何一つ悪びれる素振りを見せない源藤さんに、上木さんは鋭い目線を向ける。


「まあね。この歳にしてギルド総括理事長という立場まで上り詰めた僕は、ありとあらゆることをやったさ。人からは惨忍な人間と陰で散々言われたさ」

「だろうな」

「でもさ、ちゃんと変わったろ? いろいろと。僕はいくら他人に罵られようとも、歩んできた棘道を間違っていたなんて思ってない」

「今日はそんな話をするために呼び出したのか?」

「ああ、いけないいけない。そうだったね」


 源藤さんは用意されていたお茶を啜る。


「単刀直入に言おう。キミに会ってあげて欲しい生徒が居るんだ」

「それはまた唐突だな。俺にファンサービスでもしろと?」

「まぁ~、今や国中にその名声を轟かせている【大成の樹】のキミたちのファンは大勢いるだろう。というか、その自覚はあったんだね。要はそんな感じなんだけど、たぶん会ってみると面白いことになると思うよっ!」

「なんだそれ。お前のその顔、久しぶりに見たな」


 源藤さんは、子供のような笑顔を見せている。

 目までしっかりと上げ口角も持ち上がっているのに、その瞳の奥には別の何かがちらつく。


「そこまでか。将来有望なその生徒っていうのは……なるほどな。だからここに呼び出されたのか」

「さすがだね! そう、ここの生徒なんだよね」

「今は?」

「あー、そのことに関しては後から説明するよ」

「お前がそこまで言うんだ。さぞ期待のできる前衛クラス、か、後衛クラスのストライカーなんだろうな」

「……その子はね、アコライトなんだよ」

「ほう」


 巧みな話術に乗せられないように上手く話題に乗っていた上木さん。

 でも、たったその一言だけを耳にし、体がピクリと反応してしまう。


「いいねぇいいねぇ。そうこなくっちゃ」

「はぁ。それで、どんな子なんだ」

「目立った功績は今のところはないと言えばない。あえて言うのであれば、二年生にして授業中だけどレンジャーラットを討伐してみせたよ」

「1人でか⁉」

「いやいや、まさかそんなことはありえないよ。それはキミが一番よく理解していると思うんだけど。ちゃんとパーティを組んでだよ」

「でもそれ、本当なのか。そんな情報、こっちには入ってきてないぞ」

「そりゃあ、まあね? 学園内の情報はギルドにも流れない機密情報だし」

「じゃあなんでお前は知ってるんだよ」


 得意げに源藤さんは頷く。


「うんうん。良い疑問だ。まあ、ただ偶然この学園に用事があって、偶然にも授業を見学することになってね」

「それ、本当に偶然なのかよ」

「ああ、最初はもちろん偶然だよ」

「最初ってなんだよ。それに普通、レンジャーラットって普通の授業で出現させるのか? どう考えても危険すぎるだろ」

「ああ~、それはね。僕がちょちょっとね。――いやいや、僕が直接調整したとかではないからね。これは本当だよ、後から担任の先生にでも確認をとろうか?」


 上木さんの鋭い眼光に必死に言い訳する源藤さん。


 本来、レンジャーラットはダンジョン初層と上層の狭間にある二十階層を守護するボスモンスター。

 各階層に出現するエリアボスも学生であれば単身で撃破するのはほぼ不可能。

 それより強い階層ボスは絶対に無理。

 独り立ちしたメンバーを募った初心者パーティだったとしても、討伐には困難を有する。


 それを、実戦経験すらない学生パーティで討伐したと聞かされた。

 これに興味を示さず、何に興味を示せるのだろう。

 内心前のめりになる上木さん。

 必死に表へ出さないようにするも、口は動いてしまう。


「いや、そんな確認は要らない。それより、なぜその生徒なんだ。他の生徒の実力あっての成果ということはないのか」

「ははぁ~ん、興味津々だねぇ。わかるよ、普通はこんなことを聞かされたらそう思うし、僕が逆の立場だったら確実に疑うね。でもね、僕はこの目でハッキリと見たんだ。彼の指揮能力、状況判断能力、行動力――勇気を」

「なんとなくわかった気がする。お前が言ったことを。――面白い、俺はまんまとお前の策略に陥れられたわけだ」

「それに、キミがいつだったか……忘れてしまったけど、今は最前線組には当たり前になっているを既に気づいているよ」

「それは本当なのか」

「ああ、本人に聞いてみるといいよ」


 実態が不明瞭なため、未だ公表に至っていない技術。

 それを、上木さんは数年前に発見してた。

 武具にスキルを付与する。

 これは、最新の技術であり、それを知る人は極めて少ない。


 その考えに学生が行き着き、授業といえど実戦で活用した。

 結果、普通ではありえない功績を残したと言うのだ。


「その生徒に興味が湧いてきた」

「喜んでくれて僕も嬉しいよ。僕もキミのそんな顔を久しぶりに見たよ」


 クールに表情一つ変えずに会話していた上木さんの表情には、純粋な笑顔があった。


「それで、その生徒はもうすぐ来るんだろ?」

「あー、僕としたことがいけないいけない。つい会話が楽しくて時間を忘れていたよ」


 肩の力を抜いた源藤さんは、長針と短針から成る魔力で動く時計が掛かっている壁上部に目線を送る。


「悪いんだけど、その子に会ってもらう前に別の子を呼んでいるんだ」

「そうなのか?」

「うん、一応ね。そうしないと、後で怒られちゃうからさぁ――そろそろ来る時間だね」


 そう言うと、源藤さんは扉の方に目線を向けた。

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