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第21話『常勝でも油断は禁物』

 桐吾の姿が見えるのには時間は掛からなかった。

 後方にはソードラット六体とシールドラット四体の計十体。


 先ほどの一樹の勢いを考慮した数なのだろう、それに、シールドラットはその名の通り攻撃より防御を優先させる。

 こちら側から攻撃を仕掛けなければ、基本的には攻撃をせずこちらを警戒するのみだ。

 弱点である魔法攻撃が防がれてしまうというのがあるけど、そこはやりようによる。


 懸念材料があるとすれば、大盾である一華から中・小盾の叶に最前線を変更したこと。

 戦闘スタイル的に無理をすることはないだろうけど、もしもが起こりえるならそこだ。


「プロボーク、インサイト!」


 叶のスキル発動により、ソードラット三体とシールドラット一体が進行方向を変える。


 当人も分かって入ると思うけど、常套手段としてはシールドラット四体を自身に引き付けるのがいい。

 そうすれば、攻撃を仕掛けなければただのお見合い状態になり、戦場において最も安全な戦いになる。


 でも、そう上手くいかないのが普通。

 スキルは対象指定であり、認識できる相手に発動することができる。

 ……けど、あの右に左に広がっている中から、標的を厳選している暇はない。

 だから、結果的に自分側から一番近いモンスターへとスキルを発動することになってしまう。


「おっしゃいくぞー! おらぁぁぁぁぁあ! ――っ⁉」

「フィジックバリア!」

「おらあ! ――志信ありがとな!」


 今のは危なかった。

 先ほど同様に猪突猛進で斧を叩き込もうとしていたけど、横からの視界を突いた一撃を食らいそうになっていた。

 あの一撃自体に脅威はない。

 だけど、そこから怯み、後退したその一瞬で複数体からの追撃があろうものなら、即退場がありえた。


 叶を信じて残しておいたスキルが、こんなにも早く活躍してしまったのがどう作用するか。


 今の一樹の体を大きく使った回旋する大ぶりの一撃。

 あれによって二体のソードラットが消滅。


 残りは八体。


「援護いくよ! ファイアボール!」


 彩夏の魔法が杖から放たれる。――が、それをシールドラットに防がれてしまう。


「えー、うっそ」


 だけど、その隙を桐吾は見逃さずに飛び込んでいく。

 素早く一直線に駆け、盾のかざされていない隙間から剣を突き刺し――そこから、急旋回してソードラットの脇腹に剣を突き刺す。


 残り六体。


「おっしゃいくぞー!」

「ちょっと私の獲物を横取りしないでー!」


 あの調子なら前衛は問題ない。


 叶は……うん、想定通り。


 本当にあの身のこなしと立ち回りは見事なものだ。

 冷静さ、経験値、洞察力、何が要因であそこまでできるのか。

 どれか、いや、全てなのか。


 正直、羨ましく思う。

 どこかで話を聞ける機会があれば、是非とも教えてもらいたい。


 あの調子だと、回復面の心配はいらさそうだ。

 ……ということは、横にいる美咲もわかっているね。

 ほんの少しだけ視線を向けるも、落ち着いて前提に目線を配っている。


「叶、いっくよーん!」

「お先に失礼」

「おい、俺にも残してくれよ!」


 自分たちの分担を処理し終えた3人が叶に加勢。

 あっという間にモンスター軍は全て消滅。

 見事といわざるを得ない戦果。


 一華は自分に役割が回ってこなかったことにガッカリしているに違いない。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 ん? 呼吸が乱れている……?


 いや、そんははずはない。

 あれはきっと、みんなの輝かしい戦いぶりに高揚しているのだろう。


 このまま次にいってもいいのだけど――。


「みんな集合!」


 その掛け声の後、全員が集合。


「美咲、お願い」

「うん。任せて」


 僕と美咲は、桐吾、結月、一樹、叶に回復スキルを使用。


 先ほどの戦いは本当に見事なものだった。

 だけど、前衛の全員、無傷ではない。

 目の前に集中しすぎて痛みに気づいていないのだろうけど、その傷は見ればすぐにわかる。


 このまま戦闘を継続していれば、どこかで傷が増え、痛みで行動が阻害されてしまう。

 機動性重視といえる4人には、それはかなりの戦闘力低下に繋がる。

 そうなってしまえば、パーティ壊滅まで秒読みになってしまう。


 それに、あの混戦。

 ああいう状況で回復スキルをしようしていれば、間違いなく多くのモンスターが使用者にヘイトが向いてしまう。

 それもまた、パーティ壊滅への最短ルート。


「それにしても、シールドラットが混じるだけで私の出番が激減り。テンション下がるぅー」

「まあね。それに、混戦続きだし仕方ないよ」

「それもそうなんだけどねー。でも、盾役の援護と補助ぐらいはしたかったんだけどなぁ」

「そう思ってくれているだけで嬉しいよ」

「たしかにな。俺の知ってるパーティ戦ってのは、基本的に盾がモンスターを一身に背負って責任も全部が盾にあるって感じだったしな」


 彩夏と叶のやりとりに割って入る一樹。


 でも、今思い返せばその通りだ。

 この学園に来てから、恵まれたメンバーに出会いすぎて忘れいてた。

 以前通っていた学園では、まさに一樹が言っている通りで感謝のかの字もなかった。


 そのため、一年生時にはかなりいたナイトも、二年生時にはその数は極少数となっていた。

 偶然にもパーティに恵まれていたから気が付かなかったけど、この学園でもナイトは少ないのかな……?

 だとすれば、この巡り会わせそのものに感謝しないといけない。


「みんな、時間的にたぶん次が最後になると思う。最後まで気を引き締めていこう」

「まじか、こんなに楽しいのは初めてだったからもっとやりたかったのにな」

「たしかに。それは私も同感」


 初参戦の一樹と叶が珍しく意気投合している。

 一華も言葉こそあげてないけど、同意見のはず。


「よし、みんなこれで大丈夫だよ」

「最後くらい、活躍してみせるぞー!」

「じゃあ、いこうか」


 回復も終わり、今授業最後の戦いが始まった――。

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