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第18話『どうしてそうなった……?』

 まず初めに相手となるモンスターは、ダンジョン序層ではお馴染み、蜘蛛種のスパイダーや蟻種のアントが混合の五体の群れ。

 初戦にしては申し分ない敵。

 攻撃は突進攻撃と噛みつき攻撃だけなため、どんな初心者パーティであっても怖気づいてしまわなければまず負けることはない。

 それに、攻撃力も枕を投げられた程度の痛みしかない……けど、速さだけは人間のダッシュとさほど変わらないため、眼を慣らすのにはもってこいのモンスターたちだ。


「い、いきます! インサイト!」


 一華のスキルにより、アント二体スパイダー一体が一華に吸い寄せられるように向かっていく。

 向かってくるモンスターに対し、あの時同様、大盾で自らの体をすっぽりと隠している。


 やはり、口頭では自信がなさそうに振舞っているけど、この中では一番男らしい。

 あれほどの正面から全てを受け止めるという根気は、是非とも見習わなくちゃ。


 自分の役割は既に果たしている。

 攻撃力上昇オフェイズ、防御力上昇ディフェイズ、ダメージ率軽減ハームス、攻撃速度上昇ラッシュ、移動速度上昇ムーブサポート。

 これらを戦闘開始前に全員へ付与している。

 最後に、1人にしか使用できない物理攻撃無効フィジックバリア、を一華へ付与。


 後は、効果が切れるまでこの程度の相手であれば再付与の心配はいらない。

 ここからはみんなの動向や癖を見極めるのに徹するのみ。


「よっしゃあ、行くぞーっ! 一体は俺に任せろ、うおぉぉぉぉ!」


 と、雄叫びを上げながら豪快ながらも無駄のなく両手斧を振り回す一樹。

 前回の授業でみせたあの武器捌きは、余程の素振りが必要だと未使用の僕でもわかる。

 性格が滲み出ている感じ――まさに熱血タイプとでも言えるかもしれない。


 最後の一体に関しては、もはや目線を移した瞬間に消滅していた。

 それもそうだ。

 遊撃タイプかつ、冷静に判断できる桐吾と予想不能でも踏み込んだ攻撃のできる結月が相手したのだから。

 しかも、2人は初めての連携ではない。

 どう連携したのかは気になるけど、あの程度の相手であれば、既に言葉は必要がないのだろう。


 ――と、一樹に視線を戻すと、豪快な上段からの振り下ろしによりアントは消滅した。


 最後、残るは一華が耐久している三体のみ。

 尚も正面から敵の攻撃を防いでいる。

 そして、釘付け状態。

 であれば、結果は想像するに容易い。


 ――不意打ちの一撃。


 そう、完全にフリーとなった3人はモンスターの急所を外すわけがない。


「ふぅー……」

「ファストヒール」


 目の前からモンスターが消え、一息吐く一華に対し、美咲が即時回復ファストヒールを掛ける。

 ほとんどの攻撃を盾で防御できていたため、極少量の回復量で問題ないと判断したのだろう。


「たっはーっ、私の出番が全くなしだぁ~」

「まあ、モンスターも弱いし、これからだよ」

「どうか私に出番を、どうか私に出番を」


 誰に対して願いを唱えているのかは定かではないけど、片手杖を脇に挟み、両手をスリスリと擦り合わせている。

 サボっているわけではないのを知っているため、別に咎めたりしないし、後衛がこうして気を楽にしていられるのは順調な証拠。


「もっと数がいたら、もっとやりがいがあるのにな!」

「そのでっかい斧は、その方が活躍できそうだしねーっ」

「まあ確かに、この程度じゃ物足りないよね」


 一樹、結月、桐吾はよろしくやっているようだ。

 桐吾が言っている通り、この連携力であれば先ほどの数では物足りなく感じるだろう。


「じゃあ、釣りをしようか。んー、結月と一樹に任せてもいい?」

「おう、いいぞ」

「まっかせてー!」


 人選は単純。

 大立ち回りで注意を引ける一樹にとりあえず任せておけば良さそうな結月。


 我先にと一目散に奥へと駆けていく2人の背を見送り、少しだけ後衛組だけで打ち合わせをする。


「これはもしもの時の話なんだけど」

「なにかあったの?」

「なになに」

「いいよ」

「あの2人に任せたのは僕なんだけど、もしも、さっきの数より多くはなると思うんだ。だから、それだけは覚悟しておいてほしいってのと、臨機応変な対応が求められると思う」


 美咲、彩夏、叶はそれぞれ思考を巡らせるも、答えはすぐに出たようだ。


「そうね、気を引き締めなくちゃ」

「はいはーい、やっと私の出番が来たってことね」

「私はなんとなくでしか予想できないけど、なんとなくわかった気がする」

「うん、僕も予想できないから、みんなよろしくね」


 これは冗談ではない。

 かなり冗談みたいな話ではあるけど、ある意味奇想天外な人選なため準備は必要だ。


 昔の僕であったら、様々な予想を立てていてもこうして共有することはなかった。できなかった。

 つい、そんなことを思い出してしまった。


 あれ、そういえば叶は先ほどの戦闘時、一華の方に集中していたけど仲がいいから心配していたのかな。


「そういえば叶、さっきの戦闘中は何に集中していたの?」

「あ、ああ。いや、大したことじゃないよ。ちゃんと盾としての役割を果たせているかって、そりゃあもう厳しい目で見てた」

「なるほど、それで叶的には及第点だった?」

「そうね。あの守り方だけは変えた方がいいと思うんだけど」


 盾役に関しては知識としてあるけど、実際のところは同じクラスになって経験してみないとわからない。

 男勝りな根気ある立ち回りだと思うけど、やはり観るところが違うというか目線が違うのだろう。

 これもまた新しい学び。

 僕は、今まで同じクラスの人に出会ったことがない。

 今度、同クラス同士の目線について意見を聞かせてもらいたいところだ。


 さて、そろそろ2人が戻ってくるはず。


「みんな、そろそろ来るよ!」


 僕の合図の元、みんなの視線が前方に集中。


 ――すると、


「志信ごめーん!」

「みんな、わりぃー!」


 鬼気迫るように声を大きくしてこちらに全速力で向かってくる結月と一樹。

 彩夏が「えぇ……」と表情を崩すも、その背後から迫るモンスターの数に、この場に残る全員の表情が一気に引き締まる。


 その数――二十。

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