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第9話『組み合わせの意味』

「志信くん、どうしてあの組み合わせになったの? 性格とか?」


 床に座りながらストレッチ中、背中を押す美咲はそんな疑問を投げかけてきた。


「そうだね、鋭い考察ではあるんだけど、それが主題ではないんだ」

「ほうほう、つまり?」

「まずは戦闘スタイルの情報の共有。これは、みんなにもあらかじめ伝達した通りで、既に戦闘スタイルを知っている結月・桐吾・彩夏と、今回初見の叶・一樹・一華で戦ってもらうって感じ」

「なるほど、戦いが始まれば片方だけに注視できるってわけね」


 正直、みんなとの交友歴も浅く、情報もまだまだ不足している。

 欲張りな事を言えば、余すことなく全員分の戦闘スタイルを頭に叩き込みたい。


「でも確かに、そこまで意識してなかったけど美咲の言う通りで、性格的に観たら真逆な組み合わせかもね」

「ふふっ、そうそう。だからね、志信くんも面白いこと考えるなーって、ちょっと独りでに面白くなってたんだ~」

「ありがとう美咲、たぶん今までの僕だったらそういう角度で物事を見れなかったから、勉強になったよ」

「え、そうなんだ? どういたしまして」


 そう、冗談でそう言っているわけではない。

 転校する以前の学園生活を送る僕であったら、間違いなくそんな考えには行き着かなかった。

 今思い出すだけでもお腹が痛くなりそうな毎日。

 戦術も戦法も、パーティ連携や意思の疎通。これら全てに僕の意見が取り入られることなんてなかった。

 僕には選択肢が何一つしてなかった。


 特に意識してやっていたわけではない。

 体の力を抜いて行うストレッチ中だというのに、つい体に力が入っていたようだ。

 僕の背中を押す美咲の手には随分と力が入り、たぶん顔にも力が入って唸るぐらいには踏ん張っている。


「うーっ、ん-っ! 志信くん、それ以上は体に力を入れないで~!」

「ご、ごめん! ちょっと考え事してて」

「ふぅー、なーんだ。てっきり、意地悪でもされてるのかと思ったよ」


 そう言い終えると、「ふわぁ」っと体の力が抜けたように座り込んで、背中にある手の感触も同時に腰の方まで伝った。


「お、各々のウォーミングアップが始まったね」


 美咲の言葉に視線をみんなの方へ向ける。

 元々武器を展開していた叶・一樹・一華は、既に武器を使ったウォーミングアップをしていたけど、結月・桐吾・彩夏も同じく始まった。


「そうそう、それで各組合せに注目したほうが良いことがあるなら是非とも教えて欲しいなって」

「じゃあ一組目の結月と叶。この二人は予想の段階でしかないけど、真逆な戦闘スタイルだと思う」

「うんうん、私もそう思う。私的には、ウォーリアとナイトの攻撃と防御のクラスが対人戦をするってだけで楽しみ」

「たしかに、滅多に無い組み合わせではあるね。だけど、注目するのはその勝敗ではなく、攻防にある」

「ほほ~!」


 美咲の言う通りで対人戦、ましてや前衛ではあるけど攻撃クラスと防御クラスの戦いなんて前代未聞……というか、本当だったら絶対にありえない組み合わせ。

 なぜなら、誰もが対人戦に求めるは結果。つまり、勝敗なのだから。


「結月に期待するのは、猛攻。叶に期待するのは、防衛。当たり前ではあるけど、たぶん面白くなるよ」

「なるほどなるほど、たしかに。結月ちゃんの細やかな剣捌きに様々な角度に回り込むあの速さ。モンスターの攻撃を正面から防御するのとは別物だもんね」


 美咲はたぶん、元々学ぶのが好きだったのだろう。

 こんなに速く一を知り二を得ている。

 僕は沢山の時間を使って得た知識ではなるけど、美咲ならあるいは……。


 ……という考察とは裏腹に、顎に指を置いて天井を仰ぎ始めては唸っている。


「その流れになると、桐吾くんと一樹くんはどういう感じになるんだろう。んん~」

「ああ、あの二人はね理屈じゃないところで組んでみた」

「え?」

「それこそ性格的は真逆だと思うんだけど、冷静対情熱って感じで。だから、良い感じの戦いになるんじゃないかなってさ」

「そういうのってありなの? 私にはあんまり理解できないのかな、男の子だからってやつ?」

「僕もあんまりわかってはないけど、そういうことだね」


 一見投げやりな考えではある。

 実際、自分でもそう思わせた理由を説明できない。

 でもたまにはこういうのも良いかなって、本当にそんな理由ではある。


「最後の彩夏と一華ちゃんは……? まさか……」

「いやいや、そんなことはないよ。彩夏の得意魔法は放出系であり一華が得意なのは強固な防御」

「ああ! なるほど、矛と盾ってやつね。凄いね、こうして意図を聞いてみると、どれも理に適っているというか、面白そう」

「でも、最後にもう一つあるよ」


 ストレッチを終え、隣に座る美咲はこちらに目線を向けて小首を傾げている。

 もちろん僕は目線を合わせているわけではない。

 みんなに目線を向けつつ、その行為が視界の端に入っていた。


「僕たちにも課題がある。さっき言ったことだよ」

「さっきさっき……ああ! 『パーティメンバー同士で動きを知っておくことが目的』」

「そうそれ。メンバー同士っていうのは、僕たちにも当てはまることだし、支援職はメンバーの誰よりも物事を冷静に判断し全体を見渡しながら戦況を見極めることができるようになるのがベスト。更なる理想は、これに指示を出すこと」

「うっ……グサッと刺さる言葉ね」


 今の言葉は美咲に向けたものであると同時に、自分に対して向けた言葉でもある。

 これは戒めだ。

 数日前に行われた演習の授業中、僕は誰よりも冷静に判断できていると錯覚していた。

 そう自負している割に大事な局面でやってはいけない痛恨の失敗。

 あれを恥だと言わず何といえるだろう。

 最終局面でこそは失敗することはなかった。

 だけど、あれは授業中だったからこそあった二度目の機会。

 本来のダンジョンであれば、一度目の失敗で命を落としていた。


 ましてや、今回はリーダーという役割を担っている。

 どんなことがあろうと、次はない。と、自分に負荷をかけ続けなければならない。


「でも、今回が最初で最後の練習ってことになるわけでもないし、文字に起こせる状況でもないから大まかに記憶するって感じでいいと思うよ」

「それもそうね。ふぅーっ、ついドキッとしちゃって背筋ピーンッてなっちゃってたよ」


 視界外でそんなことになってとは思ってもいなかった。


 そんなこんなで話をしていると、みんなの準備も整っていそうだ。


「じゃあ結月と叶、そろそろ始めようか」

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