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第7話『唐突な筆記試験』

「うひぁー、それにしても唐突過ぎるよなぁ」


 休み時間に突入早々、そう口を開いたのは一樹だった。

 つい先程、授業の最後に学事祭で告知のあった筆記試験の内容と開始時刻が通達された。

 内容に関しては、各クラス毎によって変わるもの。

 そして、ギルドや雑学について。


 何が唐突かというと、次の授業がテストになったからだ。


「一応、確認なんだけど不安なところはあったりする?」


 みんなへそう質問するも、反応は軽い二つ返事だった。

 顔色を窺うも、全員の顔は明るい。


 この様子ならば、何も心配する必要はなさそうだ。

 逆を言ってしまえば、自分自身の心配をしないといけないかもしれない。

 雑学で答えられないのは少し仕方ないとしても、自クラスの解答欄が埋められなければかなり問題だ。


「日々精進するようにとは言われていたけど、あまりにも唐突すぎるよなぁ」

「本当にそれ。先生が急にテストの話題を出した時には、一瞬ドキッとしちゃったよね」

「そうね。私も、最初は先生の言葉を疑っちゃったもの」


 一樹の小さな愚痴に反応する彩夏と美咲。

 独りでに内心で焦りを見せていたのはみんなも一緒だったらしい。

 それに、クラスメイトの方へ耳を傾けると、「えー! やばいやばいやばい」「うっそ、ありえなーい!」なんて声が教室に響いている。


「焦るよねー。一華なんて、もはや体をビクーッて跳ね上がらせてたからね」

「あー! 叶ちゃん、なんでそれをみんなにバラしちゃうの!」

「なにそれオモシロッ」

「結月ちゃん、乗らないでよー!」


 まるで何かのお笑いを見せられている気持ちになった。

 桐吾は終始この流れを微笑ましそうにしている。

 隣に倣えで僕も同じだ。


 ……さて、どんな感じになるのか。


 ◇◇◇


「では、始めてください」


 先生の合図によって試験開始。

 用紙を返し、問題に目を通す。


 第一問。

 アコライトの基本的立ち位置は後衛になりますが、求められるものは徹底された支援のみですか?

 そうであれば、はい。そうでない場合は自らの思想を記述せよ。


 基本的な立ち回りだけであれば、アコライトにできることはそもそも限られている。

 戦闘スキルは持ち合わせてない他、十分な回復手段を持ち合わせているわけではない。

 そんな突出したスキルもないアコライトに求められるのは――戦況の把握と的確な支援。

 そして、危機管理能力と索敵。


 これが答えだ。


 第二問。

 効果持続時間のあるバフスキル。

 特に、どんな攻撃であっても一撃だけ打ち消すことのできるバリア系のスキルは、接敵前もしくは直撃前のどちらを選ぶべきですか?


 たぶん、この問題自体は両方正解なのだろう。

 だけど、プリーストやアコライトが使用できるバフ系のスキルにはモンスターからのヘイト値の上昇が伴ってしまう。

 回復スキルとは違いその上昇値は微々たるものだけど、基本的にはバフスキルを使用する際は自然と量も多くなる。

 そのため、戦闘開始前に全てのバフスキルをパーティメンバーへ付与するのが基本なのだけれど、その全てのバフスキルの効果持続時間は全部が等しいわけではない。

 その中でも、問題にもある通りバリア系のスキルは再使用の時間は長いくせに効果時間は本当に短い。


 結果、戦闘開始時に攻撃を被弾する可能性が高ければ最初に付与するのもありではあるけれど、個人的には直撃寸前もしくは直撃予測をしてバリアスキルを付与する。


 クラス系の問題は残り五問。

 順番に解いていくのもいいけど、二枚目の用紙を一度だけ目を通す。


 こちらは、全問が雑学となっている。


 第一問。

 冒険者の組織として情報などを管理しているのがギルドですが、その次に大きい組織としてクランがあります。

 貢献度や貯金額によってランク分けされていますが、創設するために必要な最低人数は何人ですか?

 また、その際に必要となる金額はどれくらい必要ですか?


 第二問。

 クランのランクに応じて、給付金や施設使用する際の優先度が変わってきます。

 ですが、それとは関係なくクランに所属しているのであれば平等な権限がいくつかありますが、それはどのようなものですか?

 複数の解答がありますので、二つのみで大丈夫です。


 第三問。

 七窟と呼ばれるダンジョンが各都市に存在します。

 その中に生息して居るモンスターを討伐すると体内から排出される魔水晶。

 冒険者はこれらを換金して生計を立てますが、その後の活用法を答えてください。


 第一問に関しては、3人と五万シャールが必要となる。

 そこが基準とあるけど、以降は1人あたり五千シャール増えて最大10人分まで増加していき、それ以降の金額は変動しない。


 第二問に関しては、問題にある通り沢山ある。

 その中からあえて二つ選ぶとしたら、ギルド管轄の情報閲覧権限とクラン住居選択権だろう。

 どれだけ優秀な冒険者であっても、情報閲覧の優先度だけはクランが最優先となる。

 住居選択権は、クランの活動拠点を決める際に新規クランだったとしても、大手クランと同じ場所を選んでしまったとしても平等に扱われる。

 これら二つは初心者と大手との公平性を保つと共に、大手が我が物顔で権威を振るわせないためでもあると聞いた。 


 第三問に関しては、魔水晶を粉砕したりそこから抽出され魔力エネルギーとなる。

 それは、魔力発電というもので管理され、街灯や各家庭で灯りなどの生活基盤として活用。全国民にとって、既になくてはならないものだ。


 その他合わせて計十問となっている。

 パッと見ただけでも、前半は難易度的にはそこまで高くはないことに胸を撫で下ろす。

 問題数的には少し多いようにも思えるが、限られた時間の中でやりきるしかない――。 


 ◇◇◇


「では終了になります。解答用紙を前の方へ送ってください」


 ――疲れた。この一言に尽きる。


 結局、クラス系の問題に関してはすんなり解答を記入できたけど、正直に言えば疲労を感じる。

 基本的には授業で習うものであったけど、あまり復習しない分野だった。

 普段から勉強するといっても、スキルや陣形などの戦闘面に活用できる内容ばかりだったのを、今後は見直さないといけないかもしれない。

 もしも冒険者として活動できなくなってしまった時のことを考えると、少しだけ将来が心配になってしまった。


 だけど、解答欄は全て埋められた。自信もある。

 後はテスト返却を待つのみ。


「あ、そうだ。採点はパーティが決まった人達を優先とします。そして、作業が終了次第返却します。パーティが決まってない人たちはその後から採点を開始しますので、こればかりは諦めてください」


 辺りからは「えー」だけどか「不公平だー」という反論が漏れるも、先生は聞き流している。

 もしかしたら自分もあちら側になっていた可能性もある。

 だがしかし、普段とは物凄く変わるのも学事祭の特徴。

 それと同時にどんな内容であれ、学事祭時の生徒会長権限というのは最大限まで上げられるということ。


 ……でも、今日は疲れた。もう別のことは考えられなそうだ。

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