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第38話『逆転の兆し』

 突如訪れた悲劇――。


 レンジャーラットの強攻撃によって康太こうたが後方まで吹き飛ばされて、地面に叩きつけられてしまった。

 今すぐにでも駆け寄って安否を確認しないといけないけど、行くにいけない。


美咲みさき、回復は待って!」

「なんで!?」

「今は……今はダメだ!」


 美咲みさきの気持ちは痛いほどわかる。

 僕だって、今すぐに回復スキルを使いたい。

 でもダメだ。

 康太こうたを吹き飛ばしたレンジャーラットは、僕たちに背を向けている。

 元々背後にいたメンバーが、機転を利かせて立ちまわってくれているようだ。

 でも、こんな状況で回復量の高い回復スキルを使用、もしくは多発すれば、間違いなくこちらに向かってくる。

 そんなことになろうものなら、壊滅は必然。


 考えろ。

 頭を回せ。

 明らかな不測の事態……解決策を練り出すんだ。

 盾役がいない状況で回復はできない。

 回復をしてしまえばヘイトを一点に集めてしまう……。


「きゃああああ!」

「うわああああ!」

守結まゆさん! 桐吾とうごくん! ――志信しのぶくんどうすればいいの!!!!」

「っ!!」


 守結まゆ桐吾とうごの叫び声が鳴り響いた。

 それが意味するのは、攻撃を食らってしまった。もしくは、衝撃によって飛ばされた……ということ。


 絶望的状況。

 解決策……解決策……なにか、なにかっ!


「あっ――そうか」

「えっ」

彩夏さやか幸恵さちえ、時間を稼いで!」

「え!? 稼ぐってどうやって!?」

「少しで良い――お願い」

彩夏さやか、四の五の言わないの! うちの総大将の頼みだ。やるしかなよ!」

「……ありがとう」


 彩夏と幸恵は意を決して、持ち合わせる魔法攻撃スキルを全部放ち始めた。

 そのタイミングに合わせて、両手に盾を装備。

 そして、拳を思い切り強く握って覚悟を決め――。


結月ゆづき!!!!」

「よーーーーし、待ってましたーっ!」

「【インスタントヒール】【ファストヒール】――【クイックヒール】【フィウヒール】――」


 僕は、回復スキルと連発し始めて、一歩ずつ前に足を進める。


「志信くん、なにをしてるの!? そんなのことしたら!」

「美咲、今のうちに全員を回復させて! 立て直すまで、僕と結月ゆづきで時間を稼ぐ!」


 返事は聞こえない。いや、もはや今の集中力は極めて高くなっている。


「いくよ!」

「よしきた!」


 結月と横並びに走り出して、レンジャーラットの懐へ飛び込んだ。


「せえぇぇぇぇい!」


 まずは結月の一撃。


「【スタン】!」


 次いで盾で、頭部に対しての攻撃。


「りゃぁぁぁぁあ!」

「【インスタントヒール】【クイックヒール】――【ファストヒール】【フィウヒール】」


 結月の連撃――回復の連発。


『じぃぃぃあぁぁぁ!』


 レンジャーラットの攻撃を――――体を反らして、寸で回避。

 そして続く連撃――――回避。


「結月!」


 ――次。


「志信!」


 ――次。


 僕と結月は、レンジャーラットから離れることなく攻撃と回避を繰り返す。

 そして攻撃とスタン値を貯めて、ダメージを与えながら時間を稼ぐ。


 ――こうしているうちに、レンジャーラットの動きが鈍くなってきた。


「【スタン】!」

『…………』


 決まった。

 スタン値が一定に達したようで、レンジャーラットはフラフラとし始めて、頭で円を描いている。

 それを見計らい攻撃の手をやめ、状況確認。


「美咲! 状況は!」

「――しーくん。いけるよ」

「僕もいける」


 返って来たのは、守結と桐吾の声だった。


「――――よし、みんな! ここから反撃開始だ!!!!」

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