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第37話『もつれ込む戦線』

 ――その一撃は完全に不意打ちだった。

 叫び声もダメージを食らったような声も聞こえてこない。

 そして、なにより悪い状況だと思ったのは……あちらの様子が伺えないということだ。


康太こうた!」

「おうよ、【プロボーク】」


 今この状況で最善を尽くすとすれば、再びヘイト管理を行うこと。

 康太こうたもそのように判断していたようで、対応までの時間に隙はなかった。

 ヘイト管理スキルをかけられたレンジャーラットは、じりじりと顔を康太の方へ引き寄せられている。


(……なんだあれは? 強制力のあるはずのスキルに対して、抵抗している……?)

「――くん、志信しのぶくん! ど、どうしよう!」


 美咲みさきの動揺した投げかけで、目の前の状況に再び意識を戻す。


「う、うん。まずは……そうだ。守結まゆ結月ゆづき桐吾とうご!」

「はいはーい!」

「大丈夫だよーん」

「問題ないよ!」


 3人の安否は問題なさそうだ。


「よかったぁ……」


 返答を聞いた美咲みさきはほっと一息ついている。


 さっきのはなんだ……?

 たぶん、康太も同じことを考えているに違いない。

 防御――今までなかった行動。それに明らかな拒絶反応。

 今考えられるのは二パターン。

 先ほどの行動から、ヘイト管理スキルからの解除方法があり、それを自ら行うことができること。

 もう一つは、スキルの効力がある時間が圧倒的に短いか……。


「なっ⁉」


 康太のその声と同時に、再び背後から攻撃している3人に反撃を繰り出している。

 今度は、あの縮こまる行動をとっていない。

 ……だとすれば、後者の可能性が非常に高いはずだ。


「康太、スキルを回して!」

「おうよっ、そういう感じか!」


 あの様子を察するに、康太も同じ選択肢を出していたようだ。

 【プロボーク】【インサイト】のヘイト管理スキルを、ヘイト管理から外れるタイミングで交互にかける――これでいけるはずだ。


 安心するには未だ遠く、レンジャーラットの耐久力にも目を見張るものがある。

 ソルジャーラットと違い、取り巻きの増援など妨害がないなか、言うならば集中砲火されているのに、未だ討伐できない。

 一つだけ救いがあるとすれば、魔法スキルを行動妨害メインで使えていることだけだ。


「うっぐっ」

「美咲、今回は回復多めにしないとまずい」

「えっ、でもそれだとあいつがこっちに来ちゃうんじゃないの?」

「今回は、もうそこら辺は気にしなくて大丈夫。みんなの回復に集中していいよ」

「うん。わかった」


 康太は以前のような回避や攻撃の受け流しができてない。

 時折攻撃を真正面から受け止めてしまっている。

 ヘイト管理に集中し過ぎて、いつも通りにできていないようだ。

 それに、今の背面側にいる3人の様子もわからない。

 先ほどの数回に渡る振り返りざまの攻撃を、完璧に回避できていれば回復する必要もない。

 だけどそもそも回復スキルは、視界に入っていない人を回復することができない――という一面もある。


 そして、今一番懸念していることがある。

 それは、今【フィジックバリア】が再使用までの時間が空いてしまっているということ。

 この状態で、康太が攻撃を回避せずに今日攻撃を防御してしまったら、もしかしたら……。


『ジァァァァア!!!!』

「――――うっ、ぐはっ!」


 想定しているなかで、一番の最悪なことが起きてしまった……。

 レンジャーラットの最上段から強攻撃――それを、康太は防御スキルを使用してその攻撃を防いでしまった。


 その行動の行き着く先は――。


「康太!!!!」


 ――戦闘不能。

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