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第36話『再戦』

 前情報と知っているのは限られている。

 階層ボスであるレンジャーラットは、エリアボスのように取り巻きはいない。

 強さの簡易的標準は、エリアボスより強く、より侵入者もとい敵を確実に排除するという、明確な敵対意識を持っているということ。

 それはさっきの攻撃を食らってわかった。

 一撃の重さが明らかに違う。まるで、一撃でこちらを仕留めようとしていた。

 あれは言うならば――殺意。


 もしもの時のことを考えて、康太こうたには1人での先行を頼んである。

 僕が先ほど戦闘したときの少しの情報もみんなに報告した。

 後は康太こうたの到着を待つのみ。


「やっぱり、私の勘は当たってたっ」


 と、いきなり結月ゆづきはウインクをしながら僕に向かってそう言いだした。


「初めて出会ったときから面白いって思ってたけど、家に遊びにいったときにはほとんど確信してたんだけどねっ」

「――えっ? ちょっと、なにそれどういうこと? ねえ、しーくん、私知らな――」

「きたよ!」


 桐吾とうごの声に一同は振り返り、視線が集まる先には、康太こうたの走る姿。

 そしてその背後には――レンジャーラット。

 走ることなく、でも人間より大きい歩幅で一歩ずつ着実と足を進めてきている。

 相変わらずの肩に担いだ直剣と分厚い筋肉。

 改めてこうして目の当たりにすると、まさに『怪物』という名前がお似合いな存在だ。


「……しーくん? 後でちゃんと説明してね」

「は、はい……」


 守結が振り返りざまに穏やかな笑顔で言ったその台詞に、悪いことは何一つしていないのにゾクッと悪寒が走った。


「うおおおおお!」


 康太こうたは広場の中心に立ち止まり、剣の刀身で盾を叩いて雄叫びを上げ始めた。

 前回のソルジャーラット戦でもやっていた通り、あれは自らを鼓舞するためにやっていると判断できる。

 雄叫びを上げた康太は、レンジャーラットとにらみ合い始めた。


 まずこちらの初手は、魔法スキルによる攻撃――。


「【ファイアーボール】」

「【ファイアーネット】」


 ――ラット系統の弱点属性である炎攻撃。

 炎の球が上体空いて目掛けて飛んでいき、炎の網が足に対して発動。


『シィー』


 レンジャーラットは、ほのかに笑みを浮かべているようにも見えた。

 特徴的な二本の前歯をむきだしていることから、それが余裕な表情をしているというのは間違いがないのかもしれない。


「ダメージは与えられたけど、そこまで効かないということか……」

「え、うっそ!?」

「うわー、そういう感じ?」

「あの分厚い筋肉……いや、もしかしたら、あの肉体を覆う体毛に阻害効果があるかもしれない」


 となると、次に頼れるのは物理攻撃。


「先行は私が行くよっ」


 そう意気込んで第一陣を切ったのは結月ゆづき

 無鉄砲な正面突撃ではなく、しっかりと背面からの攻撃。


『ジィィィ!』


 明らかな反応の違いが見て取れる。

 あの反応を見るに、物理攻撃が弱点のようだ。

 安直かもしれないけど、物理攻撃主体の戦術でいいかもしれない。


「物理主体でいこう!」

「わかった、僕も行くよ」

「よーっし、いっきますかぁっ」


 続いて桐吾とうご守結まゆも加勢。


「ということで、彩夏さやか幸恵さちえには、足止めや目くらましの役に回ってもらうね」

「りょうかーい」

「こういう時もあるかっ」

「できるだけ炎系のスキルでお願いしたいけど、状況判断は任せるよ」

「ちょっと難しそうだけど、やってみるよ!」

「よしきたっ、やる気出てきたー!」


 康太も一撃一撃をしっかりと見極めて回避できている。

 前衛の3人も側面や背面への攻撃を順調に続けている。

 出だしは好調……といったところ。


『ジャァァァァァ!』


 レンジャーラットの怒号が鳴り響き、痛みに対する反応……ではなさそうだ。

 雄叫びの後、体を小さく丸めて――勢いよく体を開き始めた。


「なっ、嘘だろ!」


 康太が突然うろたえ始めた。

 と、次の瞬間――。


『ジャァァァァア!』


 レンジャーラットは突如振り返り、最上段からの一撃を叩きつけた――。

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