「はぁ、はぁ――危なかったな」
「うひゃー、全力疾走とか久しぶりで疲れたー」
一度、呼吸を整えるために足を止めた。
呼吸を整えながら、辺りを見渡して索敵する――が、偶然にも先ほどと同じく安全地帯のようだ……運がいいとしかいいようがない。
「はーもう、さっきのってなんなの? 絶対やばい奴じゃん」
「いやホントに、あんなの聞いてないよ」
演習授業にあそこまで強力といえるモンスターが登場するなんて、いったい誰が予想できただろうか。序層の階層ボスだとしても、僕たちは未だ学生の身であって冒険者ではない。
戦闘経験もなければ、僕みたいに軽く情報を知っている人も、みんなみたいに情報……いや、存在自体初めて見る人のほうがほとんどのはず。
「あれは、レンジャーラット――階層ボス」
みんなの疑問に答えるように、僕は呟いた。
「え、それって本当なの?」
「私も薄々そうなのかなって思ってたけど……そうなんだね」
「階層ボスって、こんなただの授業で出てくるものなの……?」
それに、
「わからない……でも、現に目の当たりにしてしまっては、そうとしかいえない。それに……」
「それに?」
「もしかしたら、偶然出くわさなかっただけで、前回も出現していたのかもしれない」
「もしそうだとしたら、本当に運が良かったとしか言えないね……」
「それで、今のうちに今後の方針について決めたい」
終了条件について、先生は何も言わなかった。
それに、前回の終了したときの状況も不確か。
……なら、こんな状況のなか、わざわざ危険を冒してまで続行しなくてもいい。でも……。
「僕は、あいつ……レンジャーラットと戦いたい。と思ってる」
普段のモンスターと違い、大きさ、外見など見るからに強さの桁が違う――完全な危険な架け橋。
「今まで僕は、こんな挑戦をしたことがない。こんな……パーティ、いや、みんなとどこまでいけるか挑戦してみたい。これは、僕のわがままなのかもしれない。1人でも『嫌だ』という意見があるのなら、その意見を尊重したいと思ってる。……だから、みんなの意見を聞かせてほしい」
「私は賛成だよ。志信がそう言うなら勝てると思うし、それに、絶対面白いじゃんっ」
「だな。俺も賛成だ。強いやつとやり合えるなら、俺だって挑んでみたいしな」
結月と康太は即答。
「で、でも、あいつって相当強いんだよね……」
「そう、勝てる核心なんて何一つない。正確な情報なんて何もない」
その不安を拭ってあげられるほどの説得力は持ち合わせていない。
「僕は正直に言ったら、危険すぎる……と思う」
「でも、
桐吾と目線を合わせて、一度だけ頷いた。
「私は後衛火力だからさ、守ってもらう立場だから、みんなの意見に従うって言うか……いや違うな。うん――私も挑戦してみたい」
「ふふっ、私はなんかもう吹っ切れちゃってるもんねー。なんでもドーンと来いって感じだよ」
残りは守結と美咲――。
「私も、彩夏と一緒で、みんなに守ってもらう立場だから、私はみんなの意見に賛成だけど……志信くん、私……大丈夫かな……?」
「ごめん。無責任かもしれないけど、僕はそれを保証することはできない。美咲の思ったことを言って大丈夫だよ」
美咲の感情を全部とは言わなくても理解はできる。
守ってもらう立場であるからこその不安や重圧。
もしも、自分の回復が遅れてしまえば、前で戦ってる人が大怪我をするかもしれない。
もしも、自分の回復が早くなれば、連携が崩れてパーティが壊滅するかもしれない。
そんな、見えない負担を抱えながら強制的に参加させるなんて、僕にはできない……してはダメだ。
「――――うん。よし、私決めた! やる、やるよ」
「……ありがとう」
「はぁー。やっぱりこうなっちゃうかぁ」
そうため息を零しながら呟いたのは守結だった。
「私はね、正直反対。だって、しーくんも言ってたけど、あんなの勝てる確証なんてないわけじゃない? もしかしたら大怪我をするかもしれない。そんな危険なことを快諾なんてできるわけない」
守結が言ってることは至極真っ当なことだ。非の打ち所がないほどの正論。
「でもさ……。でもさ、しーくんが……。いや、今のなし。やっぱりさ、私もそうだけどみんなの言葉を聞いて改めて思ったんだ。私たちが目指してるのって、冒険者なんだって。――冒険者だったら、やっぱり
――そうか……ようやくわかった。
僕は、『
僕が求めていたのはこれだったんだ――。
全員の意思は決まった。
完全なる見切り発進。
でも、僕たちならっ!
「標的はソルジャーラット――討伐開始!」