先生が離れてすぐに周りはパーティの結成が始まった。友人同士、近くの人同士で。
パーティ勧誘、それは僕にとって縁がない話。
何よりもこの時間が一番嫌いかもしれない。
どうせ、わかっている。このまま時間が過ぎることを。
どうせ、わかっている。このまま空きのパーティへ惰性で入れてもらうことを。
そうだ、他クラスよりも不遇で活躍の場なんてない。
分かり切っていることじゃないか。しょうがないことじゃないか。
僕の予想は的中している。すぐ隣、すぐ前では瞬く間にパーティが結成されていく。
いつものように待っているだけでは時間が勿体ない、と期待薄に足を進めようとした時だった。
「よし、僕たちはどうしようか?」
耳を疑った――予想だにしていない言葉。
勧誘、そうではない。それだったら、まだ反応に困らない。こんな想定外の流れから更なる追い討ちを食らう。
「ねえねえ、志信。私たちもパーティに加えてくれないー?」
「私からもお願いするわ。もし迷惑じゃなかったらでいいんだけど……」
「僕的には大歓迎だけど……2人には申し訳ないんだけど、志信に判断を任せるよ……どうする志信?」
「……」
これは……一体どういう……?
淡い希望。そんなものが魅せた幻覚?
こんなことはありえない。今までもそうだったじゃないか。易々とメリットもない僕とパーティを組もうとする人なんていない。
霞む視界を腕で拭い現実を直視する。
いつも通り、そう、現実を見るだけ。
いつも通り、そう、いつも通り。
だが、晴れた視界が映したしたのは――。
「ねえ聞いてる? あっ、もしかしてもう戦術を考えてちゃったり?」
「ふふっ、志信くんだったらありえそうね。でも、こちらとしては返事がほしいところよね」
「そうだよ志信」
――3人からの視線が集まっていた。
これは現実――先ほどまでの出来事は幻覚でもなく、まごうことなき事実だった。
「固まっちゃってるし、もしかして図星だった?」
「志信くんも動揺することがあるのね」
「僕も初めて見たから、これはかなり貴重なシーンかもしれない」
こちらの気も知らずに盛り上がる3人。でも、嫌悪感の一つすら覚えはしなかった。
冷え切った心が初めて触れた温度。ぽっかり空いた心の隙間が少しずつ埋まるような感覚。
離れたところから何やら賑やかな声が湧き上がっている。
誰かがこちらへ向かって来ているのか、かなりの人達の声に応えながら進んでいるようだけど……。
「もし良かったら私たちをパーティに加えてくれませんか?」
関係のないことだと見向きもせずにいると、背後からそんな言葉が聞こえた。
どこか聞き馴染みのある声、この声の正体を僕は知っている。
一同がその声の方向に振り向くと、
「え、どうしてここにいるの?」
「やっほー、来ちゃったっ。そりゃあ合同授業だから居てもおかしくないと思うよ?」
「まあ確か……に? 言われてみればそうかもしれないけど……」
桐吾と美咲は疑問のを抱いているようだ。
それに加え、もう2人が後を追いかけてきて、あっという間に7人が集まった。
「えーっ、うそうそ、以外というか抜け目ないというか」
「え、そういう感じ?」
「いやいや2人とも……知らないの?」
顎に手を当てて感心している2人に、彩夏は疑問を投げかけた。が、心当たりがないようで、首を傾げて「「なにが?」」と返した。
「あぁ、えっとね――」
「彩夏、大丈夫だよ。自分で説明するから」
「おっけー」
「この人は僕の姉で、二年二組の
「
「なるほどね」
2人は僕と守結姉を交互に数回見比べて納得したようだ。
一旦、状況も整理がついたところで話を進める。
「じゃあまずは自己紹介からだね。こちらがクラスメイトの桐吾、彩夏、美咲だよ」
「初めまして、よろしくお願いします」
「お願いしまーす!」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いねっ、彩夏さん、美咲さん、桐吾くん」
4人は笑顔で握手をした。すると、守結姉に手を引かれて少し離れたところまで連れていかれた。と思ったら、肩を組んで前屈みに。
「へ、へぇ~、あの子たちと結構、仲が良いんだー?」
「どうしたの守結姉。なんだか怖いよ」
「いいえ、別に? いつも通りだけど?」
ニコニコと口角を上げ、目も笑っているけど、笑顔の仮面を被っている様にしか見えない。
正直、その矛先に全く検討がつかないけど、ここはお利口に……。
すぐに拘束を解除され、ビシッと気をつけの姿勢をとる。
守結姉は腕を組んで目を閉じ、何かを決めたかのようにこちらへ指を差した。
「私も、今日から敬称なしの名前で呼んでちょうだいっ!」
「え、それってあの時だけだったんじゃ……?」
「もう、決めたったら決めた! そういうことだからよろしくっ」
そういうと、守結はみんなのところへ戻っていった。
僕も振り返ると、守結を追ってきていた2人は既に自己紹介を始めている。
強制連行から解放された僕も合流することにした。
「ごめんごめん、おっ待たせーっ」
「お、やっと戻ってきたなー。俺は
「あははっ、ほんとそれ。守結ったら私たちに声掛けてくれたのは嬉しかったんだけど、沢山の勧誘を全部断って行っちゃうんだもん。私たちは3人パーティかあ、って思ってたら――こういうことねえ~」
「ちょともう、
「あーはいはい、これは失敬失敬。私は
3人は気軽に談笑できる仲のようだ。流石のコミュニケーション能力。複数人から勧誘されていたことから、【結姫】というのは伊達じゃないみたいだ。
少し、落ち着きのあるこちら側と温度差があるようにも思えるけど……。
そんな感じに、みんなの顔色を窺いながら場の雰囲気に飲み込まれていると、気づけば静まり返り全員の視線が僕に集まっていた。
「それで、志信。全員とパーティを組んでも大丈夫?」
「……あ……うん。みんな、よろしくね」
桐吾からの問いに迷いなく答えると、歓声が溢れ始めた。
こうして、僕、