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45話 暴走と離反

「これまでの結果を総合し、親衛隊と勇者一行の決闘は3対0で親衛隊の勝利とする!」



モーガンさんの言葉に、中庭へと歓声が満ち溢れた。これでもう、俺たちがレイア姫の親衛隊から外されて勇者一行の軍門に下る……なんて心配はなくなったわけだ。姫の方を見ればとても嬉しそうな表情で、後で手が痛くなりそうなほどにパチパチと拍手していた。



「まあ、当然の結果よ」


「なかなか楽しめましたね」



ニーニャとスペラはそれぞれでとてもスッキリした表情を見せていた。……まあ、2人とも快勝だったしな。俺もだけど。



「さて、それじゃあさっそく勇者と話をつけるか」


「そうね、アイツのことだしどうせイチャモンをつけてくるでしょうけど……」


「かもしれないけど、嫌なことはさっさと済ませるに限るからな」



俺たちは辺りを見渡して勇者一行の姿を探す。石造の舞台の上ではまだアグラニスが悔しそうに立っている。その舞台の下には疲れたように大の字に寝っ転がるザイン&エンリケ。そして肝心のアークは……。



「あれ? いないぞ?」


「あら、あちらにいるのが勇者ではありませんか」



スペラが指を差してくれるが、でもどこだ? 中庭が広い上に決闘を観戦にきた衛兵とかでごった返しているからなかなか見つからない。



「えっ? どこ?」


「あちらですよ……ホラ、いま王城への入口から出てきた」


「えっ? 王城? なんで城の中から? ていうか入口が多すぎてどれだか分からん」


「あの大きな生垣いけがきの向こうです。ホラ、剣をメイドに突き付けて、引きずるように歩いているアレです」


「えーっと? 生垣と、剣をメイドに……って、はぁっ⁉」


「──お前ら全員よく聞きやがれッ!」


アークは再び舞台の上に立っていた。右手に剣を、そして左手には王城内から無理やり連れてきたのであろう、怯えて涙を流すメイドの腕を掴んでいる。



「俺様は誰の下にもつく気はねぇッ……! 決闘に負けたからなんだ? 知ったことかよ、もう勘弁ならん! 俺様は帰らせてもらうぜ!」


「なっ、何をしているっ⁉ 血迷ったか勇者アーク!」


「うるせぇッ!」



モーガンさんの言葉に、アークは剣を振り回し、取り乱したように叫び返す。



「今後いっさい俺様に関わるなッ! いいか? お前らがひとりでも俺様を追って来てみろ、このメイドの命は無いと思えッ! さあ、アグラニス! テレポートだ! テレポートを使って逃げるぞッ!」



……おいおい、マジかよ。勇者アーク、そこまでして俺の下にはつきたくないのか。っていうか全く関係ないメイドを人質に取るとか。クズ過ぎないか?



「グスタフ、アタシが気配遮断のスキルを使ってどうにか近づくわ」


「頼むぞ、ニーニャ。俺とスペラはアグラニスを何とかする。いいな?」



3人で頷き合う。そしてニーニャが気配を消し、俺とスペラが左右に分かれて舞台にゆっくりと近づこうとしていた、その時。



「『ディメンション・バレッツ』」



舞台上で、紫に輝く光の球がいくつも飛んで、そしてアークの背中に叩きつけられた。



「ガハッ……⁉」



アークの体が舞台から大きく吹き飛び、そして俺の足元に落ちてきた。メイドもいっしょに宙へと飛ぶが、それはスペラが浮遊魔術を使って無事に地面へと降ろす。



「な、なにが……げふっ⁉」



アークが目を白黒させているうちに、辺りの衛兵が押し寄せてきて勇者の体に圧し掛かった。



「どっ、どけっ! 俺様を誰だと思ってるんだッ! アグラニスッ! 俺様を助けろアグラニスッ!」


「勇者を取り押さえろっ! 気を抜くな、相手は腐っても勇者だぞ!」



ジタバタと暴れる勇者とそれを取り押さえる衛兵たち。ふいに、俺の後ろにひとつの気配が現れたので振り向けば、そこにいたのはテレポートしてきたと思しきアグラニスだった。彼女は被っていたフードを脱いで、感情の読み取れない笑みを向けてくる。



「……お前がアークを撃ったんだな、アグラニス?」


「ええ、そうですわ」



アグラニスは衛兵たちの体に押しつぶされてギャアギャアと騒ぎ立てているアークに、ゴミでも眺めるような冷たい視線を向ける。



「魔王討伐が勇者ではなくグスタフ様を中心とする親衛隊の仕事になってしまえば、私があの男についていく理由も無くなってしまいますから」


「……理由ってのはなんだ?」


「私はそもそも王国の人間ではありませんので。勇者一行の旅路をサポートして、彼が魔王討伐を果たした後にその【力】を我が国へと取り込もうと思っていましたが……勇者アークがグスタフ様の管理の元に入ってしまうとなれば、その計画はダメそうですわね」



アグラニスは深いため息を吐くと俺に一礼をする。



「私は自国ではそれなりの立場もございます。グスタフ様ならびに親衛隊の皆様、よろしければ我が国へ来ませんか? 望むポストをお約束しましょう」


「……なるほどね、完全にシナリオから外れた存在だったわけだ。通りで俺の知らないキャラなわけだよ、お前はさ。あとその勧誘は問答無用で断る」


「でしょうね。私も申し上げてみただけです」



アグラニスは薄く笑うと、自身の羽織るローブを広げた。



「ですが残念です。きっと、あなた様がのちの我が国最大の敵になることでしょう」


「……敵? どういうことだ? お前たちの狙いは何なんだ? 魔王討伐の先に……いったい何を見ている?」


「フフフ、魔王討伐を果たし、その時まだみなさまが生きていらっしゃればきっと分かる日がくるでしょう……その時の再会を楽しみにしておりますわ」


「おい、俺が逃がすとでも──」



俺は手を伸ばし、アグラニスのローブを掴もうとするが……その手がすり抜けた。



「幻影っ?」


「その通り」



アグラニスの声は宙から聞こえてきた。見上げれば、俺の手の届かない数メートル先の宙へとその体を浮かせている。



「計画は1つではありません。勇者が得られぬのであれば別の手段を講じるまで。それでは、またお会いしましょう──」



アグラニスはそう言い残すと、一瞬のうちにその場から消え去ったのだった。

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