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43話 決闘開始~その2~

3本勝負の1本目は終わった。石造の舞台は特に破損したりしている箇所もなく、清掃などの必要がなかったため、引き続き2本目の勝負を行うことになった。勇者アーク、そしてニーニャが舞台上へと上がって来る。



「ったく、役立たずどもめ。少しは食い下がれってんだ」



アークはそう悪態を吐くと、舞台上で気を失っているエンリケの体を舞台下へと足で転がし落とした。



「おい、勇者一行のために戦った仲間に対してその仕打ちはあんまりじゃないのか?」


「フンっ、俺様にいち衛兵ふぜいが文句をつけるな。蹴り飛ばさないだけマシだろうが」



……相変わらず性格最悪の勇者だ。このまま2連続で俺が相手してボコボコにしたいと思ってしまうほどに。しかし、そんな俺の胸中を読み取ったのか、ニーニャが俺の肩に手を置いた。



「アタシに任せておきなさい」


「ニーニャ……」


「アンタまさか、アタシのこと心配してるの?」


「いや、信頼してるよ」



ニーニャが不敵に笑って見せたので、俺がこれ以上口を出すこともあるまい。俺のアークへの苛立ちも含めてすべて、ニーニャがぶつけてくれるに決まっている。



「──2本目の試合、開始ッ!」



俺が舞台から降りて、それからさほど間も空けずにモーガンさんの声が響く。アークはゆっくり背中の剣を抜くと、さも余裕そうにニーニャの前まで歩いてやってきた。



「よぉ、こうして話すのは久しぶりだな。盗賊ニーニャ」


「……どうも」


「悪いが負ける気はしないぜ。大人しく降参をすれば、痛い目を見ることも無く、お前は晴れて勇者一行のメンバーという華々しい肩書きを得ることができる。どうだ?」


「まるで興味がそそられないわね。それにアンタが自分に勝てそうな相手と思って私を選んだのだとすれば……腹が立ってしょうがないわ」


「そうか、それは残念だ」



アークはおどけてみせると、またもやゆっくりとした足取りで試合開始時の地点へと戻っていく。



「しかしニーニャ、ちょっとばかり俺様はお前のことを過大評価していたみたいだぜ」


「……なんですって?」


「俺様はてっきり、ノコノコと近づいてきた俺様に対して盗賊お得意の不意打ちでも喰らわせてくるんじゃないかと思っていたんだが……スキルが無いのか度胸が無いのかは知らんが、とんだ拍子ひょうし抜けだった」


「何が言いたいのかしら?」


「つまりジ・エンドってことだ、ニーニャ」



瞬間、ニーニャの目の前にいたはずのアークの姿が消えた。そして、ニーニャの後ろにその姿が現れ、無防備な彼女の背中をめがけてその剣が振り下ろされる。



「きゃっ……!」



ザシュッ! という斬撃音。それと共にニーニャが地面へと倒れ込んだ。



「フハハッ! どうだ、見たかッ! これは盗賊職がパーティーにいないからという理由で俺様が渋々取ってやったスキル『霧幻鏡面むげんきょうめん』だ! このスキルは俺様の姿を隠し、その代わりに分身を作り出すことができる。俺様はさっきお前に近づいた時にはすでに姿を隠していたんだ。そして作り出した分身をお前の目に見えるように動かし、お前がそれに気を取られている隙に背後に回っていたのさ!」



アークは得意げに笑うと剣を担ぐ。



「いくら盗賊職とはいえども……いや、盗賊職のお前だからこそ、勇者である俺様がこんなスキルを持っているとは思いもよらなかったようだな。ははっ! ザマぁ見ろッ! まったく、スラム出のヤツは頭が弱くて困るぜ。これから部下にするにあたっては多少の教育をくれてやる必要がありそうだなぁ!」



とても気持ちよさそうにアークはそう言い切った。



──そしてその直後、背中を思い切り蹴とばされる。もちろん、他の誰でもない対戦相手のニーニャによって。



「がふぅッ⁉」



アークはとてもキレイに真横にすっ飛んだあと、舞台の上を2回3回とバウンドしてその一番端まで転がっていった。



「まったく、なー--にを長い講釈を垂れているのかしら。盗賊職のエキスパートであるアタシに対して、よりにもよって盗賊職のスキルで罠を仕掛けるなんて……見破れないワケないじゃない。頭が弱いのはどっちだって話よ」


「ぐぅっ……! ニーニャ、テメェッ! いったいどうして動ける……⁉」


「そりゃ、アンタの攻撃なんて最初から喰らっていないからに決まってるでしょ」


 ニーニャが指さした先、そこには亀裂きれつの入った丸太が転がっている。斬られたニーニャが倒れていた場所だった。



「アンタが斬ったのは私の変わり身。ちなみにアンタが背中に回ったことは普通に気づいていたわ。息遣いや足音が殺し切れてないのよ、身の丈に合っていないスキルが可哀そうね」

「くっ……! 言わせておけばぁッ!」



アークは剣を握り直すと、それから勇者特有のステータスの良さに任せてニーニャへと突っ込んでいく。そのスピードは先ほどのザインよりも速い。恐らくレベルにして30ちょっとくらいはあるだろうか、というほど。しかし、



「喰らえッ、『ギガ・スラッシュ』!」


「ほっ、と」ヒョイッ


「まだだッ、『百連斬』!」


「ほ、ほ、ほっ、と」ヒョイヒョイヒョイッ


「テメェ! 避けてんじゃねーぞッ!」


「ふふん、当たらない方が悪いんじゃない? っていうか、こんなこと前にもあったわよねー? あれー、どこでだったかしらー? オモイダセナイナー?」


「こ、このッ……!」



高笑いするニーニャに、しかしアークの剣はことごとく空を切った。



……ちなみにニーニャの言う『こんなこと』は恐らく、スラムのゴミ山で行われた俺とアークの最初の決闘のことだろうな。そういえばあの時の俺もアークの攻撃を徹底的に避け続けていたんだった。

ニーニャはそれを再現することでアークのプライドをズタズタにしてやろうというのだろう。傷口に塩を塗るような、なんともひどい戦法だ。いいぞもっとやれ。



「クソクソクソがァッ! テメェがそうくるならこっちにだって考えがあるぜッ! 攻撃が当たらないなら空間ごと吹き飛ばすだけだ、『ギガ・フレ──「『クリアレント』」



アークが魔術を使おうとした瞬間に、ニーニャがスキルでの一撃を与える。するとその魔術発動はキャンセルされて、アークの動きが止まった。



「なっ……⁉」


「まったく、アンタ……本当に盗賊職のことなんも分かってないのね」



──盗賊系スキルでもっとも使用頻度ひんどの高いものの1つ、『クリアレント』。相手の魔術発動の際にカウンターで仕掛けることで、相手の魔術発動をキャンセル&一瞬の行動不能を付与することができるスキルだ。


 ……盗賊職は魔術を使用する相手に対してかなり有利だ。こうやって自身の素早さを存分に活かして相手のすきを生み出せるんだからな。ニーニャはもちろんその相性有利を分かっている。実際のところ、恐らくアークの剣での攻撃をあえてかわし続けて言葉であおっていたのも、この魔術を誘うための戦略だったのだろう(あとは単純に嫌がらせ)。



それからニーニャは、一瞬の間も空けずに攻撃の会心率強化のスキル『クリティカルバッファー』を発動し、目にも止まらぬ速さでの四連突きを繰り出した。



「ガッ⁉」



ニーニャの鋭い拳がアークの四肢に突き刺さる。



「……ウソ、だろッ……!」



ダラン、とアークの腕が力を失ったように下に垂れて剣を落とした。そして足もグニャグニャとその体を支えきれず、アークは受け身も取らずに地面へと倒れ込んだ。直後、ニーニャはその首にクナイの刃を当てた。



「四肢の急所に攻撃を打ち込んだわ。数分は動けないはずよ。この状況をどうにかできるスキルが無いようなら……これで決着ね」


「そ、そんな……バカな……!」


「──勝者、ニーニャ!」



モーガンさんの判定が下り、こうして2本目の勝負もまたつつがなく終了した。

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