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40話 勇者一行との再会

それはとてもじゃないが唐突な話だった。



「お父様っ! これはいったいどういうことですかっ? グスタフ様とニーニャさんを親衛隊から解任し、勇者一行に加えようだなんてっ!」



俺とレイア姫の休日から一夜明けて、翌朝。玉座の間には王とモーガンさんの他に、俺とレイア姫、さらに勇者アークをはじめとする勇者一行の姿があった。



「落ち着くのだレイア。まだ決まったわけではない」



王がさとすように言うと、しかしこれに勇者アークがフンと鼻を鳴らした。



「決まったようなものだろう、王よ。魔王討伐よりも優先することなど他にはあるまい」


「うむ……勇者アークよ、お主の言うことももっともだがな」



王は困ったようにモーガンさんと顔を見合わせ、それから俺を見た。



「しかしこれにはグスタフの意見も聞く必要がある。なにせ魔王軍との戦いにおいて1番の実績を持っているのは彼なのだから」



玉座の間全体の視線が俺に集中した。勇者一行に加わるか、それを拒否するか。俺の答えによって大きな議論が巻き起こることになるだろう。



──さて、そもそもこんな事態になったのは昨日、俺とレイア姫がふたりきりの休日を過ごしていた最中に勇者アークが現れたことに起因する。



『レイア姫親衛隊などという【おままごと】に興じているキサマ、それとお前の部下となっている盗賊ニーニャ。お前たちはこれより俺様の下につくことになる。晴れて勇者一行に加わることができるんだ、喜ぶがいい。王の許可は取っている』



アークが俺とレイア姫の前にやってくるなりそんなことを言い始めたから、それまで俺とレイア姫の間にあった妙な雰囲気はあっという間に立ち消えてしまった。


その場でレイア姫が珍しく感情的にアークと言い争うわ、俺もそんなレイア姫をなだめつつアークと引き離そうとするわで場は乱れに乱れて、翌朝の玉座の間で改めて話し合うということになったのだ。



「陛下、とりあえず状況を整理させてもらってもいいでしょうか? そもそも何で俺とニーニャが勇者一行に加わる必要が出てきたのか、俺たちはその説明をまだ受けていません」



無難に俺は切り出すことにする。王が頷き、勇者アークへと発言を促した。



「フンっ! そんなこと俺様がお前たちに説明するまでもな」


「──私が代わりにご説明しましょう」



アークを手で押しとめて、勇者一行のひとりで魔術師であるアグラニスが答えた。



「【グラン・ポルゼン】、それが現在私たち勇者一行の道のりの障害になっている山脈の名前です。圧倒的な強さを持つモンスターたちが巣食うこの山脈を超える手段が現状の我々には存在しないのです」



……グラン・ポルゼン。その名前はもちろん知っている。ゲーム上でも屈指の難所であり、ここを攻略するにはレベルだけではダメだ。回復役の魔術師、気配を消してモンスターから逃れやすくなる盗賊、そして臨機応変に事態に対応できる優秀な前衛が必要になるのだ。



「回復は私、アグラニスめができますが……しかし強力な盗賊職と前衛がどうしても足りないのです。このままでは山脈の攻略は不可、よって私たちが魔王城にたどり着くこともできなくなってしまいます」


「なるほど」



ちなみに本来のゲームシナリオに沿っていれば、グラン・ポルゼンに挑む時点でニーニャもスペラも仲間になっているはずだ。だから後は勇者アーク自体が強力な前衛になることさえできていれば攻略可能なんだけど……そうはならなかったみたいだからなぁ。いわゆる無理ゲー、詰みの状態になってしまってるわけだ。



「ちなみに、人を雇って育てるという考え方はできないのか? それなりの時間はかかるけど、今の王城衛兵たちの練度を見てもらっても分かる通り、適切な方法で育てれば前衛も盗賊職もそろうと思うんだけど」


「それは実験的に試してみましたが……上手く参りませんでした」


「え?」



チっ! とアークが舌打ちをした。



「俺様がなんでわざわざあんな低レベルなザコどもを育てなくてはならないんだ。育ってるやつがここにいるんだから、それを使えばいいだけの話だ」



……ははん、分かったぞ。いちおう育てようと何度かはチームには入れてみたものの、レベル差に耐えられなかったアークが全部追い出してしまったってところだろう。こんなプライドの高い俺様キャラに雇われた側も不幸なもんだ。



「状況は分かった。説明どうも、アグラニス」


「いいえ。それで、グスタフ様? 現状を理解いただけたからには勇者一行への加入をご承諾いただけますわよね?」



……うん、現状は理解できた。確かに俺とニーニャが手を貸せばグラン・ポルゼンくらい余裕で踏破できるだろう。しかし、だ。



「残念ながら、断固拒否する」


「は?」



あぜんとするアグラニス、そして勇者一行へと俺はさらに、



「ていうか、むしろ逆だな。お前たち勇者一行が俺の下につけ」



ガッツリはっきりとそう言い放ってやった。



「……なんだとっ?」



アークが額に青筋を立てて、俺の胸ぐらを掴む。



「どういうことだ? どうして俺様たちがクソ衛兵ふぜいの下につかなきゃならねーんだよ?」


「それは簡単なことだ。俺がお前たちより全然強いからだよ」


「はっ? 誰が……」



俺は自分の胸ぐらを掴み上げていたアークの手を握ると、ゆっくりと捻り上げる。



「い、痛い痛い痛いっ! やめろ! 放せっ!」


「……分かったろ? レベルが違うんだ。お前のステータスじゃ腕力で俺に勝てないし、武器を持っても結果は同じだ」


「くっ……! だが、魔王を倒せるのはこの世で俺1人だろうが! なら俺の下にお前がつくのが普通だろっ?」


「それは違う。お前ができるのは魔王にトドメを差すことだ。いまのお前じゃそこまで魔王を追い詰めることはできねーよ。だがな、俺にならできる」


「それになんの根拠があるっ⁉」


「あるさ。俺はこれまでに魔王直属の幹部である三邪天を2体倒した実績がある」



俺はそう言って今度は王へと向き直る。



「陛下、どうかレイア姫親衛隊の下に勇者一行たちの籍を置かせてください。それならば俺が日ごろのレイア姫護衛の任務を果たしつつ、勇者一行のレベル上げの指揮を行い、残る三邪天のひとりもうち滅ぼし、そして的確に魔王を追い詰めることができるでしょう」


「うむ……」



王は少し考えこむようにして俺と勇者アークを交互に見比べて、頷いた。



「確かに、これまでの活躍からしてもグスタフに魔王討伐の指揮を任せた方が上手くいくだろうな」


「オイオイオイ! 王よ! 俺様だって各地でモンスターを狩っているだろうが!」


「そうだな、それはワシも評価しておる。だがな、グスタフの功績の方が大きく、そして強力なモンスターたちを相手にしているという点でより信頼ができる」


「クソ……! そんなの納得できるかっ!」



アークは唾を吐き捨てると、



「やってらんねぇな。王よ……よく聞け? お前がその気なら俺様は魔王討伐なんて役目は降りさせてもらうぜ?」



あろうことか王へと指を突き付けてそう言い放った。

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