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29話 予想外の出会い~第3ヒロイン~

「ここが、魔の森……」



その森への入口はそこまでに続いてきた森とは打って変わって暗い雰囲気に包まれており、ゴクリとニーニャが喉を鳴らす。この王国内ではこれほど有名な場所もない人々にとっての禁域だ。さすがのニーニャも腰が引けているようだった。



「大丈夫だよ、ニーニャ。ここのモンスターの平均レベルは13だ。俺たちが遅れを取ることはない」


「えっ、そうなの……? でもそれにしては犠牲者が多いって話をよく聞くわよ?」


「それはこの魔の森の特性のせいだな。この森は人の方向感覚を大きく狂わせるんだ。そのせいで森から出たくても出られず、次々に襲い掛かって来るモンスターにジワジワと体力を削られてしまうんだよ」


「そ、それはそれで怖いわね。で、その対策はあるの?」


「もちろん。実はこの魔の森には地図があるのさ」



それは魔王討伐の旅の途中で寄ることになるダンジョンに存在する【勇者の鎧】の在り処を記している地図だ。実はその鎧がある場所こそがエルフの里であり、この魔の森の中であるという設定なのだ。だからゲームとしては最強装備をそろえつつも、シナリオ進行もできるというそれなりに進めやすい優良設計ではあった。クソゲーなことに変わりはないけど。



「そうなのね。それじゃあ道案内はグスタフに任せればいいかしら」


「ああ、それはもちろん……」



と、言いかけて、あれ? いやいや、俺、そもそもそのダンジョンクリアして無くね? と気が付いた。



……そうだよ、クリアしたのはあくまで前世でゲームをプレイしている時だ。こっちの世界に来てから俺はそのダンジョンに行ったことなんてないじゃん。勇者一行はどうだか知らんけど。



「……グスタフ? どうしたの?」


「えっ? ああ、いや、その」


「まさか地図を忘れた、とか言わないでしょうねぇ?」


「えぇと」



うーん、どうしたものか。まさかゲームとこっちの世界での現実がごっちゃになってました、なんて言えないよなぁ……。と、その時だった。



〔グルルルルァッ!〕


「うわぁッ! ば、化け物ぉッ!」



森の奥から、かすかにではあるがそんな声が響いて俺とニーニャは顔を見合わせる。それは間違いなく、誰かが何かに襲われている悲鳴だった。



「とりあえず……行こうっ! 助けなきゃ!」


「えっ、グスタフ、だから地図はっ⁉」


「そ、そんなの見てるヒマ無いからっ!」


「はぁ~~~っ⁉」



俺は背中に疑惑の視線を受けながらも走った。地図が無いのをごまかしてしまったのはアレだが、まあ突然のアクシデントへの不可抗力ってことで、許せ。



……しかし、さっきのうなり声のようなもの、どっかで聞いたことがあるような。そんなことを思いながらたどり着いた先、そこにあったのは地獄のような光景だった。



「た、助け……」


〔グルルルルァッ!〕



巨大なオオカミが叫ぶやいなや、風の刃が飛び、男たちの首がコロコロと地面を転がった。それも10人以上。胴体の方に握られている剣にはこの前玉座の間で見せてもらった特徴的なつばがはめられている。



……ってことは、コイツら盗賊たちか。オイオイ、しかもよく見たら中ボスたちの首もあるじゃんか。



〔グラララララァッ!〕



そのオオカミは俺とニーニャには背を向けて、再び何かに向かって吠えたけった。その視線の先にいたのは……腰を抜かす、1人の美少女だ。



「オイオイ、まじかよ……!」


〔グラァッ!〕



巨大なオオカミはすでにすべての盗賊を殺していたが、しかしそれに満足しきれなかったのか、最後にその美少女に向かって大きく飛びかかった。



「──させるかっ!」



俺はとっさに槍を地面に叩きつけ、スキル『千槍山せんそうざん』を使用する。オオカミが美少女へと喰らいつく直前、しかし地面から伸びた千本の槍がそれを迎え撃った。



〔ガルァッ⁉〕



スキル『槍の結界』が進化して攻防一体となった新スキル『千槍山』にオオカミは深いダメージを負ったようだ。その槍の束から距離を取るようにバックステップをしたが、しかし。



「残念だったわねぇ、そこにあるのは落とし穴よ」



そこにはニーニャが用意周到にスキル『落とし穴』を仕掛けていた。オオカミの下半身が深く狭い穴へと落ち、一瞬その動きが止まった。



「よくやった、ニーニャっ!」



俺はスキル『雷影ライエイ』を発動する。手に持つ槍が点滅するかのように光ったかと思うと、雷のような軌道で穂先が伸びる。そして一瞬のうちにオオカミの体を貫いてその先の地面にまで穴を空けた。


パァンッ! という攻撃の音が遅れて聞こえてくる。『ボルテック』のスキルの進化系スキル『雷影』。その名の通り雷にできる影のごとき音速を超えるスピードで相手を貫く高威力の技だ。



〔グルゥ……?〕



あまりのスピードに、オオカミは恐らく自身が致命傷を負ったことすら知覚できなかったのだろう。不思議そうにうめいたかと思うとそのまま糸が切れたかのように倒れた。 



──『レベルアップ。Lv42→43』



「よしっ。レベルアップもしたし、ちゃんと倒せたみたいだな……」


「おぉっ⁉ グスタフっ、なんかすごい量の経験値が入ったんだけどっ⁉ このオオカミいったい何者よっ⁉」


「うーん、なんだろうな? でもたぶん30レベルは超えてたかもな」


「うげぇっ! な、何が『大丈夫だよ、ニーニャ。ここのモンスターの平均レベルは13だ。俺たちが遅れを取ることはない。キラーンっ!』よっ! 危うくトリプルスコアな敵じゃないっ!」


「俺の声マネやめて? 恥ずかしいから。あと『キラーン』なんてひと言も言ってない」



……なんかめっちゃかっこつけてたみたいじゃん、俺。



それにしても、だ。こんなオオカミ魔の森にいたっけ? いなかったとは思う。だけどどこかで見たことはある気がするんだよなぁ。使っている風の魔術といい、ゲームをやってた時に1回くらいは戦ったことがあるような……。



「あ、あの、助けてくださりありがとうございます」


「あ、うん?」



後ろから声をかけられて、振り向く。そこに立っていたのは、先ほどまでオオカミににらまれて座り込んでいた美少女だ。


青みがかった銀髪から覗く尖った耳、サファイアブルーの瞳。粉雪が染み込んだような純白の肌。それは間違いなく、本来なら勇者が出会うはずのエルフのヒロイン──スペラだった。


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