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25話 一方の俺様系自己中勇者は~その3~

「な、なあ、勇者のダンナ。オイラたち、本当にこのダンジョンに潜るんでヤンスか?」


「そうだと言っているだろう。いい加減覚悟を決めろ、盗賊!」



アークが背中を蹴ると、その盗賊はうなだれながらも力なく頷いた。



──ここはファボスの街の西にある森、古代の遺跡が乱立する中にぽっかりと入口の穴を空けているダンジョン前だ。



ここにいるのはアークと盗賊の他に、ザイン、エンリケ、そしてアグラニス。総勢5人だ。



「さすがはアーク様。しっかりとザインさんとエンリケさんと契約を結べたのですね」


「ああ、まあな」



ザインたちの存在をアークに知らせてファボスに向かうようにと指示を出したのはアグラニスだ。気位の高いアークがそんな指示に従ったのはひとえに、



『1か月前にアーク様の旅路を邪魔したあの衛兵と同じくらいの強さの剣士と弓兵がファボスにいると星が告げています。仲間に引き入れてみては?』



という彼女の言葉にあった。グスタフとかいう名前だったあのクソ衛兵に復讐してやると、その一心でアークは魔王討伐の旅を歩んでいるのだ。


しかし、人材の提案をした後にアグラニスは用があるとかなんとかでアークの側から離れていて、さっきの今ようやく合流したところだった。アグラニスの行動はいつもどこかミステリアスでアークにも図り切れない。だからこそ、アークは本当に自分がアグラニスをぎょし切れているのか、常に少しの不安を抱えていた。



「おい、アグラニス。それにしたってなぁ、いったいお前はこれまでどこに行ってたんだ?」


「星からの信託しんたくがありまして、用事を済ませに」


「また星か」


「ええ。しかしその導きのおかげでリリカの町において良い装備に巡り合えましたよ、ホラ」



アグラニスが手を広げると、その中にあったのは赤と青、そして緑の指輪だった。



「これはパワーリング、身に着けるだけで攻撃力が上昇するレア装備です。こちらは攻撃力が出しにくいエンリケさんに」


「おぉ、いいのか! ありがたいねぇ、魔術師殿」


「これはスピードリング、素早さが上昇します。こちらはザインさんに」


「おうっ! 感謝するぜぇ!」


「そして最後のディフェンスリング、こちらをアーク様に。あなたはこの勇者一行の要ですから、こちらをつけて防御力を上昇させてください」


「あ、ああ。助かるぜ、アグラニス。コイツを買い付けにリリカの町に行っていたのか?」


「……ええ、まあそんなところです」



アグラニスはあいまいに頷くと、



「さあ、さっそくこのダンジョンを攻略してしまいましょう、アーク様」



と、そのまま歩き出してしまう。



……やはり、何か引っかかる。が、しかしアグラニスの行動は一貫して自分のためになっている、それを考えれば不審に思うことなど何もないはず。アークはそう判断すると気持ちを入れ替える。



「よしっ! とっととこのダンジョンを制覇しちまうぞっ!」



おおっ! というザインたちの声を後ろに、アークは腰の引けた盗賊を無理やり先頭に立たせてダンジョンを進んだ。


ダンジョンの中は迷路のようになっていて、時折ケイブ・バットやスライムなどのモンスターがアークたちの前に立ちふさがった。しかし、さすがは大金を払って雇ったザインとエンリケ。そのすべてを寄せ付けすらしない。



「どっせいっ!」



ザインの大剣が複数のスライムをまとめてダンジョンの壁に叩きつける。



「そらよっ!」



エンリケの矢は吸い込まれるようにケイブ・バットの脳を貫いていく。



「こりゃスゲぇぜ……! 俺様も負けてられないな。『メガ・スラッシュ』!」



アークもまた負けじとスライムたちを切り刻む。



──そうして、半日ばかりダンジョンを潜ったところだった。



「アーク様、どうやらここが終着点のようですわ」


「ここが……」



そこは大きな空間だった。そしてその中心にはかなりの古さを誇るであろう大きな宝箱がポツリと1つ。恐らくそれが目当ての【勇者の鎧】の場所が記されている地図が入っている宝箱だろう。



「ようやくたどり着いたかよ……ったく、手間取らせやがって」



アークは鼻を鳴らして部屋に踏み入る。そして宝箱の近くまできたその時。



──パキリ。



「えっ?」



何かを踏んで、折った音がする。下を見て、アークの目に入ったそれは──。



「ひぃっ!」



──人骨だった。しかも、1人分じゃない。よく見ればその部屋の隅っこのあちこちに何体、いや何十体にも及ぶであろう人骨が散らばっていた。



〔グルルルルッ……!〕



直後、アークたちの後ろから、低いうなり声が聞こえる。振り返るとそこにいたのは常人よりもふた回りはデカいザインを、さらにひと回り大きくしたほどの巨大なモンスター。



──銀色の毛を鈍く光らせる、明らかに普通ではないオオカミだった。



「な……なぁっ⁉」



圧倒的。そのオオカミは見ただけで感じ取れるほどの圧倒的な強者のオーラを放っていた。アークはひと目見て……腰が抜けそうになる。



「あぁーーーッ! そうだぁっ! 思い出したぞぉッ!」



そんな時、ザインが大声を張り上げた。



「そういやこのダンジョン、昔から言い伝えがあるんだったッ!」


「い、言い伝えだぁっ⁉」


「ガキの頃はぜったいにファボスの森の遺跡には近づくなって言われてたんだった! なんでもその遺跡の中にあるほら穴は人を喰っちまうからって! 50年前に探検に行った男どももみんな帰らなかったんだって!」


「なんでそれを先に言わねぇんだこの筋肉バカが!」



アークがザインの無骨な背中をゲシゲシ蹴りまくっていると、オオカミが動き出した。


ビュンッ! と風を斬るように走り出したかと思うと、たちまち風の刃が発生してアークたちに襲い掛かる。風魔術だ。



「『アブソリュート・シールド』ッ!」



しかしその攻撃はアグラニスが防御魔術で防いだ。



「くそっ……! おい、ザイン、エンリケ! 連携して倒すぞっ!」


「おうっ!」



ザインが大剣を振るい、そしてエンリケが遠距離からオオカミを射かける。しかし──。



「グハッ⁉」


「ガフッ!」



ザインの大剣はオオカミにいっさいの傷を負わせることなく、突進で弾き飛ばされた。矢もまるで刺さらず、エンリケはしっぽの振り回しで顔面を引っぱたかれて気絶した。



……残るは近接戦闘員は、アークだけ。



「う、うおぉぉぉおっ! 『メガ・スラァァァッシュ』!」



カキンッ。しかしそれもまた、オオカミの硬い毛皮に弾かれてまるでビクともしない。



「うそ……だろ……?」


〔グラァァァァァアッ!〕


「うっ、うわぁぁぁぁぁあッ⁉」



オオカミに左腕を噛みつかれ、そしてグルングルンと上下左右に振り回される。メキ、ボキッ! と悲鳴を上げる腕。そしてそのままアークの体はダンジョンの壁へ床へとあちこちに叩きつけられた。



「ぐぁぁぁあああっ⁉︎」



ザシュッ! 遠心力に耐え切れなかったアークの腕の肉はとうとうその牙に引き裂かれ、支えを失ったアークの体が宙を舞って遠くの床に落ちた。気絶する……が、直後に目を見開く。



「くっ、くぉぉぉぉぉッ!」



その左腕の激痛に気絶さえできなかったのだ。アークはかろうじて起き上がる、が、左腕はまるで動かない。ダクダクと大量の血が流れ続けた。



「いてぇ……いてぇよぉ……!」


〔グルァッ!〕



しかし、オオカミは泣き言を紡ぐヒマすら許してくれない。一瞬の間にアークとの距離を詰めると、今度はその首元を狙って牙を突き立てようと大きな口を開けた。



「う、うわぁぁぁぁぁあッ⁉」


「──『アブソリュート・シールド』ッ!」



が、しかし。


ガキンッ! と音を立てて、オオカミの牙はアークの首をとらえる直前、紫色をした壁に阻まれる。



「お下がりを。アーク様」



アグラニスがオオカミのモンスターの正面へと立ちはだかった。

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