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23話 決闘⁉~女子の戦い(?)~

 勇者アークとのゴミ山での決闘から一夜明けて、翌日。とうとう俺がレイア姫の親衛隊隊長として王城で働き始める日がやってきた。

 ……のだが。



「グスタフ様? これはいったいどういうことなのでしょう……?」


「えっと、レイア姫? その、なにか怒ってらっしゃいますか?」


「いいえ? ぜんぜん、ぜんっぜん怒ってなんかいませんよ?」



レイア姫は確かにいつものように微笑んでいる。が、しかしその背景に【ゴゴゴゴゴ】という効果音が見えるような気がする。心なしかいつもより声に棘があるようだし。



「さて、説明していただけますか、グスタフ様?」


「えっと、申し訳ございません。その、何をでしょう……?」


「それはもちろん──グスタフ様の隣にいらっしゃる、その可愛らしいお声のお方についてですわ」


「ん、アタシのこと?」



レイア姫の言葉に俺の隣でいち早く反応したのは、身なりを綺麗に整えたニーニャだった。



「……そうです。お嬢さん、あなたのことですわ」


「お嬢さんじゃない、アタシはニーニャよ、お姫様」


「私にもレイアという名前がありますわ」


「ふーん、じゃあレイア。アタシがここにいるのはさっきグスタフが話してくれた通り、グスタフがアタシを雇いたいって言ってくれたからよ。それ以上もそれ以下もないわ」


「……」



ゴウッと王城の廊下を一陣の風が吹き抜ける。それはまるで真冬に吹くもののように冷たい風に感じた。おかしいな、今朝は小春日和だったはずなのにね。



──俺は今日、レイア姫に出迎えられてから真っ先にニーニャの紹介を行ったのだ。それも、今日から親衛隊としていっしょに働く仲間として。



そもそもそんなことになった発端は昨日。勇者アークを退けた後のことだった。俺は勇者一行の言葉を借りるわけではないが、ニーニャたちを今の生活環境のままで暮させたくはなく、どうすべきかを考えてふとひらめいたのだ。



……そうだ。ニーニャの能力は高い。それならばニーニャに親衛隊として活躍してもらえば、ニーニャも子供たちも衛兵寮の一室で暮らせるようになるのでは、と。



親衛隊隊長は【衛兵隊長】と同等の権限も持ち、モーガンさんに訊いてみたところ衛兵を雇う職権も持っているらしいじゃないか。ならば、というわけで今日この場でニーニャをレイア姫に紹介してみたわけなのだが。



「お声を聴く限りニーニャさんはまだお若いですし、体も小さいのでは? 親衛隊なんて危ない職業に就いて大丈夫か、私は少し不安ですわ」


「お心遣い痛み入るわね、レイア。でもこれでも箱庭育ちのお姫様には想像もできないくらいの修羅場しゅらばはくぐってきているの。安心してもらって結構よ」



バチバチバチバチッ──!



……相性悪そうじゃね? なんか両者の間から火花が散っているのが見えるんですが。ただ、だとしても今の俺にはニーニャにこれ以上の職業を見つけてあげられる自信は無い。なんとかして取りなす他はないワケだ。



「こっ、こらっ、ニーニャ。ちょっとは言葉遣いを考えろ。それにレイア姫を呼び捨てにするんじゃない」


「えぇ? だってこのお姫様がレイアって呼べって言ったようなもんじゃない」



ぶしつけに指を差し始めたので、慌ててそのニーニャの腕を下げさせる。



……おいおいおい、勘弁してくれ。レイア姫を呼び捨てにできるのなんて王くらいのもんなんだぞ? それをなんのためらいもなく……恐ろしすぎて冷や汗が出てきたぞ。



「別に構いませんわ、グスタフ様。私としてもなんだか仲の良いお友達ができたようで嬉しいですわ」


「そ、そうですか?」


「ええ、もちろん。うふふふふふ」



……いや、絶対ウソだ。口元は笑ってるけど表情全体で見たら全然笑ってないのが俺でも分かる。だってなんだか目に見えない威圧感をまき散らしているもの。姫ともなるとこんなことできんの? 固有スキルかなんかですか? すっげぇ怖いよ。



「それでですね、グスタフ様。グスタフ様がこのニーニャさんを親衛隊に加えたいという件は分かりました。ニーニャさんの腕を買っていらっしゃるということも分かります。ですが、その判断に至るまでの過程が分からないことには、私としてもただ頷くことはできませんわ」


「あ……まあそれは当然のことですよね。すみません、説明の順序をちょっと間違えました」



……というわけで、俺はかくかくしかじかと昨日の勇者との1件、そしてニーニャとスラムの子供たちの件を説明した。



「……なるほど。実はこれまで王城議会では周辺諸侯を巻き込んでの貧困政策──スラム環境の撲滅ぼくめつを掲げて政策を展開していたところなのです」


「えっ? そうなんですか?」


「魔王軍の登場によってその議論が棚上げになりそうな状況ではありますが……そんな中で、これはスラムの住民を衛兵などといった職に雇用する政策の良いテストケースにもなりそうですわね」


「ということは、姫……」


「……理由が理由ですし、仕方ありませんわね。ええ、構いませんよ。親衛隊へのニーニャさんの入隊を許可いたしますわ」


「あっ、ありがとうございます!」



俺は頭を下げた。仏頂面ぶっちょうづらをしているニーニャの頭も一緒に下げさせる。



「それにテストケースということにすれば議会から補助金も引っ張れるでしょう。きっと子供たちを養えるだけの金額をお渡しできるかと思います」


「か、感謝するわ、レイア」


「……いえ、お礼など。王国内に貧富の格差が出ているのは私たちの責任でもありますので」



レイア姫はようやくいつもの温厚な微笑みへと戻る。



「どうかこれからよろしくお願いいたしますね、ニーニャさん」


「……うん」



様子を見るに、2人はなんとか折り合いをつけられそうだ。一時はどうなるかと思ったけど、よかった。まあ終わり良ければすべて良しというやつだな。



「さて、それではニーニャさんのお部屋も用意しなくてはなりませんね」


「え? 別にいいわよ、これからもグスタフと同じ部屋で」


「そんなわけには……って、え? 『これからも』?」


「うん。今日は朝イチでレイアにあいさつに行く必要があるからって昨日からグスタフの部屋に泊まらせてもらったし。これからもいっしょで全然いいからさ」


「……グスタフ様?」


「ひぃっ」



レイア姫がこちらを向いた。こめかみに青筋を立てて。その背中から立ち上るオーラは、昨日見た勇者アークの剣から放たれていた闇属性魔力がチンケに思えるほど絶大な力を感じさせる。



「2人でひと晩を明かしたんですの? 1つ屋根の下で?」


「あ、あの、姫? 別に何も変なことはないですよ? 俺はソファで寝ましたし」


「そういう問題ではありませんっ! 男女が1つの部屋で朝までいっしょなんて……はしたないですっ! 誰かに見られていれば親衛隊隊長としての沽券こけんにも関わりますのよっ?」


「す、すみません……」



ピシャリと言われてしまう。うーん、確かに考えてみればその通りだし、何も言い返せない。俺はまだ姫直属の親衛隊って自覚が足りなかったのかもだ。反省。



「とにかく、ニーニャさんには即日、別のお部屋を用意しますから!」


「え~、別にいいのに」


「ダメですっ! 個室でご用意しますのでっ!」



そうして用意された部屋は俺の部屋からレイア姫の部屋を挟んだ向こう側という、かなり離れた部屋になったのだった。



……もしかしてレイア姫、ちょっとヤキモチ焼いてくれたとか? ……いやいや、まさか俺みたいな力だけのいち衛兵に対して、そんなわけないよな?

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