目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
18話 アジトへご招待

城下町の細い路地を抜けていく。右へ左へと迷路のように入り組んだ道をスイスイと歩いていくニーニャの背中を追って。



……まあ、ゲームでは見慣れた光景だ。ニーニャを仲間にするために前に通ったからな。



辺りの景色は小ぎれいだったものからだんだんと薄汚れたものへと変わっていき、次第に路上にたむろするガラの悪そうな人間たちが多くなってきた。



「ふぅん、なかなか度胸あるじゃない。アンタ」


「えっと、なにが?」


「だいたいここに迷い込んできた城下町の中心のヤツらは怯えた顔して足早に去っていくのよ。グスタフは怖くないの? ここはもうとっくにスラムよ」


「まあ怖いか怖くないかで言えば……まあ怖いかなぁ」


「はぁ、そんなに実感のこもってない『怖い』は初めて聞いたわ」



まあそりゃね。いちおうゲームで予習済みなこともあるし、実際はそれほどだ。あとさすがにもうこの辺のゴロツキに負けるレベルではないしな。



「アンタは絡まれやすいはずだから気をつけなさいよ?」


「え? なんで?」


「そりゃあ、なんだかボケーっとしてるしフラフラ歩いててスキだらけだし、その上そんなに高価そうな装備を身に着けてるんだもの。ニワトリがフライドチキン屋の面接受けに行こうとしてるようなもんよ」


「あ、『カモがネギ背負って来る』的なことわざってこっちの世界にもあるんだ……」



しかし、なるほどね。ニーニャが俺をターゲットにして金を盗った理由もそれか。しかしそんなにボケーっとしてたかな、俺。やはり平和国家日本に住んでいるとそういう防犯意識はゆるくなるものなんだろうか。



「とにかくバカを見たくないなら気をつけなさいよね。さあ、私たちのアジトはもうすぐよ」



どこか土埃っぽくコバエの飛び交うスラムを歩き進め、そして路地を抜けた先にあったのは巨大な不法投棄のゴミ山だった。これもゲーム通りだ。確かニーニャたちはこのゴミ山の中を掘って、雨風をしのぐことができる生活空間を作っていたのだった。



「しかし実際見ると圧巻だな。さて、入り口はどこだ?」


「お、驚いた。アンタどうしてここにアタシたちのアジトがあると思ったの?」


「あ、いや、それは……なんとなく」


「しかも動揺もしないのね。たまに守護たちがこの辺を見回りにくるけど、ヤツらでさえこのゴミ山だけは嫌そうに見て見ぬフリをするだけなのに」


「そ、そうなんだ?」


「そうよ。普通は誰でもそう。でもアンタは違ったわね……。アンタって、もしかして……」


「っ?」



熱っぽいような、何か強い感情が込められたような視線を向けられる。



……も、もしかしてなにか疑われているのか、俺……? 考えてみれば、そりゃ俺の反応は不自然だったと思う。俺としてはゲームで見た景色が実際目の前に! ってちょっと楽しくなる状況ではあるんだけど、最初からこっちの世界で暮していてこの状況を初めて見る人間ならゴミ山を見てうろたえて当然なわけだし。



──このままじゃ俺、ただの変なヤツだな? というかもっと悪く想像を働かせれば、俺って実は陰でニーニャのことをストーカーしてたヤツみたいじゃないか?



ニーニャの設定を詳しく知っていることといい、ニーニャのアジトの場所を言い当ててしまったことといい……ああ、考えれば考えるほどストーカーっぽい。もしかしてストーカーなのではと疑われているのでは……?



「えっと、その、俺はだな……」


「……」



ああ、何やらニーニャからいっそう熱いまなざしをジーっと向けられている。ヤバい。これは間違いなくストーカーを疑っている目だ、たぶん。なにか言い訳をしなくては……。



「いや、まあ、なんだ。ほら、このゴミ山は一見華やかな城下町の裏の顔ってヤツだ。城下町を守る者として、俺はこういった真実から目を背けるのは良くないことだと思うんだ」


「へぇ……」


「それにこういった場所をむしろ活用することで、子供たちを守る場としている機転にも感心するしな。これは辛く苦しいことの多いこの世界を、まだひとりでは生きていけない子供たちと共に生き抜くための優しい知恵だ。それを見て見ぬフリするだけなんて、俺にはできないなぁ……なんて」



ここは堂々と、目の前に広がる現実をむしろ自分から受け入れにいく路線しかない! ということでいろいろと理屈をこねてみたのだが……どうだ?



「や、優しい知恵って……ふんっ! ア、アンタやっぱり変なヤツね、グスタフ……」



ニーニャはぷいっと、またしてもそっぽを向いてしまった。



……ああ、変なヤツ認定されちゃった。完全に不審者扱いってことじゃん、俺。オワタ。



ニーニャは顔を真っ赤にしている。きっと俺というストーカーが自分をだましていたことに怒っているに違いない。いったいどうしたら……と思っていたその時だった。「──いやぁ! 放してっ!」



「っ⁉」



突然に、ゴミ山の中心から小さな女の子の叫び声が聞こえた。俺とニーニャは顔を見合わせると、それからすぐに走り出す。どうやら今はストーカーがどうとか言ってる場合じゃないみたいだ。

そしてゴミ山を登った先、



「おぅ、待ってたぜぇ……お前が【灰路地の輝姫きらひめ】か」



そこで待っていたのはつい最近玉座の間で見た勇者アーク、その男がまだ年端もいかぬ少女の服のえりを掴んでいる姿だった。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?