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17話 灰路地の輝姫

「盗賊のニーニャ……」



俺が思わずそうこぼすと、その盗人の女はギョッとしたみたいな表情になる。



「アンタ、なんでアタシの名前を知ってる?」


「あ、いや、それは……」


「って、当然か。アタシの悪名はこの城下町にとどろいてるもんな」



自虐するようにニーニャはフンっと鼻を鳴らす。



「それで? 衛兵さんはこれからどうしようってのよ。アタシの身柄を守護しゅごどもに引き渡してひと手柄あげようってか? セコいやつめ」


「は? いや、俺は盗んだものを返してもらおうとそう思っただけだ」


「……へぇ、いいのかよ。アタシを突き出せば金貨10枚の賞金が出るらしいけど?」



金貨はだいたい1枚あたり1,000Gの価値がある。それが10枚ってことはだいたい衛兵の給料の2カ月分ってことだ。確かにそれだけ出されれば賞金に目がくらむやつもいるだろうな。



……まあ、俺は要らんけど。俺は逃がすまいとニーニャを押さえていた手を放して、彼女を立たせた。



「へ? な、何を……」


「別に、俺はあぶく銭が欲しいわけじゃないからな。それにニーニャが捕まっていなくなったらスラムの子供たちが飢えるだろ」


「ア、アンタ! なんでそのことを知ってる⁉」



なんでそのことを知っているかって?



──そんなの知ってるに決まってる。



クソゲーという評価しかできない【ちょっと魔王シバいてきてやんよ】だが、しかし俺がクソゲークソゲーと連呼しつつも最後までプレイできたその理由は、ゲームに登場する魅力的なヒロインたちにこそある。

俺が最初に惚れ込んだのはもちろんパッケージイラストを飾っていたレイア姫だったのだが、しかしその他のヒロインたちのキャラデザも良く、その性格も美しいという他ないものなのだ。



「確かにニーニャはこの城下町をナワバリに窃盗せっとうを繰り返す悪名高い盗賊だ。でも実は貧しい人からは盗まないし、それに盗んだものはすべてスラムの仲間……特に子供たちのために使っている。だから常に自分の衣服はボロボロなんだよな。ニーニャは気高く、そして心優しい女の子なんだ」


「な……なっ⁉ ア、アタシが気高いっ⁉ 心優しいっ⁉」


「ああ、そうだとも。まさにその精神はノブレス・オブリージュ。貴族が領地の民を思いやるがための慈善行為そのもの。薄汚れたスラムの街並みの中でも強く優しく、そして美しく輝いているニーニャを人々は密かにこう呼んでいるんだ、【灰路地の輝姫きらひめ】と」


「~~~っ!!!」



……おっと、マズい。ついうっかりと前世のゲームにおける設定情報をベラベラと一方的に語ってしまっていた。気づけば何やらニーニャは顔を真っ赤にして卒倒しかけてる。真正面からこっ恥ずかしいことを言い過ぎたかも。



「す、すまん。なんか俺ばっか喋っちゃって」


「……別に」



ニーニャは顔を真っ赤にしたまま、唇を尖らせるとそっぽを向いてしまった。ああ、しくじった。これは絶対に変なヤツだと思われてるな、俺。どうしたものかなと思っていると、



「アンタ、名前は?」



ニーニャがぶっきらぼうに訊いてきた。



「俺はグスタフだ」


「そう。じゃあグスタフ、ちょっとついてきなさいよ」


「え?」


「盗みをしたびよ。いくつか宝石とかがアジトに余ってるから、そいつをアンタにあげるわ」



まるで照れたように早口で言い切ると、ニーニャはスタスタと大股で歩き出してしまう。


え、宝石をくれるの? なんで……? とは思ったものの、訊き返せる雰囲気ではなかった。訊いたらなんか噛みつかれそうだったし。とりあえずまだ金貨銀貨の入った袋も返してもらってもいないので、俺はニーニャについていく他なかった。

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