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12話 王たちによる評価は・・・絶賛らしい?

──レイア姫直属の護衛の職務に就きたい。



おそらくは俺のその発言に対する驚きで降りていた静寂を破ったのは、王だった。



「……ふむ、グスタフよ。褒美が、職とな? しかもレイアの護衛をやってくれるというのか?」


「ええ、はい。仰る通りです」



そうだ、職業としてレイア姫の護衛に当たれば、ただの衛兵でいるよりもよっぽど長い時間姫の側にいることができる。さらには魔王軍から姫を常に守ることができるわけだから、勇者アークと姫との駆け落ちエンドに発展する事態も未然に防ぐことができる。



……とまあ、そんな本音をダバダバと口から漏らすわけにもいかないので、建前を語らねば。



「それというのも、先ほどバーゼフと名乗ったモンスターの口ぶりからするに、恐らく今後とも魔王軍の手先がレイア姫をさらいにやって来る可能性があります」


「ふむ……確かにそんなことを言っておったな、そのモンスターは」


「はい。なのでまた今日のようなことがあった時、魔王軍に対抗できるだけの兵士が姫の近くにいなければ陛下も姫もご不安でしょう。俺ならいざという時でも、姫を安全な場所へ逃がすだけの時間を稼げるかと思います」


「う、うむ。それは頼もしい限りだ。ぜひ任せよう」


「ありがとうございます、陛下」


「だがしかし……それだけでいいのか?」


「『だけ』と、仰いますと……」



……なるほど。俺が護衛なだけでは不安、ということなのだろう。確かにさきほど攻めてきた三邪天のバーゼフは強いボスキャラクターだった。三邪天という設定を知らなければ他にも大量にバーゼフ並みのモンスターが居るのでは、と思ってしまうのも仕方がない。



「では、加えてもうひとつ。俺に、衛兵たちを強化する権限をもらえないでしょうか?」


「強化する権限、だと?」


「はい。武力という側面での強化を行う……つまりは衛兵たちに訓練をさせる権限です」



国王とモーガンさんが顔を見合わせた。……むむ、さすがの越権えっけんが過ぎる俺の要望に、もしかして気分を害してしまったのだろうか。予防線を張りつつ、丁寧に説明すれば分かってくれるかな。



「陛下、今日の件を考えてみてもモンスターに簡単に玉座に攻め入られるというのは防衛政策上よろしくはない状況かと思われます」


「……うむ。それはその通りだ」


「地道なモンスター討伐を行うことで衛兵たちひとりひとりの実力を上げる必要があります。かと言ってむやみに行えば死傷者が出てしまいますので……そこで俺の戦闘経験が役に立つかと思ったんです。俺が指示する方法で訓練を行えば比較的安全に王城内の衛兵全体の練度れんどを上げることができると思います」



この説明でどうだろう、俺が権力を求めているわけではなく、王城のことを思って提案しているのだということが印象づけられたのではないだろうか。



「なるほど、そうか。そう言ってくれるならばグスタフ、お主に訓練を任せよう」


「感謝いたします、陛下」


「うむ。しかしいきなりの改革は混乱を招く。まずはモーガン直属の部隊で実験的に行うことが条件だ。よいな、モーガン?」


「はっ、仰せのままに」



モーガンさんも了承してくれた。ヨシヨシ、いい感じだ。訓練内容を考えなくてはいけないという、今まで全然やったことのない仕事が増えてしまったのは頭が痛いところだが、これが成功すれば俺は楽できるはずだ。


なにせ俺が守る姫は基本的に王城の最奥に居る。王城全体の練度が上がることで魔王軍の手先どもを俺以外の衛兵が撃退することができれば、どうだ? なんと俺は戦わずしてレイア姫の側に居続けることができるではないか!



……フフフ、なんとも完璧な作戦だ。まさか自分がここまでの策士だったとは、恐ろしいね。



「それで他には何かないか、グスタフ?」


「え、他に……ですか?」


「うむ」



王もモーガンさんも、それに姫も、まるで俺に何かを期待するようなキラキラとした表情で、まっすぐにこちらに顔を向けてくる。



……え? 他に? まだ何か必要なことがあるのか?



「す、すみません陛下。今は何も思いつかず」


「……本当か?」


「はい、申し訳ございません。今はただ精進しようかと、そう思います」


「そ、そうか。それならば……うーむ、まあよい」



……むむむ、さっき俺は自分を策士と言ったな? あれは撤回する……。王たちが俺に何を期待していたのか、まるで分からなかったぜ。いったい何なんだ?



「病み上がりなのに呼びつけて、さらには戦わせてしまい済まなかったな、グスタフ。しばしまたゆっくりと休むがよい」


「はいっ、こちらこそ進言しんげんを受け入れていただきありがとうございました」



一礼し、俺は玉座の間を後にする。



……ああ、最後の最後で何かやらかしちゃった感じがするなぁ。せっかく上手くいっていたと思ったのに。まあでも魔王軍の手先を倒したことでプラス要素は稼いでいる気もするし、きっと好感度的には【プラマイゼロ】ってところだろ……。



あーあ、前世でもうちょっとお偉いさんとの会話を勉強しておけばなぁ……などと悔やんでいたので、俺は後ろで感心したように俺を見る王たち、そして熱っぽい視線を向ける姫の存在にはまったく気が付かなかったのだった。






* * *






~グスタフの去った玉座の間で~




「ふむ……まったく、どれだけ無欲なのだろうな。グスタフは」

王の言葉に、モーガンもまた深く頷く。


「ですなぁ。まさか金も土地も、地位もねだらないとは。しかもそれだけではありません……なんと鋭い推察力でしょうか。さらには問題解決能力も非常に高い」


「うむ……まったくだ。しかもそれには留まらず、まさか褒美の件を利用して、英雄とは言えどいちおうは一般衛兵であるグスタフには頼み辛い職務の数々を、【グスタフからの進言】という形で、我々が頷くだけであやつに仕事を任せられるようにしてくれるとはな……」


「本当に、なんというふところの深さでしょう」



王とモーガンは顔を見合わせると、まるで1本取られたかのように苦笑した。



「ふぅ、まったく。ガーゴイルたちとの命がけの戦いを終えたばかりのグスタフに、レイアの護衛や衛兵たちの訓練をどのようにして頼もうかと先ほどまでお主と悩んでいたのが馬鹿らしくなるほどだな」


「ははっ、全くですなぁ」


「ああいった男だからこそ、この城の者たちは彼を英雄と呼んだのかもしれぬな」


「ええ、きっとそうでしょう。ああいった男がゆくゆくは国の歴史に刻まれることになるに違いありません」



王たちは感嘆のため息を吐くと、それから頬を赤く染めて静かにしているレイア姫を見て……にわかに微笑んだ。



「レイアよ、良き男に惚れ込んだものだな」


「お、お父様っ?」


「おお、これはこれは。ならば陛下、魔王討伐の件がどう転ぶかはまだ分からないことですし、先にグスタフ殿には爵位しゃくいを与えておいては?」


「うむ、グスタフがそれを望むかは分からぬが……さすればレイアとの間の障害も少なかろうな。考えておこう」


「もうっ! お二人そろって私をからかわないでくださいっ!」



久方ぶりに、玉座の間に穏やかな笑い声が響くのだった。

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