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4話 死にイベント~始まり~

時間の流れはあっという間だ。俺は王城に戻るなり他の衛兵に捕まって毎日のルーティンワークっぽい仕事を任されて、そしてとうとう17時の社交界の時間を迎えた。


「ふわぁ……」


あくびを嚙み殺す。まあそれもしょうがない。だって昨日は徹夜で朝までレベル上げをしていたんだもの。しかも命がけで。


なんでみんなレベル上げしないんだろうな? なんてレベル上げを実際にやってみる前までは疑問に思ってたけど、魔王軍の存在がまだ明らかになっていない平和な世界で、わざわざ死線をくぐってまですることではないんだろうなと今では納得できる。


俺もマジで死ぬ寸前だったしな。



「しっかし、豪華だな」



王城の一室、社交界会場となっているその広間には大きなシャンデリアがぶら下げてあり、その下には美しい盛り付けの食事、その横では綺麗なグラスを片手に各国のお偉いさんと思わしき人物たちが大勢でざわざわと歓談していた。


さて、いちおう脳内で今日のプランの再確認でもしておくか。今日の魔王軍襲来時にやること。それは名付けて【名誉負傷兵に、俺はなる!】作戦だ。


その作戦の概要だが、まず魔王軍であるガーゴイルたちが襲来したら俺はそのうちの数体を相手にしてなんとか討伐をする。数体も相手にすれば、いくらLv19に上がった俺といえど無傷じゃすまない。



──だけど、それでいい。俺はその傷を理由に「くそっ、こんなところでやられるとは!」などと叫び散らかして、まるで相討ちにでもなったかのように気絶したフリをするのだ。



そう、必死で戦ったけど残念ながら途中で力尽きてしまったんですよ、と見せかければたとえ会場内で生き残っていたのが俺だけだったとしても後々の言い訳は立つだろう。それどころか、魔王軍へと勇敢に立ち向かった衛兵として名誉を与えられるかもしれない。



……せっかく転生したとういのに、その直後にこんなところで死にたくはないのだ。どうにかして今日のこの場を生き延びて、魔王の討伐はこのイベント後に出てくるであろう主人公の俺様系勇者に任せ、俺は毎日を平穏に過ごしてみせる!



「おっ、とうとうか……」



その瞬間はやってきた。レイア姫が侍女に手を引かれながら会場に入ってきたのだ。その美しい姿にピタリと会場中の会話が立ち消えた。みんな見とれてしまっている。



レイア姫が会場の一番奥のステージ横に立つと、王が先にその壇上だんじょうへと登る。



「各国のご来賓の皆様、この度はお集まりいただき誠にありがとうございます。この度は私の娘、レイアを皆様にご紹介する場を設けたく思い……」



王があいさつをし始めたその時、ガシャンッ! 大きなガラスの割れる音が会場に響き渡る。



「キャアアアッ!」



来賓たちの間から悲鳴が上がった。魔王軍の手先たちであるガーゴイルが広間の大きな窓を割って入ったのだ。



〔さぁ皆殺しだァッ!〕


〔姫は殺すなッ! 生け捕りだぞッ!〕


〔ギャギャギャッ!〕



気味の悪い笑い声を響かせながらガーゴイルたちは宙を飛び回り、そのかぎ爪で無差別に人々を切り裂いていく。



「ぎゃぁぁぁあッ!」



各国の社交界参加者たちが血を噴き出しながら倒れていく。ガーゴイルたちはさも楽しげに、無抵抗な人々を殺して笑っていた。



「……チッ!」



あまりのむごさに、思わず舌打ちをしてしまう。だが、冷静になれよ俺。ガーゴイルの数は目視できる限りで20を超える。こんな数はとてもじゃないけど相手にしきれないんだから。



「おい、グスタフっ!」


「っ⁉ は、はいっ?」


「俺たちは広間の出口の確保に向かうぞっ! 王と姫は別の奴らが守りに行った。俺たちは社交界参加者の避難誘導をするっ!」



ヒゲ面のオッサン衛兵はそう言うと走り出したので俺もその後について走る。



「くそっ、まさかこんなことになるなんて。グスタフ、お前が昨日言った通り……グワッ⁉」


「お、オッサンっ!」



オッサンは突然横から滑空してきたガーゴイルに首を切り裂かれた。ブシュウッ! と鮮血が舞う。



「くそ、クソっ!」



衛兵たちはこの会場でみんな殺される。それは実際のゲームからの確定事項ではあったが、実際目の前で殺される姿を見ると……チクショウ、胸糞悪すぎるだろっ!



「いいのか? 俺はホントにこのまま自分だけ……」



しかし、考えている時間などない。俺の横からもガーゴイルが襲い掛かってきた。



〔ギャギャギャッ! お前はシャンデリアに串刺しにしてぶら下げてやるッ!〕


「ガーゴイル……!」



俺は素早くガーゴイルを迎え撃つ姿勢を整えた。



「いくぞっ!」


〔なっ──グギャッ!〕



昨晩のレベルアップにより強化されたスキル『しっぷう突き』で、俺の槍がガーゴイルの腹を目にも止まらぬ速さで貫く。



「まだだッ!」



続けてスキル『叩き落とし』。槍の刃のついていないの部分でガーゴイルの体を地面に叩きつける。その体が地面に落ちた。間髪入れず、槍で頭を突き刺した。



「よし、倒せるぞ……!」



昨日1日戦い通して、なんとなく相手のレベルというものを測れるようになってきた。おそらく今倒したガーゴイルはLv12か13といったところだろう。1体や2体を相手にするだけなら今の俺でもなんなく倒せそうだ。



〔おいっ、向こうの兵士がけっこうやるみたいだっ!〕


〔数体がかりで倒すぞ!〕


〔ギャギャギャッ!〕



向かってくるガーゴイルたちが3体。

よし、プランを実行するにはちょうどいい数だ。きっと無傷じゃ済まないけど、でもなんとか勝てる数。


俺は覚悟を決めてソイツらを迎え撃った。

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