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3話 レベル上げ

素早さのネックレス装備はOK、ポーションも持った。それじゃようやくレベル上げのスタートだ。



「王城じゃモンスターは今ほぼいないって言われてたけど……でも俺の経験したゲームじゃ違ったぞ?」



城下町から次の町へと伸びる街道をあえて逸れて、暗い草原を月明りだけを頼りにして歩く。ゲーム通りであれば、この辺りはレベルの低いモンスターが多く生息していたはずだ。しかし、思ったより暗いな。急に後ろから襲われたりしそうで怖い。


そう思ったそばからガサリと後ろで音がする。俺が振り向くや否や、何かが左腕に勢いよくぶつかった。



「うわっ!」



弾き飛ばされて、尻もちをつく。



「なんだっ? なんだよっ⁉」



突然の事態に頭が回らず、とにかく後ずさりをする。そしてなんとか立ち上がって槍を構えた先にいたのはスライムだ。ソイツは何も言わず俺との距離を図るようにプルプルと体を揺らしながら近づいてくる。



「く、くそっ! 遭遇した時のBGMくらい流してくれよっ!」



俺の叫びに、しかしスライムはやはり何も言わない。当然だよな、口なんてどこにもないわけだし! しかもコイツ、HP表示もなければレベル表示もないじゃんか!



「お前、俺が倒せるレベルなのかっ?」



スライムは答えない。ただただゆっくりと、飛びかかるタイミングを探すようにこちらに近づいてくる。



「とりあえず戦ってみるしかないのか」



槍をスライムめがけて構える。相手のレベルが分からない以上は最初から全力だ。



「いくぞ、『しっぷう突き』!」



唯一の攻撃スキルを使用してスライムを思い切り突いた。スブリ、寒天ゼリーに割り箸を突っ込んだような感触と共に、槍がスライムを貫く。



「や、やったかっ?」



自分で言っておきながら、こんなのフラグそのものだ。当然のようにやってなどいなかった。スライムは槍が貫通した体のまま再び飛びかかって来る。



「グフッ⁉」



腹にスライムが直撃する。息が詰まり鈍痛が体に響いた。地面に倒れ込みそうになる。



「くっ⁉」



スライムがさらに俺の体を押しつぶさんとして大きくジャンプしたので、俺はとっさに横に転がってそれを避ける。スダン、と耳のすぐ横にスライムが叩きつけられる音がした。



……いまの、避けてなかったら死んでたんじゃないか、俺? 頭を踏みつぶされてあっけなく。引っ越しバイトの最中、洗濯機に押しつぶされたのと同じように。



「う、うぉぉぉおっ!」



……死んでたまるかっ!



それからの俺はもう、スキルとかレベル上げとか、そんな何もかもを忘れて必死に槍を突いた。無我夢中にスライムを突きまくった。何度も攻撃を受けて倒れ、そして攻撃を避けるためにも泥臭く地面を転がった。


そしてようやく、20回以上は槍を突いただろうか。スライムがふにゃりと地面に溶けるようにへたりこむ。



──『レベルアップ。Lv5→6』



「はぁっ、はぁっ……なんだ、いまの?」



いま、頭の中を何か音声のようなものが流れたような……



「それにしても、スライムは死んだんだよな……」



見た感じはたぶん死んでそうだ。スライムは動かない。だからもう安全のはず……だけど、俺の腕は震えたままだ。緊張が抜けない。おそらく生まれて初めて、俺は死線というものをくぐった気がする。



「く、くっそ怖かった……」



槍でぺちゃんこになっているスライムをつつく。反応は無い。やっぱり死んでる。死んでるよな? 死んでるはず。……でも、万が一動き出す可能性もあるよな?



「そ、そうだ。ステータスを見て経験値が入ってるかどうか調べればこのスライムが死んだかどうかも分かるはずじゃないか? 開け、『ステータス』!」





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グスタフ Lv6 ←【レベルUP】

次のレベルまでの必要経験値 21

スキル 

『槍の心得』 Lv2 ←【レベルUP】

→槍を使ってモンスターと戦うことができる

『しっぷう突き』 Lv2 ←【レベルUP】

→槍で少し速い突きを繰り出す

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「おおっ?」



レベルとスキルが上がっている。『槍の心得』の説明文も更新されているみたい。とするとさっき頭の中に流れた音声は、レベルアップをすると聞こえるものなのだろう。なるほどね、こういうシステムなのか。



「とりあえずスライムは死んでるってことで間違いはないみたいだな」



しかし、いまのスライムのレベルは結局いくつくらいだったんだ? 1匹倒してレベルが上がったくらいだから、もしかして同レベルくらいだったのだろうか……すでに俺は全身ケガだらけなわけだけど。最初に攻撃を喰らった左腕はいまだに痛いし、腹には鈍痛が残ってる。



「もったいないけどポーション飲んでおくか」



この草原にいるモンスターの最大レベルは確か7か8くらいだったはず。いまのケガだらけの状態で勝てると楽観するのは危ない。腰に着けていたポーチからフラスコのような手のひらサイズのビンを取り出して、ゴクリ。中身の緑色の液体を飲み干すと、たちまち体の痛みが引いていく。



「よし、それじゃあレベル上げの続きをやるか……」



めちゃくちゃ憂鬱ゆううつだけれども。俺、今日はあとどれくらいの死線をくぐり抜けなきゃいけないんだろう……。これ以上、強いモンスターとか出てこなくていいよ……?


ガサガサッ。突然草むらをかき分ける音がして思わず勢いよく振り向くと、ぴょんっ!



──スライムが2体、そしてウルフが1匹。……マジかよ?



「た、大量発生にもほどがあるだろッ! うぉぉぉおッ!」



結局、こんな風に複数のモンスターに囲まれて、俺はそれから何度も何度も生き死にを賭けた戦いを繰り広げてしまった。



──そして2時間ほどが経ち、深夜。



「はぁ、はぁ……俺のレベルは……まだ9か」



こんなもんじゃまだ死にイベントで死んでしまう! まあ、死にイベントだから死ぬのが普通なんだが。



「もっと気合い入れないと、朝までには間に合わねーぞ……!」



この平原で出てくるモンスターはもう、ほとんど問題にならない。しかし、その分もらえる経験値もしょっぱくなってきた。



「……どうする?」



いちおう策はある。この平原の先の森の中……ゲームと同じであれば、奥に進めばさらに高レベルのモンスターたちが生息し、経験値稼ぎにもってこいの場所があるのだ。ただし、相応にモンスターは強くなる。レベルは10前後、高ければ13。それが複数体同時に出てくることもある。



……ポーションは残り1つだし、イチかバチかの賭けになるな。



だけど……今のこのレベルのままじゃ明日の夕方、俺は確実に死んでしまうだろう。明日の0%の生存率と森奥に進む0%以上の生存率、どちらを取る?



「決まってる、俺は絶対に生き延びてやるんだ……!」



俺は覚悟を決めて、森への道を進んだ。


月明りだけの森の中。


槍をとにかく振るいまくり──


──そして、朝になる。



森から出て、東の空からの陽射しを浴びた時、俺はたぶん生まれて初めて空を上って来る太陽に、そして自分が生きているというただそれだけのことに感謝をした。



「魔王軍が来る前に死ぬとこだった……マジで……」



ポーションの後味でエグみの残る舌をべーっと出しながら、俺は王城への帰途に着くのだった。




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グスタフ Lv19 ←【レベルUP】

次のレベルまでの必要経験値 197

スキル 

『槍の心得』 Lv9 ←【レベルUP】

→槍を巧みに操って相手を打ち倒すことができる

『しっぷう突き』 Lv9 ←【レベルUP】

→槍で目にも止まらぬほど速く、強力な突きを繰り出す

『叩き落とし』 Lv9 ←【NEW】

→相手の攻撃を槍で叩き落とす

『みだれ突き』 Lv8 ←【NEW】

→ひと息に5回の突きを繰り出す

『とうてき』 Lv4 ←【NEW】

→一直線に槍を投げて相手を貫く

『溜め突き』 Lv3 ←【NEW】

→力をためて超強力な突きを繰り出す

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──魔王軍襲来まで、あと11時間。

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