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2話 状況整理、そして即行動!

ひとまず落ち着こう。とにかく大事なのは状況整理だ。


・魔王軍襲来イベントは明日

・俺は魔王軍にぶち殺されるザコモブ衛兵

・チートスキルなどはいっさい無し


以上。現状確認終わり。



……詰んでね?



「いやいや、諦めるな! がんばれ俺!」



とりあえず、俺は部屋を駆け出ると先に部屋を出て撤収しようとしている衛兵たちに追い付いた。



「ちょっと、ちょっといいですかっ?」


「ん? どうしたグスタフ」



反応してくれたのはさっきの部屋で俺の隣に立っていたヒゲ面のオッサン、それとその周りの数人の衛兵たち。



「実は明日の社交界の件で、ちょっと」


「ちょっと? なんだ?」


「信じられないかとは思うんですけど……明日の社交界に魔王軍が襲来するみたいで、たぶん姫がさらわれるんです」


「……はぁ? 魔王軍? なにを言ってるんだグスタフ」


「いま、魔王が復活してるんですよ。たぶん、そのせいで町の外にもモンスターこれまで以上にウヨウヨ出現してるハズで……」



俺の言葉に、オッサンも、周りの衛兵たちも困ったヤツを見るように一笑する。



「おいおい、魔王なんて伝承にだけ伝わる物語の登場人物じゃないか。ありえないだろう」


「いや……でも本当に姫をさらいに来るんですってば! 大量のモンスターを引き連れて!」


「なんでだ?」



……なんで、か。実はゲームの設定として、レイア姫は盲目の代わりに『真理の眼』という太古の大魔術を使用できる特別なユニークスキルを使用できる素養がある。


魔王はそれを狙って姫をさらったのだというのが物語の後半で明らかになるのだが……それは魔王以外の誰も知らない隠し要素。いち衛兵が知るはずも無い事実だ。

そんなことを話しても信じてもらえるはずがない。が、いちおう話してみる。



「真理の眼ぇ? 魔王しか知らないレイア姫のユニークスキル? おいおい、グスタフ。お前頭がどうにかしちまったんじゃないか?」


「まるで嘘に聞こえるかもしれないけど、事実なんですよ」


「……ふむ。魔王が復活し、昨今じゃ見つけるのが珍しいくらいのモンスターたちも大量発生か。まあ、それが事実だとしたら、ほとんど模擬戦の訓練しか積んでない俺たちは絶体絶命だろうなぁ」


「そうです! だから対策を──」


「……グスタフ、今日は早く休め。お前はきっと疲れてるんだ」


「いやっ、ホントに……」



……ああ、ダメだ、衛兵たちの俺を見る視線が困ったようなものに変わってる。これは本格的に頭の具合を疑われている。これ以上主張を続けてもマイナスにしかならなそうだ。



「すみませんでした、突然」


「ああ、別にいいがな。それより疲れているなら部屋まで送っていくぞ?」


「いえ、大丈夫です」



オッサンたち衛兵を見送り、さて、振り出しに戻ってしまった。



「やっぱ、当然だけど信じてはもらえなかったか」



設定上、この世界にかつて魔王が現れたとされているのが確か何百年前とかなのだ。

魔王がいないとモンスターの出現頻度も少ないからか、兵士たちもみんな平和ボケをしているらしい。



……さて、王城にいる衛兵たち全員を巻き込んでの対策は無理、ならばせめて俺が1人でできることを考えるしかないけど、だからといって俺1人で全員助けるなんてのは無理なことだ。



「他にできることっていったら、あとはもうなんとか自分だけでも生き残る方法を見つけることくらいだよな」



全員死ぬと分かっていて自分だけ助かろうとするのは気が引けるけど、もうそんなに時間も無いわけで……しかたない。



──よし。気持ちを切り替えよう。



じゃあ俺が生き残るために、死なないためにはどうしたらいい? そもそもどうして衛兵たちは魔王襲来イベントで死んでしまうのか。


まあ単純な話、それはつまり襲来する魔王軍の手先どもとの間にあるレベル差が原因だろう。


イベントムービーを見てた感じ、魔王軍の手先として来ていたのは普通のガーゴイルだけだったよな。ガーゴイルは主人公の勇者が王国から旅立って2つ目のエリアの炭坑で出てくるモンスターだ。レベルは確か12から18の間くらいだった気がする。



「今の俺の2倍以上のレベルとか、そりゃ殺されるわけだ」



でもまあレベル差で言うと10ちょっとくらいだし、それくらいのレベルはゲーム感覚なら1時間やそこらすぐに上がる。いや、この世界でも同じかは分からないけど。でもそれが可能だとすれば俺が明日の魔王軍襲来イベントを生き残るための作戦はただ1つだ。



──ひと晩で俺がレベル18以上になる、ただそれだけ。



まあレベルが18以上になったとしても何十体ものガーゴイルを相手にするのは無謀ってもんだが……。



「とりあえずできることをやるしかないよな」



ちなみに逃亡という手もあるにはあるけど、やめておいた方がいいだろう。魔王軍襲来の前に姿を消したとなれば、場合によっては魔王軍を手引きしたスパイなのではと疑いをかけられて吊し上げられる可能性もある。


そうと決まれば善は急げだ。俺は王城を抜け出して城下町へと出る。さっそくレベルアップのためにこの町の外の草原に直行……はせず、まずはゲームの世界では行き慣れた鍛冶屋に寄った。



「……ラッシャイ」



不機嫌そうなジイサンが迷惑そうな顔で俺を出迎えた。この鍛冶屋の主人だ。今はもう夜の8時。店じまいするところだったのだろう。だけど俺は状況が状況だけに、そんなことは気にしていられない。



「ご主人、この店で一番強い槍をくれませんかっ?」


「あ? ……それならそこに置いてるシルバーランスだよ。800Gだ」


「違う、それのことじゃないです。この店にはあるでしょ? 真の強者だけに売っている伝説の槍がさ」


「……!」



ジイサンが目を見開く。どうして俺がそのことを知っていると問いたげな表情だ。



……まあ、いちおうゲームを全クリしましたからな。メジャーな隠し要素くらいは知ってるさ。この鍛冶屋は代々続く城下町の老舗しにせ。主人公がレベル60以上になってから訪れるとめちゃくちゃ性能の良い伝説の武器を売ってくれるようになるのだ。



「お前、レベルはいくつだ」


「えっと、まだ5なんですけど」


「フンっ! ならば大人しくブロンズランスでも使っておけっ!」


「いや、それがどうしても強い武器が必要なんですよっ! 明日までにっ!」


「ダメなものはダメだっ!」



ジイサンはいっさい譲る気をみせない。やっぱ無理だったか。まあ当然のことではある。俺としてもダメで元々って気持ちだったしな。



「分かりました。それじゃあ素直にレベルを上げてからまた来ることにします」


「そうしろ。とはいえ、レベル上げって言ったってなぁ。このご時世、モンスターの出現頻度も落ちてるし難しいとは思うが」



苦笑するジイサン。



……いや、それが今はモンスター大量発生してるんだよなぁ。魔王が復活した影響でさ。



「ま、せいぜい励むことだ。強くなろうとするその姿勢は好ましい。ほら、コレをくれてやる」



ジイサンはプイッとそっぽを向くと俺にネックレスを渡してくれる。それは装備アイテム『素早さのネックレス』だ。よしっ、もしかしてと思って来てみたが、やはりゲームの世界と同じイベントが起きた。この鍛冶屋は訪れた初回、ゲームでも主人公に対して同じアイテムをタダでくれる場所だったのだ。



「ありがとうございますっ!」


「フンッ。別にお前のためではない。弱い装備のまま町の外をうろつかれて野垂れ死んだら後味が悪いだろうが」



……うーん、ツンデレ。でもその気持ちはありがたい。



俺はさっそくそのネックレスを身に着ける。よし、これで素早さのステータスが少し上がり、モンスターの攻撃を受けにくくなったはず。あとは薬屋に行ってもポーションを無料で3本もらえたはずなので寄って、それから草原に出向こう。今日は徹夜でレベル上げだ!




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装備

『素早さのネックレス』←NEW

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──魔王軍襲来まで、あと20時間。

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