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第136話

「むふー! うまー!」

「なにこれぇー……。ほっぺたが落ちちゃいそう……!」

「お二人ともおおげさですよぉ」

 ジゼルとクロエが大袈裟なくらい歓声を上げ、エレオノールが二人を見て優しく笑っている。なんとも癒される光景だ。

 ここは貴族街にもほど近い高級店や立派なお屋敷が立ち並ぶ通称“金持ちエリア”。その一角に店を構える甘味所に来ていた。豪華な内装は、お城の中を思わせる。白地に青を基調とした内装や家具は、調和とまとまりのよさを感じさせた。

 豪華さならオレたちが拠点にしている屋敷も変わらないだろうが、屋敷は家具の趣味がぐちゃぐちゃだからなぁ。統一感というものが皆無な分、こちらの甘味所に軍配が上がるだろう。

「ねえアベル。本当にあたしたちまでお邪魔してしまってよかったの? ここって目玉が飛び出るほど高いんでしょ? いくらなんでもこの人数のお会計となると……」

「これがジゼルの望みだからなぁ……。あと、オレの財布の中身は前に見せただろ? これくらい余裕だ」

 オレは心配そうに眉をハの字にする姉貴に余裕の笑顔を見せ、姉貴にパフェを食べるように手で勧める。姉貴は細長いスプーンを手にして、おっかなびっくりパフェを掬い取り、口へと運んだ。

「まぁあ!」

 姉貴が口に手を当てて、驚きに目を真ん丸にしながらパフェを味わっている。次第に驚きに硬直した顔の筋肉が緩み、なんとも幸せな表情を浮かべた。オレは姉貴の幸福の表情が見られただけでも大満足だ。オレまで眉が下がってしまう。

 今回、オレたちが甘味所にやって来たのは、ジゼルのお願いだった。例の浴室でオレが皆の裸を見てしまったことへのお詫びに「なんでもする」と言った件である。もっと個人的なお願いがくるのかと思っていたが、思ったよりも平和なお願いでオレは胸を撫で下ろしているところだ。

 シヤも誘うか悩んだが、今回はオレの懺悔が目的だ。涙を呑んで誘わなかった。

 まぁ、シヤを誘ったとしても、オレとしか面識がないシヤが浮いちまうからな。それに、シヤが甘いものが好きかどうかも分からない。今度、シヤに訊いてみるか。この店はなかなか雰囲気がいい。シヤと一緒に過ごせたら楽しいだろう。

「この芸術品がまさか食べられるなんて……!」

「んっ……んっ……!」

 イザベルはすぐにパフェを食べずに、キラキラした瞳でパフェの繊細な盛り付けに感動していた。その隣で、リディは口の周りをべったり汚しながらパフェを競うように食べている。

「リディ」

「ん……?」

 オレはハンカチを収納空間から取り出すと、リディの口周りを拭いてやる。

「誰も取らねぇから、もっとゆっくり食えよ」

 綺麗になったリディの顔を見て満足げに頷くと、リディの顔に少し朱が走った。

「んっ……。ぁりがと……」

 リディが小さな声でお礼を口にすると、今度はゆっくりとパフェを食べ始める。

「おかわりー!」

「あ、あたしも!」

「貴女たち、もう少しこの奇跡の芸術品を愛でる心を持ちなさいな」

 元気よくジゼルとクロエがお代わりを叫び、そんな二人を見てイザベルが呆れたように苦言を呈する。

「次は何にしよっかなー!」

「あたし、このエクレアってのが気になるんだけど!」

 しかし、イザベルの苦言など聞こえないのか、二人の少女は既に次の得物を決めるのに夢中だ。

「まったく……」

 イザベルが頭が痛いとばかりに片手で頭を押さえ、溜息を吐いた。

「少しはこの儚い芸術に魅せられてもいいと思うのだけど……二人にはまだ早かったようね」

「イザベルも早く召し上がった方がいいですよぉ」

「エル、貴女ならこの芸術の価値を分かち合うことができると思っていたのだけれど……」

「ですが、早く食べないと……。ああ! イザベル! 溶けてます! 溶けてますわ!」

「え?」

 エレオノールの慌てた声にイザベルの方を見れば、イザベルの前に置かれたパフェは、溶けて崩れかけていた。

「あぁああ……。私の至宝がぁあ……!」

 すごいな。イザベルのこんなに情けない声なんて初めて聞いたぞ。たかが菓子一つにすごい感情移入だ。腹に入っちまえば一緒だろうに。

「イザベルも早くわねぇとドロドロに溶けて溢れちまうぞ?」

「くっ! 芸術とはこんなに儚いものなのね……」

 イザベルは悲しそうにスプーンで溶けかけたアイスを掬って食べた。

「おいひい……」

 イザベルの悲しげな顔はすぐに笑顔に変わり、パクパクとパフェを食べ始める。

 イザベルって一見上品な食べ方をしているように見えるが、そのスプーンの往復速度は異常だ。

「次はどんな芸術が私を待っているのかしら」

 あっという間にパフェを食べ終えたイザベルが、少女が浮かべてはいけないような恍惚の表情で熱い溜息を吐く。なぜだかイザベルのことを性的な目で見てしまいそうになるほど、その様子は性的な魅力に溢れていた。

 マズいな……。オレの周りには、現在女が六名だ。オレがイザベルを性的な目で見てしまったことを覚られたら、非難轟々だろう。

 そうでなくても、オレにはシヤという恋人がいるのだ。自重しなければ。

 オレはお年頃な女の子とパーティを組んでいるのだ。オレが男を出してはいけない。女の子たちにとって、オレは紳士でなくてはならないのだ。そうしなければ、オレはすぐにでもパーティを追い出されてしまうだろう。クロエを護るという誓いを果たすためにも、オレは自分の中の男を殺して少女たちと向き合わねば!

 ぶっちゃけ非常に窮屈だが、パーティが正常に稼働するためには仕方がない。

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