多少強引なところがあったが、オレは無事にシヤと結ばれた。だが、結ばれたとはいえ、シヤは子どもができないことにひどく負い目を感じている。これは今後の課題だな。
オレだって、できればシヤの間に子どもが欲しいと願っている。だが、現実は非情だ。シヤの成長には、100年ほどかかるらしい。人間のオレからしたら途方もない年月だ。100年後なんて、オレは生きていないだろう。
そうなると、オレはシヤのためになにを遺してやれるのだろうか?
「オレが遺してやれるのも……」
オレの呟きが、窓からの月明りに照らされた自室の空気に溶けるように消える。
オレは、屋敷の自室のベッドの上で横になりながら、これからどうするか考えていた。
シヤと結ばれてハッピーな気持ちはもちろんある。だが、それ以上に課題が大きく、素直に喜べないでいた。これが異種族婚の現実か……。人間とエルフでは寿命が違い過ぎるからな。今後ますます課題が見つかるだろう。
好きという気持ちだけで結ばれたオレたちだ。問題は山積みだな。
今、特に一番大きいのは、このままでは子どもを授かれないという問題だ。この問題に対して、オレは回答を見つけられないでいた。時間の壁は大きい。
確実にシヤより先に逝ってしまうオレが、シヤのために遺せるもの。
シヤの心を慰められるようなものがいいが……。なかなか難しい。
エルフは宝石を愛でる種族だと聞いた覚えがあるが、シヤが宝石を好むかも分からない。それに、もし宝石を好むとしても、大きなクランのリーダーをしているシヤならば、自分で買えるだけの財力があるだろう。
「やはり、思い出か……?」
ありきたりだが、シヤと一緒に楽しい思い出をたくさんつくる。それぐらいしか、いい案が浮かばない状態だ。
だが、記憶は劣化する。どんなに大切な記憶だろうと例外無く色あせていく。
しかし、こればかりはどうしようも……。いや、記憶を強化してやればいいのか?
例えば、特別な日には、シヤにプレゼントを贈るのはどうだろう?
プレゼントと記憶を紐づけて、思い出しやすくする作戦だ。これは我ながらなかなかいい作戦のような気がした。
だが、やたらめったらプレゼントを贈っていたら、混乱しちまうよな?
シヤとの思い出はどれもかけがいのないほど大切なものだが、厳選する必要がありそうだ。
シヤとの思い出を順位づけて厳選しなくてはならないのは癪だが、仕方がない。
まずは、オレとシヤが付き合った記念日は、プレゼントを贈ってもいいだろう。初めてシヤと心が通じ合った日。この日を祝わなくて、いつ祝うのかというくらい大切な日だ。
明日、目が覚めたら、さっそくプレゼントの選定だな。シヤの好みがまだ分からないし、プレゼントを贈っても喜んでくれるかも分からない。だが、オレがプレゼントを贈りたいのだ。
あまり高価なものだと引かれるか? 無難に失せ物を贈るか? しかし、形に残る物でなければ、記憶を紐づけできない。悩ましいな。
装飾品の類は、シヤにも趣味があるだろうし……。シヤも一般のエルフのように宝石を好むことにかけて、宝石をプレゼントするか? 宝石ならば、装飾品のように身に着けなくてはいけないというプレッシャーをシヤに与えることもないだろう。
「宝石にしてみるか……」
だが、一口に宝石と言っても多種多様な種類がある。オレは宝石に関しての知識はゼロだ。なにを選べばいいのか、まるっきり分からない。見た目だけで選ぶのも手ではあるが、宝石には花言葉のように石言葉なるものがあると聞く。それを加味した上で選定するのは、初心者のオレには難しい気がした。
「誰か助っ人でもいればいいんだが……」
いつもは頼りになる姉貴も、宝石なんて高価なものには縁遠い生活をしていたからな。姉貴の力をもってしても、今回は難しいだろう。クロエ、イザベル、ジゼル、リディも同じくダメそうだ。
「エルか……?」
商会長のご令嬢であるエレオノールならば、宝石も身近なものだとは思うが……。
さすがに宝石の友とまで呼ばれるエルフたちよりも知識があるとは思えない。やはり、宝石のことはエルフに訊くのが一番だろう。
「キールが宝石に詳しければよかったんだが……」
オレの親友である鍛冶屋のキール。エルフなのに宝石よりも金属が好きという変わり者だ。あまり期待はできない。
唯一のエルフの友がダメとなると、オレにエルフの知り合いなんて……。
「ん……?」
いや、もう一人いたか。知り合いというほど親しいわけではないが、オレとシヤの仲を応援してくれているエルフが。
「ダメもとで頼んでみるか。エルフならば宝石にもそれなりに詳しいだろうし、なによりシヤの好みについても把握してそうだしな」
まだ引き受けてくれるかは分からないが、シヤとの関係を円滑なものにするためにも、仲良くなっておきたいエルフである。
「さっそく、明日にでも訊いてみるか。善は急げって言うしな」
オレはようやく決まった明日の予定について満足し、ゴロンと寝返りを打つのだった。