次から次へと涙を流し、まるで自分の罪を告白するように懺悔するシヤ。そう。シヤの話では、シヤは子どもができない。シヤが子どもができるまで成長するためには、あと100年はかかるらしい。オレにあと100年も生きるのは、さすがに無理がある。オレは、オレとシヤの間に子どもをもうけることができないのだ。
シヤのこれまでの態度から、なにかがあるとは思っていたが、まさかの事態だった。しかし、言われてみれば納得することも多いのも確かだ。
そうか、オレはシヤとの間に子どもができない。
そのことは、思った以上にオレの心に深く浸み込んでいった。
「すまぬ……。すまぬ……」
しかし、それがオレのシヤへの愛に影を落とすと思われては心外である。オレはそんな半端な覚悟でシヤを愛することを誓ってはいないのだ。元よりオレとシヤとは種族の違いがある。そんなことは分かっていた。
その程度で、オレの想いは止まらない。
「じゃからな、アベル。お主はワシではなく他の女を娶るといい。子どもも産めぬワシを愛したところで仕方がなかろ? お主が他の女との間に子を残してくれてば、ワシの長い生の慰みになる……」
シヤは、子どもを産めないことを悪だと捉えている。だから、オレに他の女と結ばれることを望むし、自分は妾のような立場に甘んじることをよしとする。
まずは、その幻想をぶち壊してやる!
「いいか、シヤ。よく聞いてくれ。オレは何人も愛せるような器用なマネはできねぇ。オレが愛するのは、シヤ、お前だけだ」
「アベル……。じゃが、ワシは……」
「まず前提が違うんだよ、シヤ。オレは、自分の子どもが欲しいから誰かを愛するんじゃない。シヤを愛してるから、シヤとの子どもが欲しいと思ったんだ。それだけだ」
シヤが子どもを産めないという事実は、たしかにオレに影を落とした。だが、それで、それだけでシヤへの想いが変わるわけじゃない。
オレは、相手がシヤだから子どもが欲しかったのだ。子どもが欲しいから他の誰かを愛するなんて間違っている。
「だからシヤ、これ以上自分を卑下しないでくれ。オレが言っても説得力が無いがな」
「アベル……。ワシは……。ワシは……」
シヤの碧の瞳がその迷いを映すように揺れる。
「やっぱりワシは……」
そして、シヤが否定的なことがを呟こうとした瞬間、オレはその先は聞きたくないとシヤの唇を塞いだ。
「んっ……ん~……」
不意のキスに、シヤの体がピクリッと震え、涙がキラリと輝き、頬に線を残して消える。
「シヤ、頼む。頷いてくれ。オレはお前と一緒になりたい。もう諦めたように悲しく笑うお前を見たくないんだ」
短いバードキスを終え、シヤと至近距離から見つめ合いながら、オレは言葉を連ねる。
「じゃがな、アベル。ワシは……」
オレはシヤの言葉をキスすることで止め、強くシヤの細い体を抱きしめた。
「シヤ、もう無理をする必要なんて無いんだ。お前の心のままの言葉を聞かせてくれ……」
オレは、シヤから望む言葉を聞き出すまで、シヤと幾度も唇を重ねたのだった。
◇
「シヤ様、おめでとうございます」
「ッ!?」
「マイヤ!?」
シヤから望みの言葉を聞き出し、キスで高ぶってしまったお互いの体を慰めるために一つになった。情事を終えた後、不意に聞こえた第三者の声に驚愕する。オレをクランリーダー室まで連れて来てくれた長身のエルフ女性、マイヤだ。
「ななな、なぜお前がここに!?」
シヤもマイヤが居ることは予想外だったのか、かわいそうなくらいうろたえている。そうだね。さっきまでシてたし、まだ裸だもんね。そりゃ驚くよね。
「下の階でお茶を頂いて時間を潰していたのですが、そろそろ済んだかと思いまして」
いや、早すぎるんだけど? オレもシヤもまだ裸なんだけど!?
「早いわ! もそって外で待っとれ!」
「ですが、シヤ様のお召し物を交換いたしませんと」
「そんなものは自分でやる! いいから早く出ていけ!」
「そうですか。かしこまりました」
マイヤさんは、オレとシヤが裸で抱き合っているのに少しも取り乱した様子はなかった。それどころか、シヤをおちょくって楽しんでいるようですらあった。
「まったく、あ奴は……」
「その、シヤ、大丈夫なのか? オレがシヤに手を出したことを知られてしまったが……」
「あれは元々知っておるよ。その上で、ワシで遊んでおるんじゃよ……。 まぁ、男女の営みについて教えてくれたことには感謝しておるがの。おかげでお主と……」
オレは、まるでそれまで男女の営みを知らなかったような言い草のシヤに疑問を覚えた。たしかシヤは……。
「だが、オレが初めてというわけじゃないんだろ?」
オレの言葉に、シヤがまるで信じられないもの見たような顔でオレを見た。
なんでそんな顔するんだ? オレは……たしかにオレ以外にシヤを抱いた男の存在に嫉妬しそうになるが、オレも他の女を抱いたことがあるからな。それはお互い様だろう。
「ワシはお主が……初めて、なんじゃが……?」
「いや、でも血も出なかったしよ?」
オレは初めてシヤを抱いた夜のことを思い出す。
「なぜ血が出るんじゃ?」
「そりゃ、膜が破れるからじゃねぇか? そういや、シヤはあまり痛がってもいなかった。だからオレはてっきり……」
シヤはてっきり経験済みなのかと……。
「膜? 膜などあるのは、人間とモグラくらいじゃぞ! エルフにそんなものはない!」
「マジかよ……?」
我ながら単純だと思うが、オレがシヤの初めての男であったことに、喜びを覚えた。そして、気にしないと言いながらも気になっていたシヤの過去の男への醜い嫉妬心が浄化されていくのを感じた。