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第123話

「お前に言っても分からんかもしれんが、ブルギニョン家は風見鶏と揶揄されることもある、時勢によって派閥を変える大して力も領地もない、どこにでもいる小貴族なのだ。それをあ奴は……!」

 オレには貴族の風習やら常識やらは分からない。だが、分かることもある。ここに居るのは、ただの疲れ果てた老貴族だ。家の存続を第一に考える日和見主義とも言えるブルギニョン子爵。それに真っ向から反対したのがマクシミリアンだった。

 マクシミリアンの奴は、その武力を背景に、自分の派閥を作るほど精力的に自身の影響力を高めた。家の長であるブルギニョン子爵の意思を無視して。

 これに困ったのはブルギニョン子爵だ。ブルギニョン子爵家は、元々大した力を持たない木っ端貴族。その時の時勢を読んで、強い方につくことで家を永らえてきた。しかし、それは敵の居ない弱い貴族であるから見逃されていた側面が大きい。

 マクシミリアンは、ブルギニョン子爵家の影響力を上げる中で、いくつもの貴族と敵対してしまった。

 ブルギニョン子爵家の強引な勢力の伸張に、反発を覚えた貴族たちだ。

 風見鶏のように時勢によって派閥を変えてきたコウモリのようなブルギニョン子爵家は、敵も居なかったが、味方と呼べる貴族家も少なかった。しかし、マクシミリアンのせいで、敵ばかりが増えてしまったのだ。

「あ奴のせいで、我が家を取り巻く状況は最悪だ。どこの派閥からも嫌われ、孤立を余儀なくされている。小貴族である我が家にとってそれがどれほど辛いことか……」

 ブルギニョン子爵家は、マクシミリアンの暴走によって、大貴族の派閥に入ることができない。

 領地を持たない法衣貴族であるブルギニョン子爵家にとって、上とのつながりは至上命題だ。なぜなら、仕事や役職を斡旋してくれるのがつながりのある大貴族だからだ。

 それでも、マクシミリアンが居ればなんとかなったのではないだろうか?

 マクシミリアンは性格は終わっているが、それでも王国最強だ。マクシミリアンの力を利用しようと、大貴族からの接触があったのでは?

 マクシミリアンを消してしまったオレは、やはりブルギニョン子爵に恨まれているのではないだろうか?

「それはない!」

 しかし、オレの予想に反してブルギニョン子爵は強く断言する。

「いいか? あのバカは大貴族にも、まるで己が対等な立場のように、あるいは、自分の方が上であるという立場を崩さなかったのだ。反感を買うことはあっても、気に入られるということはない。あのバカは生きているだけで、我が家に災厄をもたらすのだ!」

「それは……」

 マクシミリアンにとって、強さとは絶対の価値だった。もしかしたら、マクシミリアンは、自分よりも弱いという理由で、権力者さえも下に見た態度だったのかもしれない。さすがにアホすぎないか?

「私は君に感謝していると言っただろう? あれは、これ以上あのバカが我が家に災厄をもたらすのを止めてくれたからだ。あのままでは、我が家は潰されていた。これではご先祖様に申し訳が立たぬ。かといって、私があ奴をコントロールするなど不可能。あのバカは自分よりも弱い者の意見など聞かないからな。私は絶望の淵に居たのだ」

 オレは、今更ながらブルギニョン子爵の絶望に触れる。

 マクシミリアンの力は、たしかに強力だ。上手く使えば、家格を上げることさえできるだろう。しかし、その力の担い手であるマクシミリアンの自我が強過ぎた。奴は人に使われることをよしとせず、自分で力を行使したがったのだ。

 マクシミリアンがもう少しだけでも従順な奴だったら、実の親からも名前を呼ばれないなんて事態も、貴族社会に居場所がなくなるなんて事態も防げただろうに……。まぁ、同情はしないが。

「では、私に対して含むところはないと? マクシミリアンが私に敗北したことで、ブルギニョン子爵家の名誉に傷がついていますが……?」

「家が潰れることを思えば、そのようなことは些事である。恩人に対して刃を抜くことこそ、恥ずべき行為だ」

「なんと……ッ!?」

 貴族はメンツが命だろうに、それを些事と言い切るとは……。オレはブルギニョン子爵を見誤っていたかもしれない。

「今回、お前を呼び出したのは、誤解無きように直接話がしたかったからだ。そして、私とお前の間には、なんのわだかまりも無いことを周囲にアピールする狙いもある。優秀な冒険者と敵対したままというのは、いろいろと問題があるからな。それに、できれば直接感謝を伝えたかった」

「…………」

 ブルギニョン子爵が、ほんのわずかに頭を下げた。貴族が平民に頭を下げるなど異例だ。貴族の頭はそんなに軽くない。

 絶対に敵対しているだろうと思っていたブルギニョン子爵。しかし、フタを開けてみれば、敵対どころか感謝までされてしまった。

 ブルギニョン子爵の言う通り、もし手紙で書かれていたとしても、オレは信じることができなかっただろう。直接会うことによって、やっとオレはブルギニョン子爵の本意を知ることができたのだ。

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