目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第109話

「つまり、敵襲があるかもしれないから、固まっていようってことね?」

 ようやくイザベルたちに事情説明が終わり、イザベルたちからオレに向けられていた視線が少し和らいだ気がする。

「オレは最初からそう言っている」

「貴方の言い方は紛らわしいのよ!」

「他に何と勘違いするんだよ?」

「それは……どうでもいいでしょ!」

 まったく、なんでオレがこんな目に……。

「アベるんに触られちゃった……」

「ょしよし……」

 ジゼルはなんだか落ち込んでいるみたいだし……。ジゼルを慰めているリディは、オレに責めるような視線を寄こす。オレは、いきなり乱心したジゼルを取り押さえただけだ。なんでオレが責められるんだ? まるで意味が分からない。

「その……ウチのアベルがごめんなさいね……」

「あたしの叔父さんがごめんなさい」

 なぜか姉貴とクロエがイザベルたちに謝ってるしよぉ……。オレ、そんなに悪いことしたか? したんだろうなぁ……。まるで意味が分からんが。

「でよ? できればイザベルたちにも一緒に暮らしてほしいわけだが、お前らはどうする?」

「その“一緒に暮らす”という物言いが騒動の原因だと思うのだけど……。まぁ、いいわ」

 イザベルが呆れたような顔でオレを見て、深いため息を吐いた。

「私たちもその意見には概ね賛成よ。敵に狙われているのに、わざわざ敵に利することをする気は無いわ」

「そいつはありがたいが、ジゼルとリディはどうだ?」

「あの子たちなら私が説得しておくわ。決して頭の悪い子たちじゃないもの。分かってくれるはずよ」

「そういうことならいいんだが……」

 ひとまず、これで皆が新しい家で一緒に住むことが決定したわけだな。紆余曲折があったが、なんとか話が纏まった。

「ふぅ……」

 達成感からか、小さな溜息が漏れていた。

「んじゃあよ。今、軽く今後のことについて考えるか」

「そうね。ジゼル、興奮してないで早くこっちに来て話を聞きなさい」

「あ、あーしは興奮なんてしてないよっ!」

「はいはい」

 ジゼルの言葉を軽く流し、イザベルはいつもの真面目な顔を浮かべる。ジゼルとリディが合流すると、オレはさっそくとばかりに口を開いた。

「まず、パーティの拠点にする家はまだ決まってねぇ」

「そうなの? 貴方のことだから、もう準備はできているのかと思ったわ」

「こういうのは、住む人間が全員、納得しなきゃな。オレ一人で決めていい問題じゃねぇ」

「そういうことなら、エルにも訊かないといけないわね」

「あぁ」

 イザベルの言う通り、エレオノールにも確認しないといけないが、オレはエレオノールに関しては、強引に話を進める必要を感じていない。

 エレオノールの家は、商会だけあってセキュリティーがしっかりしてそうだしな。警備の者も居るみたいだし、たぶん大丈夫だろう。

 オレが、イザベルたちに最初に話をしたのは、ボロアパートに住んでいるイザベルたちが一番危険だと思ったからだ。三人とも無事でよかったな。相手の行動が予想以上に早ければ、危なかっただろう。

 まぁ、こんな所に女子ばかりで住んでいるからか、イザベルたちの防犯意識は、オレの予想以上に高かったみたいだが。

「パーティの拠点ってかっけー!」

「あたしたち、一流の冒険者になったみたいね」

「んっ……!」

 パーティの拠点という言葉に、クロエたちがはしゃいでいる。まるで自分たちの秘密基地を手に入れた子どもたちのようだ。たしかに、高名なパーティは、自分たちの拠点を持っていることが多いからな。

「まぁ、拠点はこれから決めるとして、一応、紹介もしておくか。オレの姉貴にして、クロエの母親であるマルティーヌだ。今後は、オレたちの拠点の管理をしてもらうことになる」

「クロエのお母様が?」

「そうよ。みんな、よろしくね」

 姉貴が笑顔を浮かべて手を振ると、無邪気にジゼルとリディが手を振り返していた。こういうのは知らない人間よりも、知っている人間の方が安心するからな。姉貴に頼んで正解だった。

「お仕事はよろしいのですか? たしか、染色の工場で働いていらした気が……」

「よく知ってるわね。でも、そこは辞めることにしたわ。あたしまで狙われる可能性があるみたいだし、今回の件が終わるまで仕事を休んでいたら、どっちにしろクビになっちゃうもの」

「そうですか……」

 なんだか、イザベルのここまで畏まった態度は初めて見るな。あのオディロン相手にも、足が震えていたが気丈な態度を崩さなかったのに。

「まぁ、そこで拠点の管理人になってもらおうとなったわけだ。そして、今言ったように姉貴が狙われる可能性もある。姉貴を独りにさせるわけにもいかねぇし、かといって、ダンジョンの中に連れていくわけにもいかねぇ。当分はダンジョン攻略はなしだな」

「えぇー……」

「えぇー、じゃないわよ。人の命がかかってるんだから、真面目に考えなさい」

「そうわけじゃないけどー……」

 イザベルに窘められ、ジゼルが落ち込んだように顔を伏せる。ジゼルはダンジョン攻略、というよりは戦闘自体が好きなようだしな。見た目は猫のようにかわいいというのに、なんで戦闘狂になっちまったんだ……。

 まぁ、猫も獲物で遊ぶような特性があるからなぁ……。ある意味解釈一致かもしれん。

「まぁ、まずはエルの所に行って、意思を確認。その後、拠点を買って引っ越しだな。荷物を纏めろよ。この部屋に帰ってくることはないと思え」

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?