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第99話

 ドゴォオオオオオオオオオンッ!!!

 マクシミリアンの雷の体が、轟音を残して消える。マクシミリアンは、雷の速さで動くことが可能なのだ。その速度は、長年鍛えたオレの目にも補足は不可能。凄まじいまでの速さだ。

「………」

 マクシミリアンの姿が消えても、オレはなんの衝撃も感じはしなかった。

 オレは急いで収納空間の中身を確認すると、大量の高エネルギー。雷が収納されていることが分かった。どうやら、オレの作戦は成功したらしい。そして、オレは賭けに勝ったのだと知った。

「ふぅー……」

 オレの口から、深い溜息が漏れる。

 オレの収納空間に納まっている大量の雷の正体。それはマクシミリアンだ。オレはマクシミリアンの体ごと収納したのである。

 果たして生きている人間が、それも雷と化した人間が収納できるのか不安だったが、オレのギフトは問題なく働いてくれた。

 収納空間の中は、時間が停止している。どんなに速く動けるマクシミリアンも、この中では指一つとして動かすことは叶わないだろう。

 つまり、マクシミリアンは、オレの許しが無ければ、二度と外に出ることは叶わないのだ。ある意味、単純に殺すよりも無残かもしれない。

 感慨に耽っていると、周囲が徐々に騒がしくなる。オレとマクシミリアンの決闘を見に詰めかけた観衆たちが騒ぎ出したのだ。

「そいやぁ、決闘の見届け人はどこに居るんだ?」

 普通なら、見届け人が勝敗を付けてくれるのだが、見当たらない。決闘前に確認するべきだったな。こんな大事なことを見落とすなんて、オレも緊張していたのだろう。

 どうするべきか。そんなことを考えていたら、観衆の中からなにかが飛び出してきた。

「叔父さーん!」

 肩口で切り揃えられたツヤツヤの黒髪の少女。クロエだ。相変わらず、クロエはプリティだな。まるでクロエ自身が輝いているかのようだ。オレには、まるでクロエが勝利の女神のように見えた。

「アベるーん!」

 クロエの後ろには、クロエを追うように四人の少女たちが駆けてくるのが見える。『五花の夢』のメンバーたちだ。

 マクシミリアンの姿が消えたので、勝敗が付いたと判断したのだろう。皆の顔には明るさが宿っていた。決闘前の悲痛な顔と大違いだ。

 変な話だが、オレはクロエをはじめ、少女たちが浮かべる顔を見て、自分が勝利したのだと実感が湧いてきた。

 そうか。オレはマクシミリアンに勝ったのか……。

「叔父さんっ!」

「おっと。よしよし」

 オレは、飛び込んできたクロエを優しく受け止めた。クロエの小さく柔らかい体を抱きしめると、今頃になって、途端に体が震えそうになった。クロエを安心させるために震えを強引に止めて、オレはクロエの小さな背中を撫でる。

 小さい頃は、よく飛び付いてきたクロエだが、大きくなるにつれてあまり抱き付いてはくれなくなったからな。貴重な機会である。

 クロエが顔を上げると、目の端から涙が溢れんばかりに潤んでいた。

 泣いていたのか……。最近はクロエを泣かせてばかりだな。反省しよう。クロエを泣かす奴なんて、オレは許さない。そしてそれは、オレも対象外ではない。許さないぞ、オレ!

「叔父さん、叔父さんっ!」

「おう。叔父さんだぞー」

 オレに抱き付いたままぴょんぴょん跳ねるクロエのかわいさといったら……ッ! オレはもしかしたらレベル10ダンジョンも踏破できるかもしれないと気持ちが浮かび上がるほどだ。

「ぶ、無事でよかった。よかったよぉ~……」

 そのままオレの胸に顔を押し付けるクロエ。オレはクロエの頭を優しく撫でながら囁く。

「オレは、約束は守る叔父さんなんだ」

「うんっ! うん……っ!」

 ◇

「えへへ……」

 しばらくクロエを抱いて頭を撫でていると、ようやくクロエも落ち着いたのか、照れたように笑いながらオレの胸から顔を離す。オレとしてはもう少しだけでも触れ合っていたかったが、クロエから離れていくのだから、オレには歯を食いしばって耐えるしかない。

 オレは謙虚な叔父さんなのだ。

「次はあーしの番ね!」

 クロエが離れると同時に、今度はジゼルが飛び付いてきた。クロエよりも少し高い体温を感じる。

「ちょっ!?」

「ちょっとジゼル!」

「あーしはアベるんを信じてたよー。あんな奴に絶対負けないってね!」

「あらあら、まぁまぁ」

「よこ、はいり。よくない……」

 クロエとイザベルの鋭い声が飛ぶ中、ジゼルが満面の笑みでオレを見上げて言う。エレオノールは方頬に手を当てて微笑ましげだし、リディはなぜか頬を膨らませて不満顔だ。

「ありがとな、ジゼル。それはそうと、少し離れて……」

「アベるん、かっこよかったよー! すごいよ、アベるん! そういえば、なんで雷浴びても平気だったの? 最後の攻撃は何だったの? アイツってどこ行っちゃったの?」

「分かった。分かったから落ち着け」

 オレは、体を密着させてぴょんぴょん跳ねるジゼルの肩を掴むと、やんわりと体を離していく。なぜだか知らないが、オレを見ていたクロエの眉がだんだんと逆立ち、刻一刻と不機嫌になっていくからだ。

 クロエから嫌われるなんて御免だ。

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