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第98話

「これで終い……ね。オレは生きてるぞ、マクシミリアン。大層なことを言っていたが、ご自慢の攻撃を防がれた気分はどうだよ?」

「クッ!? 私を煽るか、寄生虫の分際で! いいだろう、訊いてやる。貴様、何をした?」

「答えるバカが居ると思うかよ? 少しは自分の頭で考えたらどうだ?」

「貴様……ッ!」

 常に余裕ぶっていたマクシミリアンが、歯を剥き出しにして吠える。オレが生きていること自体、奴にとっては想定外のはずだ。そして、オレがマクシミリアンの攻撃を受けても生存している原因が分からず混乱している。

「完璧主義なお前のことだ。今頃は羞恥の感情でいっぱいなんじゃないか? あれだけ大々的に宣言しておいて、オレを倒すどころか、傷一つ付けれてないぞ? とんだ赤っ恥だな?」

 有効手段のないオレは、マクシミリアンを煽っていく。無論、狙っての行為だ。

「言わせておけば……ッ! 私をコケにするつもりか!? 寄生虫ごときが! 貴族である私を!? バカにするなど許されぬ! 決してあってはならぬ!」

 マクシミリアンは、特権階級である貴族としてのプライドが過剰に高い。そして、それは裏返せば、マクシミリアンが劣等感を感じている部分だ。

 そこを穿つ。

「貴族って言ってもよ、叙爵されたわけでもねぇし、世継ぎってわけでもねぇ。お前は、ただ貴族に生まれただけだろ? そんな奴、この王都にはごまんと居るぜ? いちいち大袈裟に言うなよ。安っぽく見えるぞ?」

「き、ききき貴様ぁあああああッ!」

 マクシミリアンが、顔を真っ赤にしていきり立つ。その顔には、余裕の欠片も無い。いい兆候だな。怒りは簡単に人を視野狭窄に陥れる。

 普通は、冒険者は常に冷静であれと教えられるもんだ。ちょっとした隙が命取りになりかねないからな。しかし、マクシミリアンにはそんなことは関係ない。自身を雷化することで傷を癒せてしまうからな。

 そうして生まれるのは、感情のコントロールなどしない隙だらけのマクシミリアンだ。たしかに自身の雷化は強力な能力だ。だが、そのせいで冒険者として修めるべき技能が疎かになっている。

 だから、オレの拙い煽りでも本気で怒ってくるのだ。

 オレがマクシミリアンに付け入る隙があるとしたら、ここだ。

 オレは、マクシミリアンを更に煽るために口を開く。これまでマクシミリアンに言われっぱなしになって鬱憤が溜まっていたのか、マクシミリアンを貶める言葉はいくらでも思いついた。

「図星を指されて怒ったか? だが事実だろう? お前は、力や権力に振り回されている滑稽な道化に過ぎない。お前ももういい歳だろう? そろそろ自分の足で立つことを覚えたらどうだ?」

「調子に乗るなよ、寄生虫がッ! 貴様など疾く殺してくれるわ!」

 マクシミリアンが僅かに前傾姿勢を取ったのが見えた。オレはマクシミリアンを制するように右手を突き出す。

「お前には無理だな」

 オレの突き出された右手の先。長方形のどこまでも暗い空間が出現する。オレのギフトによる能力。収納空間だ。

「お前にオレの盾は越えられない」

「盾、だと……ッ!?」

 オレとマクシミリアンを遮るように突如として現れた四角く切り取られた空間。見方によっては、大きなタワーシールドのように見えるかもしれない。その正体は、物理的にはなんの影響も与えない収納空間である。盾のように攻撃を防ぐなどできない。そのことはオレも十分に承知している。

 だが、オレはあくまでも盾であると言い切る。

「貴様のギフトは、マジックバックにも劣る矮小な【収納】のギフトだったな。性能の良い宝具の盾でも手に入れたか……。そうか! 私の攻撃を防いだのもその盾か!」

「………」

 盾という言葉に惑わされて、マクシミリアンがオレの想定通りの勘違いを始める。ここまで上手くいくとは思わなかったが、やはりマクシミリアンは冒険者として三流にも成れない器でしかない。

 その与えられたギフトが強力であっただけの無知な子ども。それが今のマクシミリアンに対するオレの所感だ。

「運よく強力な宝具を手に入れただけの分際で……ッ! その盾ごと貴様を消し飛ばしてくれるわッ!」

 オレに踊らされているとも知らずに、マクシミリアンが息巻いている。

 このような大勢の観衆の前で挑戦を受ければ、マクシミリアンは必ず乗ってくると思っていた。

 普通に考えれば、厄介そうな盾を迂回してオレを攻撃すればいい。その方が確実だし、マクシミリアンにはそれができる。

 しかし、自己顕示欲の強いマクシミリアンは、その手を取らない。

 オレの自信の根源ともいえる盾を破壊し、オレを絶望させてから屠ることに拘るはずだ。その方が観衆の受けもいいだろうからな。

 オレが盾に絶対の自信を持っていると示した時点で、マクシミリアンには、盾を破壊してオレを殺すという手段しか選べないのだ。盾を迂回してオレを殺せば、真っ向勝負から逃げ出したと観衆に思われかねない。

 そんなことは、無駄にプライドの高いマクシミリアンには耐えがたいだろう。

「消し飛べ、寄生虫ッ!」

 マクシミリアンの雷の体が一層輝きを増していく。

「消えろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「収納」

 オレはマクシミリアンの咆哮と同時に小さく呟いた。

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