そのまま結局、パーティメンバー全員の頭を撫でることになった。エレオノールとか、初めて頭を撫でたな。緩くウェーブした金髪が柔らかかった。
そう言えば、ジゼルの頭を撫でてる時に、「アベるんなら、他の所も撫でていいよ」と言われたのだが、頭意外どこを撫でろというのだろうな? 相手が犬や猫なら、それこそ腹でも撫でるのだが、まさかジゼルの腹を撫でるわけにもいかない。
オレは、これでもセクハラしないように気を付けているのだ。
たまに窮屈にも感じるが、オレ以外のメンバーは年頃の女の子ばかりだからな。こういうことは特に気を付けているのである。
セクハラが原因でパーティ追放とか、絶対に回避したいのだ。
「うしっ! 到着だ。皆、おつかれさん」
まぁ、そんなこんなで『白狼の森林』を完全攻略したオレたちは、王都へと戻ってきていた。西日に赤く燃え始めた王都は、普段通りの賑やかさを見せている。これから夜を徹して、この賑やかさは更に深まるのだろう。これこそ、不夜城とも呼ばれる王都に相応しい光景だ。
「オレは冒険者ギルドに報告に行くが、お前らは解散してもいいぞ」
オレはクロエたちを振り返って言う。事務仕事ってのは面倒だからな。オレ一人いれば事足りるし、クロエたちは家に帰しちまってもいいだろう。以前の『ゴブリンの巣穴』を攻略した時よりも随分とマシになったが、クロエたちの顔には、疲労の色が見え隠れしていた。
「今回は私たちも行くわ。貴方に頼りっぱなしというのもね……」
「そうそう。ギルドに報告するまでが冒険って言われてるしねー。あーしもさんせー!」
「わたくしも賛成です。ちゃんと最後まで責任を果たさなくては」
「だって、叔父さん。あたしたちも冒険者ギルドに行くわ」
「いく……」
イザベルの言葉に、ジゼル、エレオノールが賛成し、クロエや眠そうにしているリディまで冒険者ギルドに行く意思を見せた。
「ふむ……」
オレが居なくても、冒険者ギルドとやり取りができるように手ほどきをしておくのもアリか。それに、冒険者ギルドの連中に顔見せしておくのもアリだろう。いざという時、助けになってくれるかもしれないからな。
「んじゃあ、行くか。お前たちはオレの後ろで、冒険者ギルドとのやり取りを見て覚えてくれりゃいい」
「分かったわ」
「「はーい」」
「分かりました」
「ん……」
バラバラの返事を聞きつつ、オレたちは冒険者ギルドを目指して歩き出す。
「今回は稼げてるといいわね」
「そだねー! オオカミの牙は安いらしいけど、毛皮はそこそこ高いらしいよー!」
「家計の足しになってくれるといいのだけど……」
「ん……」
なんとも所帯じみた少女たちの会話を背に聞きながら、オレは冒険者ギルドのスイングドアに手をかける。
この時、オレがもっと注意を払っていたら、あんなことにはならなかったかもしれない。
スイングドアを押して冒険者ギルドの中に入ると、いつも冒険者たちの声で騒がしいはずのギルドが、息を潜めたように静まり返っていた。
オレはこの時点で嫌な予感がしていた。できれば、このまま帰ってしまいたかったくらいだ。
「ほう? 誰かと思えば、寄生虫じゃないか」
「マクシミリアン……」
冒険者ギルドの中央に構えていたのは、見る者を威圧する金髪の偉丈夫の姿だった。
マクシミリアン・ド・ブルギニョン。
オレと同じくレベル8認定の冒険者。その名の通り、貴族の出身だ。貴族の出という出自がそうさせるのか、威圧的な言動が多い。オレたち平民など、雑草程度にしか思っていない男。オレの初めて組んだパーティのリーダーであった男だ。
「寄生虫ごときが、容易く我が名を呼ぶな。次期ブルギニョン子爵と呼びたまえよ」
マクシミリアンの目が鋭くなり、オレを睨む。マクシミリアンは、オレを徹底的に蔑み、蛇蝎のごとく嫌っているのだ。おそらく、戦闘能力のまるで無いオレが、自分と同じレベル8冒険者なのが許せないのだろう。
マクシミリアンにとって、強さとは絶対的な評価だ。
コイツ、噂では階級が上でも落ち目の貴族に対しては、自分より弱いという理由でタメ口をきいているらしい。なんで街中で、それも貴族社会で弱肉強食やってるんだよ。文明を知れ。
そんな野蛮人、マクシミリアンの目が、オレの顔からオレの後ろに逸らされた。
その時点で、オレの警戒度マックスだ。
「ほう! 寄生虫のクセに良い趣味をしているではないか!」
最悪だ。クロエたちがマクシミリアンに見つかってしまった。クロエたち、『五花の夢』のメンバーは、クロエはもちろん、オレから見ても確かに美少女たちだと思う。
マクシミリアンの性格は、傲慢この上ない。そして、オレを心底嫌悪している。なにか面倒なことを言い出すんじゃないか……。
「寄生虫ごときにはもったいない。我がもらってやろう」
「は……?」
コイツは、何を言っているんだ? もらってやる? 何を?
「呆けた顔がよく似合うな。人語すら忘れたか。ハハッ、虫にはお似合いの姿よ」
そう言って、マクシミリアンが右手を伸ばす。その向かう先に居るのは、エレオノールだった。