「お疲れさん。皆、楽にしてくれ」
イザベルとリディを引き連れて、オレはクロエたちに合流する。その際に、前衛陣の怪我の有無や装備、疲れ具合などもチェックすることを怠らない。特に心配なのが、エレオノールだ。
「はぁ、はぁ……」
エレオノールは息も荒く、疲労が激しそうだ。だが、その顔にはやりきった満足感が浮かんでいるのが窺えた。
エレオノールの姿を頭のてっぺんからつま先まで入念にチェックする。白狼に突き飛ばされたりしていたからな。リディのおかげで怪我は治っただろうが、装備の破損が心配だ。
「あの……いかがなさいましたぁ?」
エレオノールがおっとりした調子で頬に手を当ててオレを見る。オレがエレオノールの装備を隅々まで見ていることに気が付いたのだろう。その顔は、先程までよりも上気しているような気がした。
「ちょっと装備の点検だ」
オレはそう言うと、しゃがみ込んでエレオノールのロングスカートを捲る。スカートに隠された左足を注目した。特にここが激しく白狼に接触していた。装備がダメになってないか心配だ……。
「ひゃっ……。え? え? あのぅ……?」
「ちょちょちょっ! 叔父さんっ!」
「わーお!」
「……なにしてるの?」
「へん、たい……?」
オレがエレオノールのスカートを捲ると、なぜか少女たちが騒ぎ出した。エレオノールは状況がつかめないのか疑問の声を上げ、クロエはなぜか慌てたようにオレを呼ぶ。ジゼルはなぜか興奮したように黄色い歓声を上げ、その真逆に、イザベルは凍えそうなほど冷たい声を発していた。
そして、オレはリディの「へん、たい……?」発言に、自身の行動を冷静に客観視してみた。15歳の少女のスカートを捲る32歳オレ。これはどう見てもアウトだった。
「いや、待て待て待て待て。オレはエレオノールの左足の脚甲の調子を見たかっただけで! と言うか、エレオノールは下に鎧下を着てるから! そんなに言わなくてもいいだろ?」
たしかに、絵面だけ見れば、オレは立派な痴漢のようだが、待ってほしい。エレオノールは、ロングスカートの下に、鎧下という白い厚手のズボンのような物を穿いているのだ。断じてオレは、エレオノールの下着を無理やり見ようとしたわけではない。
「いえ、女性のスカートを捲るという行為自体が問題なのよ?」
「「「「うんうん」」」」冷たさすら感じるイザベルの声に頷いて同意を示すクロエたち。その中でもエレオノールは、顔を真っ赤にして高速で頷いている。
「そういうもんか……?」
男のオレには分からん。鎧下を穿いているのだから、恥ずかしがる必要など、どこにもないと思うのだが……。
だが、肝心のエレオノールが顔を真っ赤にして、手で顔を覆っている。目尻には小さく涙まで浮かんでいる始末だ。どう見てもエレオノールは恥ずかしがっているように見えた。
「それは……。すまなかった」
オレは、ロングスカートから手を離し、エレオノールに向かって軽く頭を下げた。
なんとなく納得できないものを感じるが、オレは知らず知らずのうちにエレオノールを辱めてしまったらしい。鎧下を見られて恥ずかしがるってなんだよ……。
だが、オレは空気の読めるおじさんだ。女の子特有の機微には疎いかもしれないが、どんなに不可思議なものも、そういうものとして受け止める度量があるつもりだ。
だから、オレはエレオノールに謝罪し、許しを請うことができる。オレ以外、皆年頃の少女だからな。命に係わる重大事でなければ、オレが折れてるのが最も平和な解決策だろう。
「そのぉ……大丈夫ですわぁ……平気ですぅ……」
どう見ても平気そうには見えないが、エレオノールが顔を赤らめたままオレに向かって小さく笑みを浮かべてみせた。
まぁ、例え強がりだったとしても、本人も平気だと言っているんだし、たぶん平気なのだろう。
「ふぅー……」
オレは小さく安堵の息を漏らした。こんな小さなバカらしいとも言えることで、パーティの和が崩れるなんて、あっては堪らんからな。
「じゃあ、エレオノール。改めて、左足を見せてくれないか? 装備に不具合が無いか確認する」
「……はいぃ……」
エレオノールが赤らんだ顔でちらちらとオレの様子を窺ってくる。だが、オレに引くつもりは無いと知ると、観念したようにその紺色のロングスカートを摘まんだ。そして、まるでカーテシーを披露するように、ゆっくりと徐々に徐々に両手でロングスカートを吊り上げていく。
エレオノールが顔を赤らめて恥ずかしそうにしていることといい、まるでオレを焦らすような速度で吊り上がっていくスカートといい、なんだか妙なことをしている気さえしてきた。
これは乙女的にはセーフなのだろうか?
これがセーフなら、さっきのもセーフじゃないのか?
そんな疑問が頭を過るが、オレは努めてそれを無視した。
「そのぉ……。どうぞぉ……」
「ああ……」
やがて現れたエレオノールの左足の脚甲。オレは、少女たちに監視されながら、エレオノールの脚甲を観察していくのだった。