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第51話

「あ、あの、リディたん! お久しぶりです!」

「やー!」

「あぁ……」

 ギュスターヴのパーティメンバーに話しかけられ、すぐにイザベルの背中に隠れてしまうリディ。その、なんだ……。久しぶりに会ったんだし、もうちょっと構ってやってもいい気が……。リディに話しかけた少年、泣きそうだぞ?

「それにしても……」

 少年少女の様子を冷静に一歩引いて見ていると、いろいろなことが見えてくる。

「それでよぉ、イザベル……この後、予定がなかったらでいいんだけどよ……」

「悪いけど、この後も予定があるの」

「ジゼルちゃん、お腹空いてない? 僕、ちょっとならお金あるから、奢るよ!」

「え、いいの? モーリスちんやっさしー!」

「でへへ」

 孤児院組では、どうやら、青い恋物語が紡がれているらしい。ギュスターヴはイザベルに好意を寄せているようだし、他にもリディを狙ってる少年と、ジゼルを狙っている少年も居るようだ。

「クロエはこの後暇? 暇だったら俺とデートに……」

「ちょっと! 叔父さんの前で変なこと言わないでよっ!」

「エレオノールお嬢様、お久しぶりです! マルクです! 今日は素敵な日ですね。まさか、エレオノールお嬢様にお目にかかることができるとは! 私の心は今! 厚い雲のヴェールから、一筋の光が降り注いだような心地です! その光こそそう! エレオノールお嬢様に違いありません! そもそも私は……」

「マルク……? あの、どちらさまでしょうか?」

 クロエやエレオノールに言い寄る少年も居る。しかし、あまり戦況は芳しくないようだ。エレオノールにいたっては、相手を覚えてすらいないらしい。さすがにかわいそうだ。

 まぁ、クロエをはじめ、『五花の夢』のメンバーは皆、魅力的な少女たちだから、その気持ちは分かる。しかし、悲しいかな。少年たちの恋心は、少女たちに届いてはいないようだ。イザベルはギュスターヴの話を気の無い態度で聞いているし、リディはイザベルの後ろに隠れてしまったし、ジゼルにいたっては、食欲の方が優先のようだ。哀れ少年たち……。

「それで、ギュスターヴだったか? お前ら、レベル4ダンジョンに潜るのかよ?」

 オレは、イザベルの振られて轟沈寸前のようなギュスターヴに話を振ってやる。肩を落としていたギュスターヴは、イザベルにアピールできるチャンスと踏んだのか、バネ仕掛けのオモチャのように顔を上げた。

「そう! そうなんだよ! 俺たち、今度はレベル4のダンジョンに挑戦するんだ! すげーだろ! オディロンの師匠も言ってたぜ? 俺たちは今期の新人冒険者の中でも最速だってよ! 優秀だって褒められちまったぜ!」

 ギュスターヴの言葉に、ギュスターヴのパーティメンバーが胸を張る。彼らにとって、その事実は誇りなのだろう。

 それに、オディロンが了承済みということは、ギュスターヴたちには、レベル4ダンジョンを攻略できるとオディロンは判断したということだ。たしかに優秀だな。

「お前ら、やるじゃねぇか! レベル4ダンジョンに潜れるなら、上手くすりゃ一生喰いっぱぐれることはねぇぞ」

 オレの言葉を聞いて、ギュスターヴたちの瞳は期待に輝く。

「おう! 宝具をがっぽがっぽ見つけて、億万長者になってやるぜ!」

「おうよ! 早く宝具を見つけてぇなぁ」

「宝具は神の恵み。どんなに無用なものでも、それなりの値段で売れると聞きますからね」

「役に立つ宝具は自分たちで使って、いらないのを売ればいいんだな」

「あぁ、早くダンジョンに行きてぇぜ!」

 ギュスターヴたちが宝具の話題で盛り上がっている通り、レベル4のダンジョンから、ダンジョンを潜る醍醐味である宝具が稀に出現する。

 宝具とは、レベル4以上のダンジョンから見つかる不思議な効果を持ったアイテムの総称だ。ゴミみたいな性能の物から、まさしく宝と呼ぶに相応しい物まで、その種類も効果も膨大。とくに有名な宝具として、見た目以上に物が入る鞄、マジックバッグなどがある。

 教会によると、宝具というのは、ダンジョンで魂の精錬に励む人類への神からのご褒美という位置付けらしい。そのため、どんなに使えない宝具でも、そこそこの値段で売れる。役には立たない宝具でも、その見た目の芸術性や、効果の珍しさなどで、驚くような高値で売れる場合もあるほどだ。中には、役に立たない宝具ばかりを集めるコレクターなんてのも居るらしい。

「だが、気を付けろよ。レベル4のダンジョンは伊達じゃねぇ。途中で引き返すのも勇気だ。何事も命あっての物種だからな」

 どうしても頭に『切り裂く闇』の面々の最期がこびり付き、オレはギュスターヴたちの熱気に水を差すことを承知で口を開いた。自分より若い奴が死ぬのはもうたくさんだからな。ギュスターヴのパーティメンバーは、クロエたちにとっても見知った奴ららしいし、余計に死んでほしくない。

「大丈夫だっておっさん。オディロンの師匠にも耳にタコができるくらい釘を刺されたしな! ぜってー無茶はしねぇよ。俺たちも死にたくはねぇからさ」

「ならいいが……」

 一抹の不安を覚えながら、オレはギュスターヴに頷いた。できれば、無事に帰ってきてほしいものだ。

 自信たっぷりに笑ってみせるギュスターヴ。そんなギュスターヴの姿を、イザベルは目を細めて複雑な表情で見ていたのが印象に残った。

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