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第50話

「うしっ! 全員揃ったな」

 今日も賑やかな王都の大通り、冒険者ギルドの前。オレは、五人の少女たちが揃ったのを確認して口を開く。

「今日、皆に集まってもらったのは、紹介したい奴が居るからだ」

「わたくしたちに紹介したいお人ですかぁ?」

 オレは、エレオノールの問いに頷いて答える。

「そうだ。オディロンって奴なんだが……」

「まさか、『紅蓮』の“岩砕き”オディロンかしら……?」

「ほう」

 優秀なことに、イザベルはオディロンのことを知っているらしい。

「有名な人なの?」

「そうね。かなりの有名人よ。レベル6冒険者パーティ『紅蓮』のリーダー。数少ないレベル6認定冒険者の一人。ハーフドワーフのオディロン。二つ名は“岩砕き”」

「まあ、すごい方なんですねぇ」

 イザベルは初めて会った時もオレのことも知っていたし、冒険者の情報をある程度集めているのだろう。情報は表層的なものだが、間違った情報は無い。記憶力もいいのだろう。

 ボロのワンピースを着ているイザベルの姿は、さながら物乞いのようだが、眼鏡をかけたその涼しげな横顔は、とても知的に見えた。眼鏡をかけると、どうして頭がよく見えるのかねぇ……。永遠の謎だ。

 というか、せっかく黒のドレスを買ったんだから、わざわざボロを着なくても、ドレスを着てくればいいのにな。

「ソイツって強いの?」

「レベル6認定冒険者が弱いわけないでしょう?」

 イザベルが呆れたような顔で、首を傾げるジゼルに答えた。

 クロエといい、エレオノールといい、ジゼルといい、オディロンのことを知らないらしい。有名人だと思うんだがなぁ。特に初心者冒険者の間では。

「んじゃ行くぞー」

 オレは少女たちに声をかけると、冒険者ギルドのスイングドアを開け放つ。冒険者ギルドの中に入ると、途端にガヤガヤと騒がしい喧騒に包まれた。今日も冒険者ギルドは王都の大通りに負けないくらい賑やからしい。

 後ろから少女たちが冒険者ギルドの中に入ってくるのを横目に見つつ、オレは冒険者ギルドの中を確認していく。

「おっ!」

 オディロンの姿はすぐに見つかった。オディロンはデカいし、目を引くような深紅の外套を着ているからすぐに分かる。

 オレは、オディロンに近づこうとしたところで、オディロンの座る席の向かいに、まだ若い冒険者たちの姿があることに気が付いた。あれは……たしか、前にオレをパーティに誘った少年だな。名前は何だったか……。

 そんなことを思いながら、オレは片手を軽く上げて、オディロンに声をかける。

「よぉ、オディロン」

「ん? お前さんか。それと……」

 オディロンの視線が、オレから横にずれた。

「ほお。お嬢ちゃんたちが、“育て屋”アベルのお眼鏡に適った冒険者か」

 オディロンがクロエたちを見て、笑顔を浮かべて目を細めた。

「初めまして。会えて光栄よ“岩砕き”のオディロン。私たちが『五花の夢』。私はイザベルよ。以後よろしくお願いするわ」

 イザベルが先陣を切るように一歩前に出て自己紹介した。凛とした態度は、余裕さえ感じさせるが、その脚は細かく震えているのが見えた。もしかして、内心は緊張しているのか?

 そして、リディは相変わらず、そんなイザベルのお尻に抱き付いて隠れたままだ。

「おお? イザベルじゃねぇか! 育て屋のおっさんと一緒って……もしかして、おっさんはお前らのパーティに入ったのかよ?!」

 オディロンの向かいに座った金髪の少年が、イザベルの姿を見て驚いたように声を上げた。知り合いか?

「なんじゃ、お主ら知り合いか?」

 オディロンが少年とイザベルを交互に見ながら疑問を浮かべる。

「同じ孤児院の出なんだ。な? イザベル?」

「はぁ……。そうよ。久しぶりね、ギュスターヴ」

 あぁ、そうだ。この少年の名前はギュスターヴだった。オレを真正面からパーティに誘ってくれた気持ちのいい少年だった。少年の後ろには、五人の少年たちが立っている。彼らも見覚えがあるな。たしか、ギュスターヴのパーティメンバーだったはずだ。

 それにしても、イザベルとジゼル、そしてリディは孤児院の出とは知ってはいたが、ギュスターヴもそうらしい。

 ◇

 オレたちは、とりあえずオディロンへの自己紹介を済ませた。これでもし、オレになにか遭った場合、オディロンを頼ればいい。

 オレ自身、死ぬつもりも怪我をするつもりもねぇが、人生ってのはどうなるか分からんからな。保険はかけておくべきだ。

 オディロンなら、今までも初心者冒険者の援助をしているし、勝手も分かっているだろう。オレも、オディロンならば安心して後を任せることができる。

「それにしても、イザベルたちが“育て屋”のおっさんを仲間にしていたのには驚いたぜ。なあ? イザベルたちは今、何レベルのダンジョンを攻略してるんだ? 俺たちは、今度レベル4のダンジョンに挑戦するぜ! そのためにオディロンの師匠にもいろいろアドバイス貰ったしよ」

「レベル4……それはすごいわね」

 オディロンに『五花の夢』の少女たちを紹介した後、オレたちはギュスターヴのパーティとお喋りしていた。本来なら情報交換をするべきところなどだろうが、久しぶりに友人に会う機会を奪うほど、オレは情が無いわけじゃない。

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