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第49話

 冒険者ってのは、己の武器や防具に命を預けるからな。腕のいい鍛冶師や職人は、時に信奉の対象にもなるほどだ。

 キールは、ドワーフが大半を占めている名鍛冶師の中でも、エルフながらも高い評価を受けている。以前はあったエルフのクセに鍛冶師をしているという下に見る風潮も、自力で跳ねのけた芯の強い奴だ。仕事も丁寧だし、キールになら、オレは喜んで命を預けられる。

「今日は簡単な仕事だぜ」

 オレもキールの真似をして肩をすくめてみせる。

「どうだかな。アベルは時々突拍子も無いことを言う」

「へへっ」

 オレは鼻の下を擦ると、収納空間からある物を取り出した。

「それは……?」

「今日はコイツを作ってもらいたい」

 オレがカウンターテーブルに置いた物、それは、まるで大きく太い杭のようなヘヴィークロスボウの専用ボルトだ。並みのボルトの何倍も大きく、オレの親指よりも余裕で太いボルト。さすがにここまで大きなボルトは、商会では売っていない。特注品だ。

 そして、このボルトを作ってくれるのがキールだ。キールは弓が得意な種族と言われるエルフだからか、矢の鏃は勿論、クロスボウのボルトの制作も上手い。真っ直ぐ狙い通りに飛んでくれるボルトは、大袈裟かもしれないが感動ものである。

「ふむ。ボルトか。以前作ったのをもう消耗したのか?」

 クロスボウのボルトは、消耗品だ。オレは定期的にキールの店を訪れては注文している。

 ヘヴィークロスボウの威力は強力だからな。その威力ゆえに、ボルトの先端が潰れたり、歪んだりして、ヘタるのが早い。だいたい、2、3回使い回したら、そのボルトはダメになる。

 たしかにボルトの補充もしたい。だが、今回はそれだけじゃない。

「それもあるが、今回はボルトが大量に欲しい。それこそ、1000は欲しいくらいだ」

 オレの言葉に、キールが僅かに目を瞠って驚きを示す。

「1000ときたか。アベルのギフトは優秀だが、ボルトも1000発となると、かなり場所を取るぞ? ギフトが成長して、収納できる容量が増えでもしたのか?」

 オレは、少し考えると、キールに真実を話すことに決めた。命を預けると決めた相手だ。そんな相手に隠し事なんて今更だろう。キールはお喋りというわけじゃないしな。

「ギフトが成長したのは正解だが、容量が増えたわけじゃねぇ。新しいスキルを見つけたんだ」

「なにっ!? それは本当か!?」

 キールが、今度はカウンターテーブルに身を乗り出すようにして、驚きを示す。キールが驚くのも無理はないくらい、新たなスキルを発見するのは稀なことなのだ。ギフトを貰いたての新成人ならともかく、オレみたいなおっさんが今更新たな能力を発見するのは、特に稀である。

「どういったスキルなんだ?! 実戦では使えるのか?!」

「まぁまぁ、落ち着けよ」

 新たなスキルを発見した当事者であるオレよりも、キールの方が興奮していた。それだけ、オレのことを気にかけてくれているということだろう。

「実戦では使えるな。むしろ、オレの弱点を大いに補ってくれる可能性がある。まだまだ検証不足だがな」

「そうか!」

 キールが満面の笑みを浮かべてオレを見ていた。オレはなぜだか少し恥ずかしいものを感じた。まったく、コイツは昔から好い奴だな。オレの成功を自分のことのように喜んでくれる。

「私はね、アベル。君のおかげで念願の鍛冶師になることができたのだ。君には恩を感じている。なんの力もない私を、君はここまで導いてくれた。感謝している。そんな君のめでたい門出だ。ボルトでもなんでも作ろうじゃないか。勿論、お代は私持ちでね」

「そいつはありがたいが、本当にいいのか? それに、オレはなにもしてないさ。全てはキールの実力だ」

 キールはギフトこそ鍛冶師向きのギフトで実戦には使えなかったが、エルフの中でも精霊魔法と弓の腕が抜群だった。本人はなにもできなかったと謙遜しているが、オレよりもよっぽどパーティに貢献していたくらいだ。

「アベルのおかげで店の評判もいいからね。構わないさ。今度、大通りの商会に品物を卸すことになってね」

「キールの実力に、皆が気が付いただけさ。オレはなにもしていない」

 店の評判がいいのは、それこそキールの実力だろうに。

「店を出した最初の頃、一番厳しい時期だ。君が私の店を買い支えてくれたじゃないか。それに、周りの冒険者にも宣伝してくれた。アベルの紹介だからと、店に来てくれた客も多い」

「オレは信頼できる奴に仕事を任せただけさ。それに、もしキールの腕が悪ければ、客は来ても常連になることはなかった。キールの実力で勝ち取った未来だぜ」

「嬉しいことを言ってくれる。君の信頼を勝ち得ているのは、私の誇りとするべきことだな」

 まったく、相変わらず大袈裟だな。そして、驚くほど義理堅い。こんな奴だからこそ、オレはキールを信頼しているのだ。

「お披露目がてら、オレのスキルを見てくれよ。検証も手伝ってくれると助かる」

「いいのか? アベルの新しい武器になるのだろう? パーティメンバー以外には秘匿するべきだと思うが……」

「信頼してるさ。それに、手伝ってくれると助かるってのも本当でよ?」

 オレは久しぶりに飾らなくていい相手に会えて、知らず知らずのうちに饒舌になっていた。やっぱり、思春期の女の子の中に、オレみたいなおじさんが割って入るってのは、無駄にストレスを抱えるもんな。ガサツなオレだが、これでも『五花の夢』のメンバーには気を遣っているのだ。

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