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第20話

「で、だ……」

 オレは目の前に集まった『五花の夢』の面々を見ながら頭を抱える。あぁーもう、頭が痛ぇぜこの野郎。

 ここは王都の東門の広場だ。オレたち6人は広場の片隅、門に近い場所に集合していた。広場には多くの屋台が軒を連ね、市が立っている。先程からひっきりなしに馬車と人々が行きかい、王都の賑わいを象徴していた。

 ガヤガヤと意味のある単語さえ聞き取れない騒がしい空間。オレはその中でも声が通るように、大きな声を上げる。

「お前ら、冒険者ナメてんのか? なんだよその恰好は?」

 冒険者を始めるにあたって、オレが装備一式を成人祝いに贈ったクロエ以外のメンバーの装備がダメダメだった。冒険者じゃなくても、旅人の方がよほどまともな装備をしていると思うほどだ。

 特にひどいのが……。

「エレオノールとジゼルはなんだ? なんでミニスカートなんだ?」

 エレオノールの鎧は良い。若干装飾華美なところがあるが、鎧自体の質は高そうだ。だというのに、エレオノールはなぜか白のミニスカートに黒のニーハイソックスというふざけた格好をしていた。ミニスカートとソックスの間の露出した白い太ももが眩しい。

「かわいらしいでしょう?」

 エレオノールがクルリと回転してみせる。バレエでも習っていたのか、その体幹にズレはない。それ自体は良いことだが、ひらひらと翻るミニスカートがなんとも頼りない。そもそもかわいらしさで命を預けることになる装備を選ぶこと自体が間違っている。

 エレオノールに感化されたのか、ジゼルもクルリと一回転してみせた。ひらりとスカートの裾が捲れ上がり、クリーム色のパンツがチラリと見えた。こちらに至ってはもう何から指摘するべきか……。

 ジゼルは、先日の初顔合わせで会った時の恰好のまま現れた。ピチピチの明らかに体の大きさに合っていないワンピース姿だ。パッと見では下を履き忘れたように見える格好だ。靴も使い古したボロボロの靴で、その細くてしなやかな白い脚がむき出しになっている。冒険者らしい装備は腰に佩いた安物の剣だけで、それが無ければ、ただの物乞いが似合う貧民の少女だ。とても冒険者のする装備とは思えない。

「はぁ……。お前らは本当に冒険者って自覚があるのか? これからダンジョンに潜ってモンスターと戦うんだぞ?」

「もちろんありますわぁー」

「そーそー。ダンジョンのモンスターなんて一撃だから!」

 エレオノールとジゼルの答えを聞いて、更に不安を募らせたオレを誰が責められるだろう。

「そんな恰好で戦えば、要らん怪我をするだろうが。なんなんだお前らは? パンツ見せたがりの痴女かなんかか?」

「ち、痴女なんかじゃありませんっ!」

 エレオノールが顔を赤くしてブンブンと両手を振って否定する。だが、そんな短いミニスカートで戦闘なんかしたら、確実に見えるだろう。ジゼルなんてもっとひどい。そのピチピチのワンピースの裾は、股下から指2本くらいしかないような超ミニスカートだ。もう見せるための恰好にしか思えない。娼婦だってもうちょっとマシな格好してるぞ。

「この方が動きやすいし、べつにパンツくらい見られてもよくなーい?」

 そう言って、なにを思ったのか、ジゼルが自分からスカート捲り上げる。おそらく安物なのだろう。飾りも無ければ、染色もしてない生地のクリーム色のパンツだ。

 ジゼルの顔には特に恥じらいの表情は浮かんでおらず、この少女が本気で言っていることが伝わってくる。お願いだから少しは恥じらいを持ってくれ。

「ひゅーっ! お嬢ちゃんいいねー!」

「おぉーいいぞー! もっと脱げ!」

「ぬーげ! ぬーげ! ぬーげ!」

 いつの間にか通行人が野次馬になって、ジゼルに熱い視線を送っていた。

「ジゼル、いいからパンツしまえ」

「あーい」

 ジゼルはオレに言われた通り、素直にスカートを下した。その顔には、特に羞恥や興奮の色は無く、ジゼルが本当になんとも思ってないことが伝わってくる。

「旦那ー。サービスが足りないぜ」

「そうそう」

「散れ散れ。オレたちは見世物屋じゃねぇ。冒険者だ」

 野次馬どもにシッシッと手を振って、オレの視線はイザベルへと向かう。コイツも問題だ。

「イザベルは……もっとマシな服は無かったのか?」

 イザベルの恰好は一目で安物と分かる膝丈の黒いワンピースだった。一応剣を佩いていたジゼルとは違い、もう普通の町人にしか見えない。

「私の武器は精霊魔法だもの。服は関係ないでしょ?」

「いや、確かにそうだが……魔法を強化する装備ってのもある。せめて杖くらい持ったらどうだ?」

 魔法使いといえば杖を連想する人も多いだろう。それは、魔法を強化する宝具が、杖に偏っていることに由来する。人類はまだ、魔法を強化する装備を作れないのが現状だ。ダンジョンから得られる宝具を使うしかない。

「知っているわ。でも、高くてとても買えないのよ。こんな格好をしているのですもの。貴方にも察することができるでしょ?」

 たしかに、イザベルの服装は、みすぼらしいと表現するのが妥当かもしれない。宝具の杖を買うような金があったら、まず服装をどうにかするか……。

 ということは、同じようにほつれの目立つ服を着ているジゼルも金欠なのだろう。

 まぁ、初心者冒険者なんてこんなものか……。昔を思い出せば、オレも初心者の頃は似たようなものだったと思う。

 これはテコ入れが必要だな。

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