目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第19話

 とまぁ、そんな訳でこの目の前の筋骨隆々としたハーフドワーフは冒険者の中でも随一の情報通だ。オディロンに訊けば、最新の若手冒険者たちの動向も分かるだろう。

「情報が欲しいんだ。最新の情報がな」

 オレの話を聞いて、オディロンが眉を寄せる。一見、その巌のような顔が不機嫌そうに歪んでいるように見えるが、これがオディロンの考えを纏める時の顔だ。

「俺様に訊くってことは、ひよっこどもの情報か? お前を手に入れた幸運なパーティは、どうやらひよっこらしいな?」

「ほう……。相変わらず勘がいいな」

 オレの言葉に、オディロンがニヤリと笑って見せる。まったく、相変わらずの勘のよさだな。オレが零した僅かな情報から、オレの所属するパーティが初心者のパーティであると見抜いてみせた。

「惜しいな……」

 オディロンが呟くように零す。

「惜しい?」

 いったい何が惜しいというのだろう?

「いろいろと惜しいと思ってな。さっきお前さんをパーティに勧誘した小僧のこと覚えているか?」

「ギュスターヴのことか?」

 オディロンが一度頷いて口を開く。

「あの小僧のパーティは、たしかに若造だが、わりとパーティメンバーのギフト構成がいいパーティでな。本人たちの向上心もあるし、感じのいい若造どもだ。丁度1人空きがあるし、お前さんが導いてくれればと思ったのだが……」

 察するに、先程のギュスターヴの勧誘は、裏でオディロンが糸を引いていたのだろう。まだ一回会っただけだが、たしかに好感の持てるパーティだった。オディロンがオレに薦めるのも分かる。

「それにな。お前さんほどの実力なら、一線級のパーティからも誘いがかかるだろう」

「いや……」

 オディロンの言葉を否定しようとしたら、ふと脳裏にシヤの姿が浮かんだ。

『どうじゃ? この機会にお主も『連枝の縁』に入らんか? お主なら即一軍入りよ』

 おそらく、オレを慰めるためのリップサービスだが、一線級のパーティから誘われたのは事実か……。

「いつも陰に徹するお前さんが、その才能を存分に発揮して華々しく活躍するところも見たかったんだがなぁ……」

「そう言われてもなぁ。いつも言ってるが、オレはそんな大した奴じゃねぇよ」

 レベル8という認定レベルがそうさせるのか、オディロンはオレのことを高く評価し過ぎている節がある。まぁ、同じくレベル8に認定されているのが“雷導”や“悪食”だからな。奴らと同じような活躍を期待しているのかもしれない。

「まぁ、あんたがオレの才を認めてくれるのは嬉しいけどよ。本物の天才ってのは、“雷導”や“悪食”のことを言うんだろうぜ?」

 “雷導”や“悪食”は、単独でレベル8ダンジョンを制覇した本物のバケモノだ。本物の天才には、凡人は付いていくことすらできない。これは“雷導”や“悪食”に限った話じゃないが、高名な冒険者ってのはパーティを組まないソロの場合が多い。その圧倒的な実力に、周囲の冒険者が付いていけなくなるからだ。

 真の天才にとって、オレたち凡人は単なる足手まといでしかない。

「オレは荷物持ちしか能のねぇ、しがないポーターでしかねぇ。その唯一の長所もマジックバッグにも劣るような奴だぜ? マジックバッグが手に入るまでのツナギでしか活躍場所がねぇよ」

 オディロンがムッとしたように眉を逆立てて口を開く。

「お前さんのその自分を過剰に卑下するクセは好きになれんな。俺様は、お前さんならレベル9ダンジョンの制覇も夢じゃねぇと思ってる」

 レベル9ダンジョンの制覇なんて、ここ100年以上ないことだ。レベル8ダンジョンを単独で制覇できる“雷導”や“悪食”も、レベル9ダンジョンの制覇はできていない。噂では、何度か挑戦しては失敗しているらしい。努力し続けた本物の天才でも突破できない難攻不落の魔境。それがレベル9ダンジョンだ。

 そんなところをオレが制覇できるわけがねぇ。だというのに、オレを真っすぐ見つめるオディロンの瞳には、本気の色があった。

『どうして貴方がそこまで自分に対して卑屈なのかは分からないけど、冒険者ギルドは、周囲の冒険者は貴方を認めているのよ?』

 不意にイザベルの言葉が頭を過る。まさかな……。オレのことを認めているのは、せいぜいオディロンくらいだろう。

「……それこそ、買いかぶりってやつだ」

「はぁー……」

 オレの言葉を聞いて、オディロンは深い溜息と共にゆっくりと首を横に振った。

「ふーむ……。俺様の言葉でも、お前さんを本気にすることはできないか……。お前さんが本気になるのは、いったいいつなんだろうな……」

「………」

 オレはいつでも生き残るために最善を尽くしているつもりだ。言ってみれば、ダンジョン攻略中は常に本気。手を抜いた覚えなんて無い。

「まったくもって惜しい限りだぜ……」

 そのハズなんだが、オディロンから見ればオレの本気は本気には見えないらしい。まぁ、戦闘系のギフトを持つオディロンから見れば、戦闘系のギフトを持たないオレの本気なんて、所詮はそんなものなんだろう。まったく、オレも【収納】なんてギフトじゃなくて、戦闘系のギフトが欲しかったよ。ままならんものだな。

「俺様が言っても仕方ないか。んで? ひよっこどもの情報だったな。何が欲しいんだ?」

 そうだった。最初は、若手冒険者の動向が知りたくてオディロンに声をかけたんだったか。

「そうだな……」

 オレは求めていた情報を手に入れるために口を開いた。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?