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第17話

「ふぅ……」

 マクシミリアンが去った後、オレは胸に溜まった重いものを吐き出すように溜息を吐いた。まったく、嫌な奴に会っちまったな。おかげでオレのテンションはもう下がらないってくらい低くなっちまった。もう宿に帰って、そのまま寝ちまいたい。

 だが、そう言ってもいられない。何の因果か、オレは『五花の夢』のパーティリーダーになっちまった。パーティの方向性を決め、実際の行動計画を立てなくてはならん。そのためにも、最新のダンジョン情報は必須だ。

 オレは、レベル6やレベル7のダンジョンの情報は最新のものを持っているが、低レベル帯のダンジョンの情報は古いまま更新されていない。無論、ダンジョンの攻略法やモンスターの強さや傾向、罠の位置など、基本的な情報は分かっている。問題は、ダンジョンを攻略しようとする冒険者たちの動向だ。

 極端な話だが、1つのダンジョンに大量の冒険者パーティが攻略に訪れると、ダンジョンの攻略自体は簡単になるが、モンスターやボスの奪い合いが生じて、効率よく稼げないし、ギフトの成長効率も悪い。少数のパーティ、もっと言えば、自分たちのパーティだけでダンジョンを独占するのが理想だ。

 中堅以上の冒険者パーティは、お互いに情報共有したりして、攻略するダンジョンや攻略日がバッティングしないように調整しているのが普通だ。しかし、初心者にはまだそのような配慮はまだできない。攻略するダンジョンが重なり合い、バッティングの嵐だ。特に稼げると有名なダンジョンほど、その傾向は顕著になる。

 最新の新米冒険者の動向を調査して、ダンジョンの混み具合を調査しないとな。そして、その結果からオレたちが攻略するダンジョンを選定しないといけない。

 『五花の夢』としてのダンジョン攻略は、明後日と決まった。後はダンジョンを選定すりゃいい。今日で大まかに新米冒険者の動向を確認して、最終的な決定は明日でもいいだろう。

 面倒なことは、さっさと済ませちまうか。

 そう思い定め、一歩踏み出そうとして、目の前の少年のことを思い出した。まだ名前も知らない濃い金髪の少年。彼は、オレに背を向けて小刻みに震えていた。

「おい、大丈夫か?」

「ッ!?」

 少年の肩に手を置くと、彼は弾かれたようにオレの手を払って振り返る。その顔は驚愕に固まって血の気がなく、蠟のように白くなっていた。

「あ、わりぃなおっさん……」

 素直にオレの手を弾いたことを謝る少年。きっと無意識だったんだろう。

「構わねぇよ。こっちも悪かったな。アイツとは長い付き合いだが、お互い相手のことが大嫌いでな。すぐオレにちょっかい出してくるんだ」

 位置関係上、オレとマクシミリアンに挟まれてしまったのが少年だ。マクシミリアンの圧を真正面から受けて、気圧されてしまったのだろう。

「アイツ……。おっさん、さっきの人って……?」

「レベル8冒険者、マクシミリアンだ」

「あれが……レベル8……ッ!」

 少年が未だ白い顔を強張らせて呟く。マクシミリアンの奴にはカリスマというか、オーラというか、妙な威圧感があるからな。それに当てられたのだろう。

「チッ。レベル8がそんなに偉いかねぇー」

「んだんだ」

「レベル10になってから言えってんだ」

 マクシミリアンの姿が消えてしばらく経ち、ようやく冒険者たちが沈黙を破り、ガヤガヤと冒険者ギルドに活気が戻ってきた。

 まったく、この大人数の荒くれ者どもを制しちまうとはな……。オレは改めて自分とマクシミリアンの力の差を思い知らされ、なぜオレがマクシミリアンと同じくレベル8に認定されているのかが分からなくなる。

「はぁ……」

「「ギュスターヴ!」」

 力なく溜息を吐くと、目の前の少年と同じくらいの年頃の少年たちが、こちらに向かって走り寄ってきた。目の前の濃い金髪の少年も、片手を上げて彼らに応えている。察するに、この少年のパーティメンバーか。

「てめぇ、顔が真っ白じゃねぇか!? 大丈夫か?」

「ったく。無茶しやがって」

「あのー……ウチのギュスターヴがいきなり申し訳ありません」

「失礼しましたアベルさん」

 少年ギュスターヴに駆け寄ったのは、4人の少年たちだ。ギュスターヴを入れて人数は5人。丁度パーティに1人空きがあるからオレを誘ったのだろう。

「なぁに構わねぇよ。こっちこそ、せっかくの誘いを蹴っちまって悪いな」

「いえいえ、とんでもないです」

 パーティの仲間に会えたからか、ギュスターヴの白かった顔が次第に色付いていく。もうすっかり元のヤンチャそうな少年の顔だな。

「ギュスターヴだったか?」

「あ、ああ。オレがギュスターヴだ」

 オレはこちらを見た少年の緑の瞳を真っすぐに見て口を開く。

「さっきのマクシミリアンの言葉を真に受けるなよ。お前には、お前を気遣ってくれる大切な仲間が居る。絶対に捨てるんじゃねぇぞ。仲間との絆を」

 ギュスターヴは深く頷き、オレを睨みつけるような意志の強さを感じさせる緑の瞳を輝かせて言う。

「おっさんに言われなくても分かってるっての。ぜってぇー見捨てねぇー」

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