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第7話

「オレのことは7人目でも、単なる荷物持ちみたいな扱いでもいいからなー!」

 ドアを開けて、今にも駆けだしそうなクロエにそれだけ伝える。オレの目的はあくまでクロエを護ること。べつに無理してまでパーティメンバーにならなくてもいい。

 クロエたちはまだ初心者のパーティだ。たぶんマジックバッグを持っていないだろう。オレの【収納】のギフトでも役に立てるはずだ。そのあたりから説得すれば、最悪でも7人目としてクロエたちのパーティに付いていく許可くらい貰えるだろう。

「叔父さんならきっと大丈夫よっ! まっかしといてー!」

 ドアを閉めながら、顔だけ出したクロエがニッコニコの笑顔で答える。なんだか嬉しくて堪らないような笑顔だ。なにかいいことでもあったのか?

 オレのそんな疑問をよそに、クロエはドアを閉め、軽い足音を立てて駆けていくのが聞こえた。べつに急ぎの用じゃないから走らなくてもいいのに。

「どうなると思う?」

 パーティメンバーになれる確率は、たぶん3割も無いだろう。そんな諦めの心と共に姉貴に問いかけると、姉貴がさっきのクロエみたいな笑顔を浮かべて言う。

「大丈夫よ。皆いい子たちだもの。きっと、あんたを歓迎してくれるわ」

「そうかねー……」

 さすがの姉貴の言葉にも頷きがたいな。オレは姉貴に肩をすくめて答える。

「走っていったのなら、きっとすぐに帰ってくるわ。それまでワインでも飲んで待ってなさい」

「おう」

 すぐに帰ってくる……ね。たぶん、近くに住んでるお友だちでパーティを組んだのだろう。少し、パーティ編成が気がかりだな。

 そんなことを思いながら、オレは姉貴からコップを受け取ると、チーズを摘まみながらチビチビとワインを飲んでいく。クロエが戻ってきたのは、コップのワインが丁度無くなる頃だった。

 ◇

「アベル叔父さん早く早くっ! もうみんな集まってるよっ!」

「あぁ、分かった。分かったから引っ張るなって」

 オレは、はしゃぐように上機嫌なクロエに手を引かれて歩いていく。連れられてきたのは、井戸のある広場みたいな所だった。井戸の周りには、近所の奥様方がペチャクチャ世間話をしながら洗い物やら洗濯に精を出しているのが見える。朝食も終わって、朝の仕事前のお片付けってとこだろう。もうすぐ姉貴も姿を現すはずだ。

 そんな中、広場の端の方に若い女の子の集団が見える。若奥様って呼ぶにもまだ若い連中だ。クロエの足はそちらへと方向を変えて、オレを連れて歩いていく。たぶん、あの娘たちがクロエのパーティメンバーなのだろう。数も丁度4人だ。

「みんなお待たせー!」

 クロエが片手を上げて挨拶すると、向こうも手を振ったりしながらクロエを歓迎する。

 オレは、柄にもなく緊張していた。オレにとって、若い女の子ってのは理解が難しい生き物だ。なにが原因で嫌われるか分かったもんじゃない。どういう態度で接するのが正解か、まったく分からない。

「おかえりクロクロー」

「待ったと言うほどでもないわ」

「ぉか、ぇり……」

「クロエ、来ましたわねぇ。そちらの方が、そのぉ……」

 4人の少女たちの視線を真っ向から受け止める。ふむ。見たところ嫌悪の情を浮かべている奴はいないようだが……さて、これからどうなるか……。

「そうよ。あたしの叔父さんっ! アベル叔父さん、この4人があたしたちのパーティー『五花の夢』のメンバーよ」

 クロエがクルリとオレの方を向いて、腕を広げてみせる。まるで大事な宝物を紹介するような、誇らしさがその笑顔から見て取れた。いい笑顔だな。このクロエの笑顔が曇ることのないように。オレはそう願わずにはいられなかった。

「……クロエから聞いてるかもしれねぇが、オレがクロエの叔父のアベルだ。“さん”付けなんて変に畏まったりせずにアベルって呼んでくれ」

 オレは、少し考えたがいつも通りの調子でいくことにした。変に猫かぶっても、いつかボロが出るだろうからな。一緒に命の危険があるダンジョンに潜ることになるんだ。格好つけてる余裕なんて無い。

「あーしは……」

「私は……」

「わたくしは……」

 自己紹介する順番を決めていなかったのか、3人の少女の声が重なって聞こえた。

「あら、そうねー……右から順番に紹介していくわね。まずはジゼル!」

「あいっ!」

 クロエの名前を呼ばれて勢いよく手を挙げて返事をしたのは、燃えるような赤い髪をポニーテールにした少女だった。大きな緑の瞳がキラリと意志の強そうな光を放っている。非常に活発な印象を受けた。

 ジゼルの服は、少しきつそうなくらいのパツパツのミニスカートワンピース姿だ。言っちゃなんだが、小さい服を無理やり着てる感じだな。ワンピースにも繕った跡があるし、財政的に苦労しているのかもしれない。なぜか、腰にベルトを巻いて剣を佩いているが、その剣も安物だ。

「あーしがジゼルだよっ! よろしくね、アベルン!」

「ほぅ」

 たしかにオレは敬称など必要ないと言ったが、まさか一発目であだ名呼びしてくるとは思わなかった。このジゼルという少女、面白いな。

「よろしく、ジゼル」

 オレはジゼルに右手を伸ばすと、ジゼルは躊躇うことなくオレの手を取って握手した。やはり気が強い女の子だ。

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