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第66話 閑話 密やかな誓い

 マジで痛かった……。


 鼻のあたりを押さえながら思う。


 腫れも引いて、殴られた形跡が見られないくらいもとに戻っているが……。

 実は鼻の骨が折れていたとは言えない。



 あいつのすべてを俺が奪ってやると思っていたが、あれだけ強くなったんじゃあ逆に奪われそうだな。


 苦笑いを浮かべたが、それも悪くないかもしれないと思う。


 聖良が俺以外の誰かのものになるなんて考えられない。

 あいつに男が近づいただけで狂おしいほどに嫉妬する。


 でも、俺があいつのものになればそんな嫉妬もどうでも良くなるんじゃないかと、儀式を終えた今なら思う。



 俺が聖良を独占するんじゃなく、聖良が俺を独占する。


 それはある意味、とても気分が良かった。


 聖良が俺を独占したいと思うなら、俺はただあいつの近くにいればいいだけ。

 聖良が他の誰も見ないように、そばに引っ付いていればいいだけだ。



 想っても、返されることのないものだと思っていた。


 だが、聖良は同じ想いを返してくれた。


 それがどれほど嬉しかったか、あいつは知らないだろう。



 あれだけ大事に思っている妹と離れることになっても、俺を選んでくれた。


 他の何と引き換えにしても、俺を選んでくれた。



 そんな聖良を……俺は全てを掛けて守ろうと思った。


 ――なのに。



 シェリーに血を吸われた聖良を思い出すだけで胸に激痛が走る。


 青白い顔で、哀し気に微笑もうとする聖良の顔が蘇り心臓が凍りつきそうになる。



 あのまま聖良が冷たくなっていたら、俺は慟哭し心を凍らせただろう。


 その後は復讐に生きるか、感情を持たない人形になり果てるか……。

 何にせよ最後は聖良の後を追う事しか考えなくなっただろう。



 本当に、生きていてくれて良かった。


 聖良は、その存在そのものが俺の生きる理由なんだと実感したのだから。



 だからこそ、今度こそ守りきる。


 聖良は俺の全てなんだから。



 そういう意味でも、従者という立場は丁度良いのかもしれないと思う。


 血の契約により、無意識の上でも主を守ろうとするのが従者だ。

 今度こそどんなミスもしたくない。

 契約は、聖良を守るための補助にもなる。


 それに、契約がある以上聖良の側にいても表立って文句を言うやつはいないだろうしな。



 純血種の血を受けて俺より強くなってしまった聖良だが、今後もあいつを狙う吸血鬼がいないとは限らない。


 聖良自身をというより、あいつが持つ力が欲しいだけの連中。


 そんな奴らに渡してたまるか。


 聖良は――俺の“唯一”は、俺だけの女だ。


 誰にも渡さない。


 あの田神とかいう教師にも、月原家にも……死神にさえも。


 俺と聖良を引き離そうとするすべてのものから守ろう。



 ただ一人の存在を主として契約した日の夜、一人になった部屋で俺は密かにそんな誓いを立てた……。

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