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第43話 デート一日目 前編

 何だかんだと色々あったけれど、特に私が何かを準備するような事はなくて、田神先生やみんなでデートの日取りや割り当てなどが決められていく。



 いや、私に決めろと言われても困るからそれはそれで良いんだけれど……。


 でもやっぱり当人そっちのけで決められていくのは気分の良いものじゃない。



 そんな感じに不満に思ってはいたけれど、結局口を出すこともなくデートの日になってしまった。



 デートは三日がかりで行うらしい。


 一日目の午前は言い出しっぺの浪岡君。

 午後は俊君。


 そして二日目の午前が忍野君で、午後が田神先生。



 鬼塚先輩とのデートはその次の週だとか。




 ……私に休む時間はないのか。


 文句を言いたいところでもあったけど、決まるまで何の口出しもしなかった私にも責任はある。


 一応午後三時くらいには解散ってことになってるから、それほど時間を縛られるわけじゃないけど……。



「ねえ嘉輪。やっぱりこれってハードスケジュールじゃない?」


 デート初日の朝。

 私は悪あがきのように途中まで付き添ってくれている嘉輪に愚痴っていた。



「一人二時間ちょっとくらいで、一日五時間。私その間ずっとアピールされなきゃないの?」


「まあ否定はしないわね。でも決まっちゃったんだからやるしかないでしょう。護衛の調整とか、今からやるわけにもいかないでしょ?」


「うっ」



 その通りだった。


 一番心苦しいと思っていたのはそのことなので、今からさらに迷惑をかけるわけにはいかない。



「それにいくら何でも時間中ずっとアピールされ続けるわけじゃないでしょ? 買い物したり、ごはん食べたりするんだから」


「まあ、そうだよね……」


「案外楽しめるかもしれないでしょ? 気負わずに行きなさいよ。浪岡君達だって聖良に嫌々デートして欲しいわけじゃないでしょ?」


「そう、だね……」



 私も別に浪岡君達が嫌いなわけじゃない。


 ただちょっと、気持ちに応えられないのが心苦しくなってるだけ。



 だからと言ってはじめから嫌々な態度は良くないよね。



「うん。とりあえず、楽しむつもりで行ってみるよ」


「そうそう」


 笑顔で背中を押されて、私はやっと気持ちを切り替えることが出来た。



 嘉輪に相談出来て良かった。


 私自身の気持ちの問題もあるけど、あのまま待ち合わせ場所に行ってたら浪岡君に嫌な思いさせてしまうもんね。



 そうして待ち合わせ場所であるデパート前の公園についた。


「浪岡君、お待たせ」


 すぐに浪岡君の姿を見つけた私は小走りで近づく。


 掛けた声に気づいた彼は、私の姿を見てふわりと笑った。


「っ⁉」


 とても嬉しそうな表情にドキリとしてしまう。



「聖良先輩、来てくれてありがとうございます」


 そうお礼から始まった浪岡君は、嘉輪と護衛を引き継ぐような会話をする。



「じゃあ楽しんできてね」


 嘉輪は一応この近くには待機してくれるらしい。

 でも、デートという名目がある以上近くで護衛ってわけにもいかないみたい。



「じゃあ行きましょうか、聖良先輩」


 嘉輪と別れると、さっそく浪岡君がそう言って私の手を掴んだ。


「え?」


「……嫌じゃなければ、今日はこのまま手を繋いでいても良いですか?」


「うっ……!」


 少し小首をかしげて申し訳なさそうに言われて、私は拒めなかった。



「い、良いよ?」


「ありがとうございます」


 そうしてまたふわりと笑顔が返ってきた。



 ドキッと、する。


 でも……。



 異性に対するものっていうより、可愛い後輩に対してって感じなんだよね……。



 浪岡君は異性として見てもらえるようにって言っていたけれど、それはちょっと難しそうだと思った。


 でも浪岡君とのデートは無難にショッピングで、お互いに丁度必要だったものを買って終わる。



 何かアピールされまくるんじゃないかとデート前に身構えていた私はちょっとホッとしたんだ。


 でも、そんな私の考えは見透かされてたんだってランチのときに知った。



 パスタ専門店でキノコの和風スパゲティをくるくるフォークにからませていると、浪岡君が何でもないことのように話す。


「やっぱり僕のことは男として見れませんか?」


 責めているわけでも、悲しそうに落ち込んでいるわけでもない。

 ただ事実確認のように聞かれた。



「……うん、ごめんね」


 答えを迷ったけれど、ここで曖昧なことを言う方がこくだろう。

 そう思って事実を口にする。


「謝らないでください。……別に僕のことが嫌いなわけではないんでしょう?」


「それはもちろん!」


 そこだけはハッキリ言っておく。



 男として見れなくても弟みたいには思ってる可愛い後輩だ。


 私や愛良のことを守ろうとしてくれているし、前の学校にいたときから護衛としてお世話になってる。


 嫌いになんてなるわけがない。



「じゃあこの際なので、僕のことどう思ってるか色々聞かせてください」


 そう言ってニッコリ笑った顔はなぜか少し黒く見えて……。


「う、うん」


 拒否する理由もなかった私はそう返事をした。



 そうして、もう本当に事細かな部分まで質問される羽目になった。


 弟のようにと言うけれど、本当の血のつながった弟のようになのかとか。


 浪岡君にしてもらったことで嬉しかったことだとか。


 逆に嫌だと思ったことだとか。



 本当に色々。



「うーん、もういい? 流石に疲れてきたんだけれど」


 デザートも食べ終わり、質問に答えるのも大変になってきた。


 浪岡君に対してキュンとしたことあるかなんて、もう分からないよ。



「あはは、すみません。でも色々聞けて良かったです」


 浪岡君はそう言って質問攻めを終えてくれた。



「そっか、なら良かった。……本当は何か色々とアピールされるんだと思ってたから、ちょっと驚いたよ」


 まさかこういう質問攻めで来るとは思いもしなかった、と話す。



 すると、浪岡君は困り笑顔で口を開いた。


「色々アピールしようと思ってましたが、聖良先輩の負担になりそうだったので……」


「っ……そっか……」



 はじめから見抜かれてたんだね。


 申し訳ない気持ちもあるけれど、私のことを思ってアピールするのを諦めてくれたその優しさに胸が温かくなった。



 浪岡君のことは異性としては見れない。


 でも、可愛い後輩で……一人の人間として好きだなぁって思った。


 あ、人間じゃなくて吸血鬼だけど。


 そんな浪岡君に少しでも何か応えてあげたいと思う。


 彼に恋をするのは無理でも、彼の望むことに対して少しでも応えてあげたいって。



 だから、ふと思いついたことを口にしてみた。



「あ、じゃあさっきの質問の答えくらいは話すよ」


「え? 僕にキュンとしたことがあるかって質問ですか?」


 答えが返ってくるとは思わなかったんだろう。

 浪岡君はちょっと本気でビックリしていた。


 それもそうだ。

 さっきさんざん悩んでも出てこなかった答えなんだから。



「うん。ちょっと思い出したから……」


 でも、キュンとしたってことになるのかな、あれ。



 そう思いつつも私は話し出した。



「今日待ち合わせ場所についたときさ、浪岡君私を見て嬉しそうに笑ってくれたでしょ? あのとき実はちょっとドキッとしたんだ」


 キュンとしたってのとは違うかもしれないけれど、と一応付け加えておく。



「そう、なんですか?」


 少し驚いた風の浪岡君はそのまま顎に指を当てて何かを考えるそぶりをする。


 私はまだ少し残っていた飲み物を飲みながら、浪岡君の様子を見ていた。



 少しして視線を上げた彼は、私と目を合わせるとニッコリと笑う。


 その顔は純粋に可愛いとは思えないような笑い方で……。



「分かりました。これからはそういう方向でアピールしていきますね」


 良く分からないけれど、そんな風に宣言されてしまった。



 ……あれ?

 もしかして私余計なこと言っちゃったのかな?



 自分の首を絞めたような気分になって、私はゴクリと唾を飲み込んだ。



***



 何はともあれ、浪岡君とのデートはこれでおしまい。


 食事を終えてレストランから出ると、次の相手である俊君が待っていた。



「聖良先輩、お疲れ様です。ここからは俺と交代ですからね」


 そう告げると、浪岡君とつないでいた手をやんわりと外され今度は俊君と手をつながれた。


 しかもこのつなぎ方は……。



「俊先輩⁉ それはずるいんじゃないですか?」


 私が何か言う前に浪岡君が反応する。


 でも俊君は飄々ひょうひょうとそれを受け流した。



「ずるい? 今からは俺と聖良先輩の時間なんだから、将成には関係ないことだろ?」


「っ! で、でも聖良先輩だって嫌がってるんじゃないんですか?」


「そうかな? どうですか? 先輩」


 俊君はそう言いながらつないだ手の指をさらに絡ませてくる。



「っ!」


 その指の動きが何だか妖しくて、答える前に息を詰まらせた。


 だって、俊君はいわゆる恋人つなぎをしていたんだから。


 私は自分がどんな顔をしているのか良く分からなかった。

 変な顔してるってことは確実だけれど……。



「嫌って言うか……とにかく恥ずかしいんだけど……」


 正直に告げると、俊君はニッコリと笑う。


「じゃ、大丈夫ですよね? このままでも」


 そうしてその恋人つなぎのままで歩き出そうとするから流石に慌てた。



 恥ずかしい=やめてって意味で言ったつもりだったけど、ハッキリ言わないのをいいことにそのままでいようとするなんて!


 いつも以上に強引な俊君に、久々に文句を言いたくなる。



「ちょっ、待っ! 恥ずかしいから離して!」


 とにかく言わないとやめてくれないと思ってハッキリ告げた。



「そうですか? 残念」


 悪びれなくおどけて言う俊君に、前の学校で鈴木君に告白されたときのことを思い出す。



 あのときも私の意見なんて関係なく思わせぶりな態度を取ったりして。

 そのせいで次の日は朝から散々だった。



 そうだった!


 俊君ってこういう人だったよ!



 城山学園に来てからは直接的な関わり合いが少なくなったのもあったし、周囲の目もあるからなのか大人しくなってたけど。


 俊君って、ちょっとチャラめでへらへらしてる人だった。


 そして、腰を抱いたりして距離が近い人。



 一時期私が男の人を怖がるようになってたから控えてたのかな?

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