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第42話 デート準備

 何だかんだと良く分からないうちに、鬼塚先輩とのデートも決まって日取りなども決まって行く。



「……お姉ちゃん、大丈夫?」


 あたしの意志は? と聞きたくなる状態にしょっちゅうため息をついていたら愛良に心配されてしまった。


 護衛も増えて身動きが取りづらくなっている愛良。

 ストレスが溜まってるのは愛良も同じだっていうのに心配かけちゃうなんて……。


 姉として情けない。



「大丈夫だよ。ちょっとうんざりしてるだけだから」


「まあ、みんなちょっと性急だものね。急ぎたいのも分かるんだけど」


 そう言ったのは嘉輪だ。



「早く決めてもらって、聖良先輩にも血婚の儀式をしてもらいたいんでしょうね」


 その方が安全だから、と瑠希ちゃんが続ける。



 今は久々に地下の温泉に向かっているところだ。


 あたしが色々うっぷんをため込んでいるのは田神先生も気づいたんだろう。


 少しでも気晴らしになるなら、と温泉へ入る許可を出してくれた。



 今まで危険だからって理由で許してもらえなかったしね。



 一度あたしが血を吸われてから、“花嫁”の血にV生が反応してしまうという理由で共同の場所は使わない様にしていた。


 でも、あれからしばらく経つし前ほど極端な反応はされなくなってきた。



 それでも念のためって感じだったけれど、護衛付きならいいかなと言ってもらえた。


 おかげで今日は少し気分が向上している。


 まあ、それでも憂鬱な気分は完全に晴れるわけじゃないからため息はつくし心配もされちゃうんだけどね。



「……まあ、色々思うところはあるけど今は温泉! 今週の週替わり風呂はリンゴって聞いたから楽しみなんだよね!」


 ちょっと無理やりな感じはあるけれど、今は純粋に温泉を楽しもうと思った。




 そうして以前と同じように胸の大きさを瑠希ちゃんにうらやましがられながら温泉に入る。


 楽しみにしていたリンゴ風呂に嘉輪と浸かっていた。



「はぁ~……香りもいいし、癒される……」


「ふふっ、聖良って本当に温泉好きよね」


「だって気持ちいいじゃん~」


 もはやとろけそうな気分で受け答えしていた。



「……」


 しばらく無言で温泉を堪能たんのうしていると、嘉輪にジッと見られていることに気づいた。


「ん? 何?」


「え? あ、いや……なんでも」


 目をそらされていぶかしむ。



「気になるでしょう? 言ってよ」


「いや、多分聞かない方が良いと思うよ?」


 さらに目をそらされる。



 このとき嘉輪の言う通り聞かなければ良かったのかもしれない。


 でもあたしは久々の温泉で気分が良かったこともあって、つい聞いてしまった。



「いいから言ってよ」


「えー……」


 嘉輪はまだ渋ったけれど、あたしが重ねて聞くものだから渋々答えてくれた。


「……首」


「ん?」


「首のキスマーク、消えて良かったなって思ってただけ」


「⁉」



 首のキスマークといったらあれしかない。


 というか、あたしにキスマークなんてつけたのはあいつしかいない。



 岸がつけた、執着の証。



「な、な、な」


 嘉輪には見られていなかったはずなのに何で知ってるの? と聞きたいのに初めの“な”の文字しか口から出てこない。



「ごめんね? 正輝から聞いてたの。また男の人怖くなったらどうしようとか思ってたけど、怒りの方にシフトしているみたいだからまだ良かったなーって」


「っ~~~!」


 もはや言葉が出てこない。


 聞かなきゃ良かったと後悔しても遅い。

 聞いてしまったからにはどうしたって思い出す。



 岸の執着の痕も消えて思い出すことはほとんどなくなったはずの記憶。


 あのキスマークをつけられていたときの溶けていく思考。

 湧き上がってくる得体の知れない熱。


 それらが瞬時に思い出されて……。



「ちょっと聖良? 大丈夫? 顔すごい真っ赤よ?」


 のぼせたんじゃない? と心配する嘉輪に、そうかもしれないと返してあたしは先に温泉から上がった。


 脱衣所に戻って服を着て、扇風機に当たりながら熱を冷やす。



 痕が消えてこのまま忘れられると思ったのに、少し話題を出されただけで思い出しちゃうなんて……。


 やっぱりあのにやけた顔をぶん殴りでもしない限りこの熱は収まらないんじゃないだろうか?



 ……そうだよ。


 きっと、色んなことされて怒ってるんだ。


 その怒りから来る熱なんだよ。



 そうしてまた怒りに気持ちをシフトする。




 このときのあたしはまだ、熱の正体を突き止めたくなくてそう考えていた……。


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